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宴屋六郎
2019年10月4日 22:02
Chapter 10. はじめに聞こえたのは轟、という音だった。 知覚できたのはそれだけだった。 兵士の体がバラバラに弾け飛ぶ。 眼前にいたその男は赤と黒で染色された内容物を撒き散らしながら、過去形で表現されるべき物体に変わっていった。 瞬間。 僕の体は宙に浮いていた。 僕にはそれが砲撃によるものだとわかった。 海の向こうに白煙を吐き出すガレオン船が見えたからだ。 敵味方関
2019年10月5日 19:31
Chapter 21.「あなたには選択肢が与えられている。我々の『貨物』を渡してギルを得るか、あるいは死んで『貨物』を渡すか、だ」 目の前には灰色の外套に身を包んだ男が三人。 黄昏時で判然としない視界の中にあるけれど、おおよその背丈から察するにミッドランダーが二人とミコッテが一人だ。 中央のミッドランダーは両手を自由にしているが、横の二人はそうではない。それぞれ直剣の柄に手を置いてい
2019年10月6日 21:05
Chapter 31. 耳に届くのはさざなみの音。 遠くではない。とても近く。 低地ラノシア沿岸部。東ラノシアとの境に位置する浜近くの洞穴で僕らは休んでいた。 目を開くと入り口から光が差し込んでいる。閉じた瞼の下で感じていたことだったけれど、夜が明けていた。 ナナシは――眠っているように見えた。夜中のうちにここに到着して休むことにしたのだけれど、僕が「眠れ」と言うと彼女はすぐに目を
2019年10月7日 19:46
Chapter 41. 動けるようになった後、僕は海都リムサ・ロミンサに向かった。本来ならばナナシを連れてくるはずだったのだけれど、後悔していても仕方ない。 海都への道中、僕を邪魔するものはいなかった。これまでの緊迫感が嘘だったかのように安全な旅路になったことから、『最後の陸戦隊』の狙いから外れたのだろうとわかった。 僕にとっては好都合だ。彼らにとって僕が既に死者だというのなら、仕事は
2019年10月8日 19:58
Chapter 51.「ナナシは何がしたい?」「何がしたい、とは」「これは『やりたいことがあるか』という意味の言葉だよ」「……わからない」 僕の真横に座った白髪のアウラは、表情を変えずに言った。 逃亡の旅も七日ほどが経過し、僕とナナシはある程度の会話ができるようになっていた。 僕らは黒衣森で焚き火を囲んでいた。木々の隙間に見える空には、大小様々な星が輝いていた。 言葉自体はか
2019年10月9日 19:49
Final Chapter-The Ghost in the Machine- 夜の帳が下りた空に虫の鳴き声が響き渡る。 海から流れてくる潮風は静かに流れ、崖上の青々とした草が揺れた。 空に雲は少ない。 月と星々が照らす、明るい夜だった。 岸壁に押し寄せる波は穏やかで、巨大な船が停泊するには絶好の天候だった。 白い帆を畳み、錨を下ろしたガレオン船は一隻。船体は黒く塗装されているが、