腱板断裂(損傷)で手術をする?しない?専門医による限界解説!
腱板断裂(腱板損傷)と診断されたときに、次にくるのは手術をするかしないかという治療の大きな方向性を決めるということです。この大きな方向性を決めるときに医師によって意見が異なったりして、患者さんが路頭に迷ってしまうケースが少なくないです。そんな方に向けて専門医が徹底限界解説します。
腱板断裂で手術したほうがいいか、しないほうがいいか?
その基準は明確なようで明確ではありません。
だからこそ、医師によって違うことを言われてしまうことが多発しています。
「腱板断裂だけど小さいから薬でいきましょう」
と言われたけど、次の病院では
「手術しましょう」と言われたり、
まさかの、次の病院では
「いや、腱板断裂はないですね・・・」
なんて言われたら、もう何を信じれば良いのやら・・・という状況になって、僕の外来を受診される患者さんも少なくないです
始めまして、歌島大輔と申します。フリーランスの整形外科医として複数の病院で勤務しております。
特に肩関節鏡(肩の内視鏡)手術を専門とし、腱板断裂や五十肩という、肩でとっても多いお悩みをお持ちの患者さんを中心に診療、手術をしております。
こちらのYouTubeチャンネルをきっかけに多くの方に知っていただき、日本全国から肩関節鏡手術について相談に来ていただいています。
腱板断裂についてもたくさんの動画を公開しておりますので、基本的なことについては動画もぜひご覧ください。
よくご覧いただいている3つの動画をご紹介します。
詳しいプロフィールはこちらからご覧ください。
さて、
もし話が癌の手術についてなら、お辛い話ですが、迷うことは少ないかもしれません。手術しないと命に関わるわけですから。(種類・ステージによりますが)
となると、医師もかなり強めに手術を勧めることができます。
しかし、腱板断裂は命に関わらないので、その分、医師の話が曖昧だったりして、
「うーん…手術してもいいけど、しなくてもいいよね」
みたいなニュアンスがヒシヒシと伝わってくる。
特に手術の経験が少ない、自信がない医師ほど、この曖昧さが増す印象です。
「もう何が正解かわからない!!」
と半ばパニック状態に近い状態で受診される人もおられます。
腱板断裂の治療に携わる1人として、申し訳なく思います。
ただ、1つ。
僕も自分の10年近く前を振り返るとわかるんですが、腱板断裂の診断って基本的にはとっても難しいんです。
例えばアキレス腱断裂。
これは整形外科医なら触診すれば10秒で診断できます。
しかし、腱板断裂は精密なMRIをもってしても、はっきりしない腱板断裂があったりします。そして、経験が浅い整形外科医となると、腱板断裂の診断…
要は切れているか、切れていないか。
穴があいているか、あいていないか、
という時点で間違ってしまっているケースも
・・・全然あるんです。
昔の僕も、肩を専門と言いながら、
より経験豊富な先生に
「これ、断裂ですよね?」
とMRIを見せにいったら、
「いや、五十肩だね」
なんて、お恥ずかしいことだってありました。(だからこそ、当時は1人では診断しませんでした)
そんな診断から難しい腱板断裂をより難しくしているのが、手術するか、しないか問題ですから、たった今も日本中で多くの患者さんとご家族が迷われていることと思います。
そこで、この記事では
腱板断裂の手術をするかしないかということについて徹底的に深掘りの深掘りをしていきます。
結果として、
「ここまで考えたんだから、決断に迷いなし!」
と自信を持って言える段階にお連れすることを目指します。
迷いない決断ができれば、その決断がいかなるものであろうと、あなた自身の治療に向かうパフォーマンスもモチベーションも相当に上がるはずです
そして、肩が痛くない、肩が大きく動かせる、やりたい活動(仕事、スポーツなど)が思いっきりできる
そんな状態を目指しましょう!
まさに腱板断裂の手術をしようか悩んでおられる方から、嬉しいご感想をいただきました。
いままで頭の中にあった疑問のモヤモヤがだいぶ取れたように感じます。ここまで詳しく示していただきありがとうございました。素人が納得出来るまで掘り下げていただいて、こんなに素晴らしい記事は世界中探しても無いのではないでしょうか。手術する時は、やはり歌島先生にお願いする事しか考えられません。歌島先生以上に信頼出来る先生に巡り会える事は無いと思います。
ちょっと過分な評価で恐縮しますが、でも、他にないコンテンツというのは自信を持って言えます!
【1】我々医師が学ぶ「教科書」8冊にはなんて書いてある?
CAMPBELL’S OPERATIVE ORTHOPAEDICS 12th. edition
整形外科医のバイブル
As previously noted, partial-tickness rotator cuff tears involving 50% or more of the tendon are often best reparied. The gray area lies in the treatment of 30% to 50% thickness tears, and this must be individualized.
上記をDeeple翻訳で訳すと、
「先に述べたように、腱の50%以上を含む部分的な腱板断裂は、しばしば修復が最善です。グレーゾーンは30%から50%の厚さの断裂の治療にあり、これは個別に行わなければなりません(個々の状態で手術適応を判断するという意味)。」
手術手技書に近い教科書なので手術すべきか否かについての記載は「部分断裂」においてのみで、「完全断裂」は即、手術法の記述に入っていますので割愛します。
今日の整形外科治療指針 第5版
多くの整形外科の外来診察室に常備してある本ですね。
症例の年齢や職業、活動性などで治療方法が選択される。発症当初は保存療法が一般的である。若年者や活動性の高い症例、外傷などで急性に発症した腱板断裂、保存療法で改善が得られない症例には手術療法を選択する。
専門医の整形外科外来診療 最新の診断・治療
これも整形外科治療指針のように外来で参考にするタイプの教科書です。
まず保存的治療を行う。安静や日常生活指導を行うとともに、与薬や注射により炎症や疼痛を軽減する。疼痛が軽減してからリハビリテーションを行う。症状が継続する場合は手術適応となる。
整形外科クルズス 改訂第4版
これは分集めの整形外科教科書です。ちょっとマイナーかもしれませんが、研修医時代はよく読んでいました。
完全断裂では保存的に治療するか手術を行うかを決めるにあたって、①年齢、②疼痛と機能障害の程度、③患者の意欲、の3つを重視するのが良い。70歳以上では手術の適応となる症例は少ないが、鎮痛薬を必要とするような夜間痛があれば手術を考慮する。上肢を挙上して作業をするものは、他の職種より積極的に手術を行う。部分断裂では原則的に3-6ヶ月以上の保存治療を行い、症状が改善しなければ手術を考える。
肩学 臨床の「なぜ」とその追求
肩と言えば東北大学の教授 井樋先生 いつも勉強させていただいております。
保存療法(手術以外の治療)が70-80%の人に有効であることから、まず最初に試みるべきは保存療法である。ただし、棘上筋・棘下筋の機能が明らかに低下している症例では保存療法の効果があまり期待できないので、一定期間経過を見た上で手術の判断を下す必要が出てくる。また、保存療法は一時的に痛みをとる治療であり、断裂はそのまま残っている。
肩 その機能と臨床 第4版
信原病院の信原先生の骨太の著書 一度、遠かったですが見学に行かせていただきました。
Rockwood(1991)は、腱板断裂はすべて手術しなければならないのかと疑問を投げかけている。Marxら(2009)は、全層断裂でも保存療法で治る(歌島注釈:症状が改善するという意味)ものがあり文献で検索すると、ADL障害31%、保存療法で効果のないもの52%、夜間痛16%などで、腱板断裂の手術適応の決定に基準はないとしている。また、Charkravartyら(1993)は65歳以上の健常者100人を調査して、その34%に腱板の損傷があったことから、老人への手術は生活を向上させるものでなくてはならないとしている。これらの識者の意見にも耳を傾けて手術適応を決定しよう。
肩関節外科の要点と盲点 第1版
森澤先生が執筆された腱板障害の「基礎編」に手術適応について記載されています。
腱板完全断裂症例では、多くの症例が手術療法の適応と考えられるため保存療法を長期間漫然と行わない。保存療法が有効と考えられる症例は、1)疲弊性(非外傷性)断裂でこれまでも症状の軽快・増悪が認められた例、2)高齢者で活動性が低い例、3)挙上動作が可能な例などが挙げられる。また、4)十分に説明しても手術療法を受け入れてもらえない症例に対しても保存療法が行われる。腱板不全断裂症例では、その断裂形態や部位、大きさなどの違いで保存療法が有効な例もあるため、一定期間十分な保存療法を行う必要がある。
腱板完全断裂では断裂部分の自然治癒は起こらないと考えられるため、全ての症例に手術適応があると考えられる。特に1)痛みが強く、夜間痛のため睡眠障害をきたす、2)筋力低下があり仕事や日常生活に支障がある、3)腱板の機能不全にともなうインピンジメント徴候が強陽性で運動時痛が著明なもの、4)保存療法で効果が不十分なものなどが適応と考えられる。最近では青・壮年の外傷性断裂は診断確定後、脂肪変性や筋萎縮の予防の観点から早期に手術を行うことが推奨されている。
肩関節鏡視下手術 第1版
肩関節鏡手術の手術手技を解説した教科書です。
手術適応はNSAIDs内服、ステロイド関節内注射、リハビリテーションなどの保存療法を十分行っても改善せずに疼痛や可動域制限が持続し、日常生活、スポーツ活動、就労に障害がある。
1-1)教科書 vs 最新論文
なぜ最初に教科書に書いてあることをお伝えしたか?と言いますと、それは
「すべての基本は教科書」だからなんです。
学校の勉強と同じですね。どんな有用な参考書も問題集も教科書が基本であることには変わりない。
僕が整形外科医になりたての頃、
「こういう病気に対してこういう治療をしました」
という報告をする、症例報告会において、
「最新の論文では・・・」
みたいなことを、さも、正義のように振りかざしていました。
すると、
大先輩の著名な先生方に
『歌島先生・・・教科書にはなんて書いてある?』
なんて、言われたことがあります。
「いや、最新の論文では・・・」
と食い下がろうとするも、
『最新の論文なんてのは、容易に覆る。だから、多くの論文が蓄積された結果できあがった「教科書」を軽視してはいけない。』
とありがたい指導を受けたことを今でも覚えています。
1-2)腱板断裂に関する教科書の記述は・・・
そんな大切な教科書ですが、腱板断裂の手術するかしないかの記述は・・・
どうでしたか?
多くの人が感じたであろう感想は
「ふわふわしているな」
「はっきりしないな」
ってことだったかもしれません。
腱板が断裂してるんだから手術するしかないだろう!というシンプルな話ではないということが、より治療方針決定を難しくしています。
1-3)教科書の決定的な矛盾
ほとんどの教科書に書いてあることをまとめると、
「保存療法に抵抗性の腱板断裂は手術適応である」
ということです。
噛み砕くと、
「薬や注射、リハビリで治らなかったら手術を検討しましょう」
ということになります。
当たり前と言えば当たり前なんです。
ほとんどの怪我や病気、特に整形外科の領域であれば、命に関わらないことがほとんどなので、手術は最終手段という位置付けになります。
しかし、
多くの腱板断裂は
薬を飲んでも
注射をしても
(それが最新の再生医療だとしても)
リハビリテーションをしても、
断裂した穴が塞がることはありません。
むしろ、ゆっくりですが、穴は大きくなっていきます。
にも関わらず、
「薬や注射、リハビリで治らなかったら」というのは
どういう意味なのでしょうか。ほとんど治らないんじゃ、保存療法をやる意味ってなんなんだろう。
ってことですよね。
この疑問はちょっと腱板断裂について調べれば、素人の患者さんでもすぐにたどり着く疑問です。
それにも関わらず、多くの整形外科医はそこをちゃんと説明しません。
いや、
説明できないのかもしれません。
(失礼ですが)
だからこその、この記事です。
これ以降の有料パートではまず
「腱板断裂を手術しなかった場合にどうなってしまうのか?」
これを深掘りしていきます。ここがわからないと、手術するしないを判断できないですよね。
とっても大事な部分から入りますので、興味を持っていただけた際にはぜひご覧ください。
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