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糖尿病性手症候群の原因と治療を徹底解説【ばね指・手根管・デュプイトレン】

「第1位は41.7%という異常に高い数値を示しています。驚きですよね」

今回は、糖尿病に関連する手や指の問題について徹底解説します。
正式には「糖尿病手症候群:Diabetic hand syndrome(DHS)」と呼ばれる病気グループのお話です。

手のしびれ、こわばり、動きの悪さは実は糖尿病のせいかもしれません。

※このnoteでは、整形外科医:歌島大輔が医学的根拠をもとに、わかりやく、かつ実践的な医療健康情報をお届けします。
ときどき出てくる「ふんぞり男」とは、その名の通り、ふんぞり返って態度がデカい患者さんです。


糖尿病で「手のしびれ」や「指のこわばり」!?

ふんぞり男「は?なんだそれ!糖尿病は血糖値が上がっちゃうヤツだろ。この間、検診で俺も注意するように言われたぞ。それが、手?どういう意味だ」

そうですよね。
おっしゃるとおり、糖尿病は血糖値のコントロールが難しい病気ですが、その影響は身体のあらゆる部分に及びます。
特に糖尿病のコントロールが悪い患者さんで整形外科医が治療に難渋するのは、足の病気です。

糖尿病では血管と神経が先端の方から悪くなってくることが多いので、最悪切断することになってしまうことすらあります。
そういう意味で、糖尿病患者さんのフットケアというものが重要視されてきていますが、その一方で、手の問題はそこまで重要視されていない印象があります。

しかし、実は糖尿病が手の病気の原因になることは多々あるんですよね。
それを「Diabetic Hand Syndrome:DHS」と呼ぶそうです。

直訳すると糖尿病手症候群ですね。そのまんまです。
糖尿病と関連して手に症状がでる病気グループみたいな感じです。

この糖尿病手症候群に関する2011年の論文(*1)では、その代表的な4つの病気というか状態を示していて、それぞれの発生頻度を調べてくれています。

発生頻度の多い順に
〇〇41.7%
△△29.4%
□□17.6%
××10.7%
という頻度のようです。
決して少なくない・・・というか、多いですよね。

 ふんぞり男「いや、%だけ言うな、何が何%なんだよ。」 

それをこれから丁寧に解説していきたいんじゃないですか。
待っていてください。

この結果から、糖尿病患者さんのかなりの割合で何らかの手の障害が存在していることが分かります。
手は、食事・着替え・掃除など、日常生活の様々な場面で必要不可欠な器官です。
手の機能が低下することは、生活の質に大きな影響を与えます。

人類が四足歩行から二足歩行になって、前足を手として使えるようになったのが人としての大きな進化ですから、とっても大事なのは言うまでもないですよね。

今回は、糖尿病が手に与える影響として、糖尿病手症候群の頻度順をランキング形式で解説していきます。
予防・治療法についても紹介しますので、最後までご覧ください。

では「糖尿病による手の障害ランキング」を、みていきましょう!

第4位 ばね指

4位は「ばね指」です。
10.7%であり、決して少なくありません。

ばね指というのは、手指の腱鞘炎のことです。
指を曲げた状態から伸ばした際に、伸びなくなったり、急にパンッと戻ってしまう症状のことを指します。
この様子が「バネ」のようだからばね指と呼ばれています。

ばね指と糖尿病の関係は、冒頭で言った「先端の血管と神経から傷んできてしまう」という糖尿病の特徴が強く関係していると考えます。

足も手も、血管と神経の先端ですよね。
神経も血管もとても細くなっているんです。

そして、糖尿病によって手の血の巡りや、神経の働きが少しずつ悪くなってくると様々な病気のリスクが高まってくると考えられるわけです。
ばね指に関して言うと、指の腱と腱鞘をしっかりと理解する必要があります。
詳しくはこちらの動画などもオススメです。


腱というのは筋肉の先端のスジで、骨にくっ付くところです。
手には筋肉自体は少なくて、ほとんどが腱というスジの状態で存在しています。

手の平も手の甲も、腱がそれぞれの指にくっついているので、たくさんのスジが触れると思います。
そして、指を曲げる方の筋肉のスジ、腱がばね指の場所で、手の平の指の付け根あたりなんです。

ここに腱が通っていて、さらに、その腱を覆うように腱鞘というトンネルがあります。
このトンネルが炎症の結果ぶ厚くなり、トンネルを腱が通るときに引っかかるのが、ばね指の始まりです。

治療法としては、運動療法・セルフリハビリがあります。
こちらは、この動画で詳しく解説しています。

ただ圧倒的に即効性が高いのは、腱鞘の中にステロイドを注射することです。
僕の経験的にも、ばね指の患者さんにステロイドを注射すると劇的に症状がラクになるという方がほとんどです。

ただ、数ヶ月でまた痛くなることがあるので、その場合に何回か繰り返すこともあります。
この場合も間隔を空けることが大事と言われています。

頻繁にステロイド注射をすると、腱鞘の中を通る腱そのものが切れてしまうという重大なリスクがあります。
また、ステロイド注射は血糖値上昇のリスクがあるため、血糖コントロールが十分でない患者さんの場合には避けた方が良いです。
最終的には、腱鞘に切れ目を入れる腱鞘切開という手術をすることもあります。
糖尿病による手の障害ランキング 

第3位 デュプイトレン拘縮

3位は「デュプイトレン拘縮」です。
冒頭の論文では、糖尿病の人の17.6%に発生したと報告されてますね。

 ふんぞり男「でゅぴゅ、でゅ、ん?なんだ?」 

デュプイトレン拘縮です。
医者でも言いにくいんですよね。
どのような症状なのか説明します。

デュプイトレン拘縮は、手のひらの手掌腱膜が硬くなってしまう病気です。
特に、小指や薬指に影響が出やすくなります。
カタくなった手掌腱膜に手のひらの皮膚が引っ張られる感じで、どんどん指が曲がってしまってまっすぐに伸ばせなくなるんです。

こんな感じから伸びなくなってしまうのが典型的な症状です。

なぜこのような状態になるのか。
一つの大きな原因は遺伝といわれています。

こちらの記事(*2)では、この病気の発症には61の遺伝的リスク因子が関与していて、そのうちのいくつかはネアンデルタール人から受け継がれたものだというんです。

その結果、かなりの人種差・地域差があるようです。
特に60歳以上の北欧の男性30%以上が、デュプイトレン拘縮にかかるとされています。
このことから、バイキング病と言われたりするようです。
バイキングって北欧の祖先にあたる民族のことなんですね。
今回調べていて初めて知りました。 

ふんぞり男4「は?食べ放題のことだろうが・・・」 

ん〜、まあ、僕もそんな程度の認識だったので、なにもいいませんが。

遺伝性があるということは、ご家族にこの病気の人がいる場合、自分もちょっと注意しないといけないということになります。
症状が進むと、指を曲げたまま固まってしまうので、これが日常生活に影響を及ぼすんです。
例えば、物をつかむのが難しくなったり、手を洗うのも一苦労になったりします。

症状が軽い場合は、リハビリや注射で治療が行われます。
しかし、症状が進んでしまうと、手術が必要になることもあるんですね。

実際に僕も、手の外科の先生と一緒にデュプイトレン拘縮の手術をしたことはあります。
手の平は、手相をみればわかると思いますが、皮膚のしわがいろんな方向に走っています。

これは、手の平の動きが複雑であることを示していて、手術で皮膚を切るときも、切り方が複雑になるのが特徴です。
こんなにしないとダメなの?って思うくらいにジグザグな創になります。

それどころか、重症のデュプイトレン拘縮では皮膚がおもいっきり引きつれて指が伸びなくなっているので、手術後に皮膚を縫おうにも縫いきれないことも起こりえるんです。
そうなると、大変ですよね。

 ふんぞり男「そんなことになる前に治療するだろうが、なんで放置するんだ?」 

まず大きいのは一般的に痛みがないことが多いということですね。
痛くないと多少指が伸びなくても「まぁいいや‥‥‥」となってしまう人もいらっしゃるということです。

また、特効薬と言える薬が現状ではまだないってことも大きいですね。

実はちょっと前までコラゲナーゼという注射薬が使えたんです。
これはコラーゲン分解酵素という薬で、要は硬くなった手掌腱膜を溶かしてくれるという薬だったんですね。

しかし、2020年からアメリカの製薬メーカーから供給が停止されていて、いまだ、この動画を公開するタイミングでは使用できない状態です。

あれ、指が伸びないぞ?
手の平が硬くなっているぞ
と思ったら、早めに医師に相談することが大切です。

第2位 指の関節可動域制限

2位は、指の関節可動域制限です。
29.4%に発生するという報告で、1/3近くと高頻度になってきました。

これは病名ではなく、症状ですね。
指を完全に曲げたり伸ばしたりする動きが制限されるという状態です。

原因は、糖尿病による指の関節周囲の線維化と変性と考えられています。
さらに、そこに浮腫、言い換えると、むくみも重なって動きが悪くなるケースがあります。 

ふんぞり男6「最悪じゃないか!全部の指がそうなってしまうのか?絶望的だ・・・」 

いきなり、悲観ぞり男さんの登場ですが・・
悲観しなくてもいいかもしれない情報もあるんですよ。

こちらの論文(*3)ですが、この糖尿病性手症候群の患者さんを調査した研究です。

96人の糖尿病性手症候群の患者さんのうち、26%の患者さんは特別な治療なく症状がなくなっていたということなんですね。
ですから、放っておいても良くなることもあるというのは朗報でもありますよね。

逆に74%の人は症状が残っているわけですから。

この指の可動域制限については、当然ですが指のストレッチ、体操を毎日行うことで、関節の動きを保つことが大切になります。

具体的には、指をゆっくりと全範囲動かす運動を意識的に行います。
オススメは1日に何回も気がついたらやることです。

ストレッチなどの持続効果の研究はいろいろあるのですが、こちらの2000年の研究(*4)では、30秒の太もも裏のストレッチを4回繰り返したあとの効果が3分しか続かなかったと報告しています。

もちろん、本当に3分ですべての効果が消えてしまうなら、ストレッチは1日に200回以上やらないといけなくなりますが、そこまでではありません。
ストレッチの効果と言っても、測定する方法、項目によって異なりますからね。
でも、そんな極端な研究があるくらいストレッチの効果は長く続くモノじゃないと考えるのであれば、1日に何回もやったほうがいいよなって思いますよね。

さらに大事なのは、日常生活に支障がでる前に指のリハビリを開始することです。
これはあらゆることに共通すると思いますが、重症化してから対策をすると、その対策の効果も減るし、その効果が出るまでの時間も長くかかります。
何事も早め早めというのはそういうことですよね。

第1位 手根管症候群

この第1位、41.7%という異常に高い数値を示しています。
驚きですよね。
これは、手の神経が圧迫される病気で、最も一般的な神経を圧迫してしまう病気かもしれません。

手の親指、人差し指、中指、そして薬指の側面に痛みやしびれが現れるんです。
このしびれの領域が特徴的で、手根管症候群では小指はしびれません。
さらに、薬指も半分から親指側だけしびれるという特徴があります。

症状を見分けるのに、薬指の親指側と小指側を触って比べてみるとわかることが多いです。

原因は手根管という、手のひら側を通る神経や腱が通る管状の場所が狭くなることによる神経の圧迫です。
手根管、手の根っこの管、という名の通り手の根本、手首あたりにある構造です。

この辺りをトントンと叩くと神経が刺激されて電気が走るようにしびれることがあります。
これも手根管症候群を疑うサインです。

糖尿病では、特に手根管の周囲組織がぶ厚くなったり、浮腫みが生じたりして、管が狭くなります。
この状態が放置されると、手のひらのしびれや痛みは回復困難な神経障害へと進行してしまいます。

治療法ですが、詳しく話すと動画が長くなりすぎるので別の機会にゆずります。
ざっくりお伝えすると、

  • ビタミンB12や神経障害性疼痛治療薬、ステロイド注射などで症状の経過を見る

  • 手首の安静

  • リハビリや施術を試みる

  • 手根管という管を開放する手術

最終手段と言われる手術ですが、その手術を先延ばしし過ぎると神経が回復するチャンスを逃すこともありますので、主治医と相談をしっかりしていただければと思います。

さて、第1位までお伝えしましたが、いちばん大事な今日からできることをお伝えしていきます。
もう少しだけお付き合いください。

すべてにおいて大事な対策「指のエクササイズ」

ここまで解説してきた糖尿病手症候群はいろんな病名がありましたが、総じて手のこわばりや痛み、力の低下を引き起こす可能性があります。
しかし、適切な手指のエクササイズによって、これらの症状を軽減できる可能性があります。

2020年の研究(*5)によると、手のリハビリテーションエクササイズは、手の握力と手の器用さを向上させることが示されています。

この研究は、糖尿病手症候群の患者において、手のエクササイズが有効であることを裏付けています。
具体的なエクササイズは、こちらの動画で紹介したものを参考にしてみてください。

エクササイズは毎日行うことで、手の機能を改善し、糖尿病手症候群の症状を軽減することが期待できます。
しかし、エクササイズで痛みがある場合や状態が悪化する場合は中止して、医師の診察を受けてくださいね。

本日の一言

糖尿病はいろいろな手の障害を引き起こしますので、ご注意ください。

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参考論文

(*1)Hisham Y Al-Matubsi, et al. Diabetes Res Clin Pract 2011 Diabetic hand syndromes as a clinical and diagnostic tool for diabetes mellitus patients

(*2) Strongest genetic risk factors for Viking disease are inherited from Neanderthals https://www.news-medical.net/

(*3) Yamamoto, M., Kato, Y., Nakagawa, Y., Hirata, H. & Takeuchi, J. Predictive factors and clinical effects of diabetic hand: A prospective study with 1-year follow-up. J. Plast. Reconstr. Aesthet. Surg. 75, 3285–3292 (2022)

(*4) Depino, G. M., Webright, W. G. & Arnold, B. L. Duration of maintained hamstring flexibility after cessation of an acute static stretching protocol. J. Athl. Train. 35, 56–59 (2000)

(*5) Kaluskar, R. P., Yeole, U. & Aher, N. Effect of hand rehabilitation on hand grip strength and manual dexterity in patients with diabetic hand syndrome. Indian J. Public Health Res. Dev. (2020) doi:10.37506/ijphrd.v11i6.9914

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