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詩集 あいうえお

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タイトルあいうえお順に詩を作っていきます。
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2014年11月の記事一覧

温かい卵の中
柔らかな繭の中
ひとりはすき
揺れるのはすき

殻の外は寒いし
息をするのはあまりすきじゃないし
しっかりと立つことはむずかしい

ただここで会えたその人の
眼の奥を覗けたことと
手が私に触れたこと

殻の中でなくてよかったことがあったと

オルガン

あの曲弾いてよ
ぼふぼふ 足ぶみ
私がするから

あなたは忘れてて
鍵盤の上で踊ってて

私がずっとずっと
鳴らなくなるまで
働くから

あなたはそこで聴かせてて

永久歯

メロンパン
三日月 半月 新月

乳歯の欠片を道標に
お菓子の家を探す

大人の歯が生える森を
走って潜り抜けろ
ついばむ鳩は歯を溶かして
お菓子の家は未だ見つからず

売り言葉

ギザギザの吹き出しに
投げやりに1の目しか出ないサイコロ

後に引けない暴れる文言
ドキドキ高鳴り回るくち

売り言葉、買ってよ
あげないよ

売り言葉、買ってよ
いりませんか

だれか
売り言葉、いりませんか

いるか

笑っているね、いるか
きれいな声で

海より青いプールの壁を
くるくる回って、

踊って見せて、いるか

抱きしめられないのは
その美しいかたちのせいだ

不恰好な私たちは
そんなことしか思いつかない

笑っていてね、いるか
ずっと私は、あなたがすき

雨脚

頭痛予報を嗤うよう
雨脚はさくさくと
屋根を踏み

重い雲から
憑き物を落とし
傘を鳴らし
私を避難させた