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「あとがき」付きまとめ vol.1

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本編は無料で読めます。「あとがき」のみ有料領域。一度購入いただくとこのマガジンに収録・追加されるすべての「あとがき」を読むことができます。 最大30作品収録予定。更新不定期。  … もっと読む
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記事一覧

例えばソフトクリームのように -1-

(本文:約2700文字) 「平和とは、ソフトクリームなんだ」 甘く冷たい白い渦巻きに嬉しそうに齧り付きながら友人は言った。ここのソフトクリームは濃厚というよりは軽い食感でコーンも固いものではなく最中に近い方。昭和懐かしいところが彼女のお気に入りだ。 「ランチにソフトクリームを食べられる世の中って平和だなってこと?」 私なりに解釈してみた。彼女は健康そっちのけで昼食の代わりに甘いものを食べる時がある。曰く、心の健康が優先なんだそうだ。 「ん~~ちょっと違う。ソフトクリーム

例えばソフトクリームのように -2-

(本文:約1500文字) 「文芸部というのは、取材ってかっこいい名前の旅行をするもんなんだ。まぁ、ファンタジー、異世界ものは取材なんてしなくても・・・」 駅のホームに現れた彼女は「やっほ」と短い挨拶に続けて文芸部について忙しく語りはじめた。理屈っぽい説明に相槌を打ちながら、私は彼女の様子がいつもと変わらないことに胸を撫でおろす。 「それで、取材して何か書くの?」 「ん~文章にするかどうかは、取材してからかな」 お説ごもっとも。ただ彼女も私も過去に文芸部だったことはない。

忘れてはいけない日

このエントリーは 年に1日、8月15日にのみ全文無料公開になります。

街クジラの歌【シロクマ文芸部】

「街クジラだ」 ひとりごとが声に出てしまう。同じ曲ではないが確かに街クジラだった。 ほとんどの田舎がそうであるように、私の故郷でも夕方になると音楽が流れた。ただ水曜日だけが違う曲で、私はそれを「街クジラの歌」と呼んでいた。私だけの勝手な呼び名だったけれど、他に形容のしようが無い。静かな海のリズムを思わせる和音にのせて、高音の旋律が長く伸やかに上下する。まるで本物のクジラの鳴き声のように。 街クジラが歌うのは日没時。西の空にはまだ赤が残り、東には濃紺の星空、そしてその間を移

スイカやで【ショートショートnote】

しもた、寝過ごした。 慌ててウチから飛び出した。最寄りの停留所からバス<ピッ>と私鉄<ピッ>と乗り継いで、京都駅までは約1時間半。朝ご飯はコンビニでええかな。パンとお菓子少々、のど飴<ピッ>。 目指すは東京。いつもは夜行バスやけど今日は新幹線。宿とセットやと結構安なるんよね。 あ、飲み物忘れた。自販機でコーヒーを<ピッ>。新幹線に乗り込んで座ったら、流れ出す景色を眺めながらの朝食。いつものパンやのに優雅な気分やなぁ。 音楽聴いてうとうとしてたら 富士山かぁ。綺麗やなぁ。

ひとり朝帰り【ショートショートnote】

勢い二人で飛び出した夕暮れ。 「分かるよ」 そんな気持ちを互いにシェアしながらドライブをした。 君がブツブツ言っている。 「どう思ってるの!あんまりでしょ」 分かり易く壊されるというのなら、もっと前にアイツと別れることもしただろう。けどそれは生活の重なりで、気付いた時には傷だらけ。今日のはただのトリガーだ。 君が僕に言う。 「あんたも放置よね」 僕の場合はそろそろアイツに合わなくなってきてるから仕方が無い。 「傷だらけだね」 僕はいいよ。お洒落だと選んでくれたのが君で、三

違法の冷蔵庫【ショートショートnote】

タレコミは犯人の母親からだった。 話によると食品の味がおかしいと気付いたのは2か月前。最初はスカスカのキュウリ、次は頂きものの高級牛肉を数日放置してから食べた時だという。 違法だと確信したのは豆腐。よくある話だ。 「昨日お豆腐でお腹をこわしてしまっ・・・」 ここまで話すと母親は泣き崩れてしまい、何も話せなくなった。 母親の告白により我々は家宅捜査に踏み切った。大人しくドアを開けた彼は我々に憎悪の眼差しを向けたまま迎え入れた。 冷蔵庫からは消費期限2日過ぎた食パン、1週

しゃべるピアノ【ショートショートnote】

森の奥、湖の畔。 遠い昔に声を失った彼女がとても美しいピアノを弾いていた。 森に迷い込んだ若者がその音色に導かれてやってきた。 「なんて美しいんだ」 若者は度々やってくるようになり彼女の孤独を癒してくれた。 彼女はその喜びをピアノで奏でる。 その音色は若者にも伝わったていたけれど彼女は不安だった。 ある夜、白い満月を眺めながら彼女は願った。 『ピアノの音色が言葉になればいいのに』 すると、月から光が降って来てピアノを包んだ。 彼女が淡く光る鍵盤をひとつ叩くと『ア』と声が

伝承「グリフィン」

忘れ物をしたままの毎日に突如としてアイツは舞い降りた。 遥か頭上に巨大な影、琥珀色の翼は光が反射して黄金に滑り、上下にゆったりと羽ばたいている。頑丈な四肢はいつでも蹴り出せる体制で力強く地を掴み、底に漆黒を湛えた瞳は真っ直ぐにこちらを狙っている。 「うわぁ。すごいなぁ」 「3DCGなんだろ?最初の猫ちゃんもかわいかったけど、やっぱこういうのは迫力あってかっこいいねぇ」 新宿のビルの一角。話題の3Dビジョンの最新作だ。誰もが足を止めて携帯で写真を撮ったり、マスクに遠慮しなが

飛ぶ

もしも運良く生き延びて かわいい花を見つけたら あの日の彼に届けて欲しい どうしたんだろう? 今日は嵐がいつもより荒れ狂っている。風で飛んできたものが壁にぶつかり、激しく大きな音をたてている。でも私は彼が守ってくれるからここに居れば安全なんだ。 小さな灯りがひとつだけで、窓はなく、目を凝らせば周りの壁が辛うじて見える程度の薄暗い部屋。それが私の世界の全て。 彼はいつも外で生き抜くことがいかに大変かを話してくれる。外には嵐が吹き荒れ、弱いモノを餌食にしようとするヤツラが腹