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よく晴れた日だった

2020年9月27日  明朝
その時は突然訪れた。

親に起こされ2階へ上がると、こちらに背を向けてぐったりと横たわる君の姿。
私は瞬時に悟った。父は
「助けようとしたけどだめだった。」
と震えた声で説明してくれた。
「まだ温かいうちにいっぱい触ってやって。」
と付け足して。

2016年10月31日。
君が初めて家にやってきた日。

とても可愛かった。小さかった。私は、ハロウィンの贈り物だと喜んだ。
それからは、ずっと一緒に寝て君の体温をすぐそこに感じていた。だけど、いつからか君は一緒に寝てくれなくなって、私に冷たくするようになった。それでも君は可愛くて、私にいつも元気をくれた。
君が来てから私は明るくなったと、親が嬉しそうに話してくれた時もあった。私を変えてくれたのは、他でもない、かけがえのない君だった。

ついこの間、家の廊下で風を感じながら一緒に寝たばかりだった。君は私の手に頭を預けて、久しぶりに一緒に寝たあの日。冷たいフローリングの床で寝たのに、すごく暖かかった。

最近は名前を呼ぶと振り返るようになって、抱っこをしても抱きしめても嫌がる素振りを見せなくて。足に頭を擦り寄せてくれるようになったのに。やっと優しくしてくれるようになって嬉しかったのに。
早朝に見た姿は、いつもよりそっけなかった。

火葬をしていただいた。
お別れの会が終わったあと、
「これで最後になります。どうぞ。」
と言われ、触れる機会があった。

異様に硬く冷たい体。苦しそうに開いた口。光のない目。無抵抗に垂れ下がるしっぽ。ガスで膨らんだお腹。

いつものスリムな君なら、こんな格好嫌だと言って怒るだろう。だけど私は、そんな姿でさえも愛おしく思えて、涙が止まらなかった。こんなにも愛おして綺麗な君が、なぜこんなお別れの仕方なのだろう。

私は君に何を与えれただろうか。君が幸せだと思えるようなことは、できただろうか。私なりに愛情を注いだつもりでいても、君が鬱陶しいと思ってしまったとしたなら意味が無い。君を愛して、抱きしめて、名前を呼んだ私は、君に好かれていただろうか。

朝君が旅立った時も、お別れの時も、ありがとうやごめんねさえも言えなかった。頑張ったねなんて言ってみたけど、そんなの当たり前だよね。こんな私でも、
少しでも家族だと思ってくれてるなら、それだけで充分だよ。


もう泣かない。散々泣いたんだ。
君も見てたでしょ?
君がくれた勇気と思い出をしっかり持って生きていく。君が私を変えてくれたように、私も誰かを変えたい。君がいてくれたから、私はあの時死を選ばなかった。君が生きる理由をくれたから、これからも君のために生きるよ。だから、見ててほしい。もう寂しいって泣かないから、見ててほしい。

どうか、君は笑っていて。

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