2019.6.8 この時代だからこその歌い手

僕は、あと10年テクノロジーの進歩が遅かったら、間違いなくCDデビューをしていなかった部類の歌手だと思う。

20代の中頃に録音システムを手にいれて、コツコツ作った音源が運良く資本を提供してくれる大人たちの耳にとまった。

あの時、デモをあのクオリティーで仕上げられていなかったら、とてもその機会に恵まれなかっただろう。
歌のテイクは、100テイクとかではとても効かない数を録音していて、その中で編集をした。
録音スタジオを手配していたとしたら、数百万円は使っていたと思う。それくらいの時間を費やした。
実際、宅録をする前に数十万円をスタジオ代につぎ込んで、ほとんどボツにしている。

その時点でまず、歌い手としては落第者。

少なくとも、僕が好きになったミュージシャンたちとは違う。

その頃、そのプレイヤーたちのクオリティーに近づきたい一心で、何度もテイクを重ねて作り上げたけれど、スタートの時点で雲泥の差だったのだ。

時を重ね少しずつテイクの数は減ったけれど、いよいよ本質から目をそらしてはいけないと思うようになった。

自分の歌が今どんな状態なのか、僕は本当に自分の歌いたい音で歌えているのか、向き合うことにした。

この時代だからこそ、自分で録音をして自らをチェックできる。インターネットで尊敬する人たちの過去のプレイを見ることもできる。

自分という楽器を、少しでも良くするための材料を、いくらでも探すことができる。

もはや音程を修正することなど容易いけれど、テクノロジーの進歩は音楽をより良くするものであって、偽物を売り物にする道具であってはいけない。

これからの僕には、一人の絵描きが生涯日の目を見ることなく作品を作り続けるような精神で、歌と向き合うことが必要だろう。

この時代だからこそ、見つけられることが、まだまだあって、そうやって育てた歌声で、僕の音楽や言葉をより良い状態でアウトプットしていきたい。






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