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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied⑬

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

13曲目はヴォルフのメーリケ歌曲集の中から♪ …ひとかけら、届くかな?

ヴォルフ Wolf:おばあさんの忠告 Rat einer Alten
               ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

私にだって若い頃もあったから
ちょっと言わせてもらうよ
なんたって歳をとったのだから
私の言う事は確かだよ

美味しく熟した野いちごが
木になっているけど
ねえ、お隣さん 庭に巡らした柵なんて
何も役に立たないよ
陽気な鳥たちは
抜け道をよく知っているからね

でもね、お嬢さん
よーく、おきき
あんたの恋人をしっかりつかまえておくんだよ
たくさん愛して
たくさん尊敬してね

この二つの糸を
一つに縒り合わせて
小指にしっかり
結んでおくんだよ

素直な心で
でも余計なことは言わないで
お日様と一緒に早起きして
仕事に精を出して
丈夫な身体で
清潔な肌着で…
それが娘っ子の
女ってものの値打ちを決めるのさ

私にだって若い頃もあったから
ちょっと言わせてもらうよ
なんたって歳をとったのだから
私の言う事は確かだよ


詩はドイツの詩人エドゥアルト・フリードリヒ・メーリケEduard Friedrich Mörike(1804 -1875)による。

 おばあさんが「えへん、えへんっ」と咳払いをするようなピアノのモチーフで始まります。低い声でぶつぶつと、そう文字通り休符や付点音符を使ってぶつっ、ぶつっと歌い始めるおばあさん。でも次の瞬間には早口で甲高くヒステリックにまくしたてます。時に密やかに耳打ちして…。流石、長年女をやってきているだけあって、様々な声色を使い分けて、説得力たっぷりです。最後には最初の節が繰り返されますが、もうこれは一席ぶってやった感満載で歌われます。
 ピアノの松井理恵さんが面白く書いています、「もし私(アラフォー)から若い子に忠告するとしたら…」と。↓↓↓ 皆さんだったら何と忠告しますか?


もし私(アラフォー)から若い子に忠告するとしたら…

・10代から紫外線対策をしなさい
・中学でちょっと成績良くても調子に乗るな。高校行ったらただの人(←あたし)
・語学を勉強したら、使える場を作りなさい。あっという間に忘れる。
・今の環境で認められようとしなくて良い。世界はもっと広い。

かなぁ

 余談ですが…
この曲を歌う時、「老婆心」という言葉が浮かんできます。「年とった女性が、度を越してあれこれと気を遣うこと」「不必要な親切心」という意味です。そして「老婆心ながら…」というフレーズは「老婆心のような物言いをして申しわけありませんが」という意味で、自分の意見や忠告を言う場合に、謙遜の気持ちをこめた前置きとして年齢、性別によらず使われる言葉だそうです。学生の頃、ドイツ語の先生が詩の解釈の授業で度々使われていました。耳にする度「男の人なのに…」と無知な私は違和感を感じていました。(老婆風に→)もうかれこれウン十年前のことです…。
 この曲の題名も「おばあさんの忠告」でなく「老婆心」としてみても良いかもしれませんね。

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 ヴォルフのメーリケ歌曲集についてはドイツ歌曲の楽しみFreude am Lied⑩の最後の部分を参照にしてください。
https://note.com/utauakiko/n/n2f870613ba03

 ヴォルフについてはドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied⑦の最後の部分を参照にしてください。
https://note.com/utauakiko/n/n6d24566c60d1

 作曲家について知ることは、曲の“生まれ”を知る一つの手段。“生まれ”を知ると、その曲との距離がぐんっと縮まって仲良くなれるのです。​

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