少子化に関する概略(前編)-少子化にどう向き合うか①-
少子化についてどのように私たちは向き合うべきかに関する考察になります。1回目の今回は少子化に関する直近の情勢、政治がどのように少子化に向き合ってきたのかに関する考察(前編)です。
直近の出生数をめぐる情勢
日本の出生数の減少が続いている。厚生労働省が今年の2月28日に発表した人口動態推計(速報値)によると、2022年の国内在住の日本人の出生数が799,728人と前年2021年の842,897人から43,169 人減少した。率にすると5.1%の減少である。(※1)この数値は国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した「日本の将来推計人口」(以下「2017年将来推計」において出生数を中位と想定した場合の2033年時点での出生数797,000人とほぼ同じである。つまり、現実には2017年将来推計での中位出生数よりも10年早く出生数が減少したこととなる。(※2)
2017年将来推計では、2022年の出生数について、高位1,012,000人、中位872,000人、低位748,000人と想定しているので、実際の出生数である799,728人は中位と低位の間の数値ということになる。出生数の減少が新型コロナによる影響の可能性があるため、同じく2017年将来推計で新型コロナ影響前の2019年の想定出生数を見てみたい。高位1,013,000人、中位921,000人、低位836,000人、実際の出生数865,239人と中位と低位の間の数値となっており、新型コロナ影響以前から少子化が続いていることがわかる。(※3)
政府関係者も認識としては同じようである。財務省の財政制度等分科会は昨年11月29日に出した「令和5年度予算の編成等に関する建議」の「参考資料Ⅱ-1-22」のグラフにおいて、2018年までは実際の出生数と出生中位がほぼ同数で推移していたのが、2019年以降は出生中位と出生低位の間となっていることを指摘している。(※4)
少子化対策をめぐる経緯
最初の少子化対策「エンゼルプラン」からの考察
少子化について政治、行政はどのように対応したのだろうか。1990年に前年1989年の出生率が1.57と過去最低になったいわゆる「1.57ショック」により、少子化社会に突入したことが認識された。1.57ショックを受けて、当時の厚生省は文部省、建設省、労働省とともに1994年「今後の子育てのための施策の基本的方向について」、いわゆる「エンゼルプラン」を策定した。(※5)
エンゼルプランでは少子化の原因を(1)晩婚化の進行、(2)夫婦の出生力の低下にあるとしたうえで、その背景に(1)女性の職場進出と子育てと仕事の両立の難しさ、(2)育児の心理的、肉体的負担、(3)住宅事情と出生動向、(4)教育費等の子育てコストの増大にあるとした。
以上を踏まえ、エンゼルプランでは「子育てと仕事の両立支援の推進」、「家庭における子育て支援」、「子育てのための住宅及び生活環境の整備」、「ゆとりある教育の実現と健全育成の推進」、「子育てコストの軽減」の基本的方向を示したうえで、以下の7つの項目を重点施策に掲げた。
ここまでお読みいただければ、読者の皆さんは今から29年前に出された内容が現在議論されている内容とほとんど変わらないことに気づいたのではないだろうか。だが、実際にこの時に行われた対策は保育対策が中心であり、総合的な少子化対策が行われなかったことが指摘されている。(※7)
当時、少子化対策が本格的に行われなかった理由としては、1990年代に第三次ベビーブームが起きると想定していたために少子化について楽観的見通しによる対応をしていたからとする説(増田雅暢)(※8)、十五年戦争中の1939年に出された「産めよ殖やせよ」政策があったために人口政策に対する批判を恐れた政府が少子化対策を行うことに慎重になっていたとする説(松田茂樹)(※9)などがある。ただ、いずれの説にしてもこの時期においては保育の視点だけであり、仕事と子育ての両立支援は本格的には行われていないとの見解では一致している。では、仕事と子育ての両立支援、また児童手当などの家庭への経済的支援が行われるのはいつからだろうか。次回後編ではその辺りについて述べて参りたい。
私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1)
人口動態統計速報2022年12月分
同報道向け資料
(※2) 日本の将来推計人口(平成29年推計)結果報告書 (ipss.go.jp)
2023年3月1日(水) 東京新聞 1面
(※3)
日本の将来推計人口(平成29年推計)結果報告書 (ipss.go.jp
2019年人口動態統計(確定数)概況
同報道向け資料
(※4) 財政制度等審議会「令和5年度予算の編成等に関する建議」参考資料(2)
(※5)
今後の子育て支援のための施策の基本的方向について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
(※6) (※5)同
(※7) 松田茂樹「[続]少子化論 出生率回復と<自由な社会>学文社 P217
増田 雅暢 元内閣府参事官(少子化社会対策担当)、増田社会保障研究所代表
日本型家族政策の考察 ―少子化対策はなぜ成果をあげないか― | 一般社団法人平和政策研究所 (ippjapan.org)
(※8) 増田「前掲」
(※9) 松田「前掲」P217
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