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『Wish』 感想

ディズニーの「夢を持ち続けよう」というメッセージが籠った映画

 まずこの映画で驚かされたのは、18歳になったら夢を国王に預けて忘れて楽になるというSFのような設定。「なんでみんな抵抗なく自分の夢を預けられるのだろう?」と思いつつも、たしかに夢に本気で向き合わなければ、叶えられない自分にがっかりすることもないし楽かもな、とも思って一旦納得。
 でも、やはりディズニー映画が夢を忘れることを許容することはなく、夢を王様に預けてしまった友達は、気力を失い、周りから「退屈な奴になっちまったな」と野次られる。話の本筋は、主人公のアーシャがこの国王から国民の夢を取り戻すストーリーに向けられる。
 実にディズニーらしい。ディズニー100周年を彩るのに相応しいテーマだった。『Wish』は、「ディズニーは、今後もずっと『夢を持ち続けよう』というメッセージで映画を作り続けます」というステートメントを表現するための映画だったのだと思う。映画の本編上映前にはディズニー100周年記念作品の『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』が追加上映された。この短編映画は、ディズニーの過去作品の総勢543ものキャラクターがカリフォルニアのディズニースタジオの中で現実の世界に出てくるという作品なのだが、作中、ミッキーが社内に飾ってあるウォルト・ディズニーの肖像画に深々とお辞儀をして、「ありがとう。これからもショーを続けていくよ」と話した。まさにこの夢をテーマにしたショーを100周年を迎えたディズニーはこれからも作っていくというのが、本作品のステートメントなのだと感じた。
 一方、メッセージははっきりしていたものの、ストーリーのプロットはもう少し具体性というか、物語に入り込めるような深い設定が欲しかったと感じてしまった。物語の最終盤は、「悪に覚醒した王様に夢を吸い切られて誰もがエネルギーがなくなった絶体絶命の場面で、急にみんなの胸から黄色く光る(吸い取られていたはずの)夢パワーが発せられ、そのパワーで王様を倒す」という話なのだが、このよく分からない感には正直辟易としてしまった。キャラクターの深掘りもあまりなく、メインマスコットキャラクターの星形の生物の名前はそのまんま「スター」らしい。こいつの出自や正体も最終的にはよく分からないまま終わってしまった。1時間半という最近の映画にしてはかなり短めの尺だから仕方ないのかもしれないが、それでも同程度の尺の『アナと雪の女王』の方が物語がギュッと詰まっていて満足感が高かった印象がある。「夢を追う」というテーマは普遍的に共感できるテーマではあるものの、イメージしやすく、深掘りをしない限りは陳腐なものになりやすい性質がある。本作の語る夢の深さは、東京ディズニーシーの海底2万マイル程度のものだった。


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