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参議院選挙における若年層投票率の推移について-若年棄権層に関する考察④-


はじめに

 若年層における棄権の背景には何があるのかについて、8回に渡り考察します。今回は4回目です。
 1回目は、三春充希さんが唱えた2000年以降の国政選挙における投票率の長期低落傾向は1990年代のバブル崩壊時に20代であった層の政治不信、失望による棄権が年齢を重ねても続き、また、その後の世代にも継続しているとする説(ここでは「特定世代若年層棄権継続説」と称することとします)をご紹介しました。
 2回目は、三春さんが1990年代の国政選挙における投票率の減少をどのように考察しているか、バブル崩壊前後の衆議院選挙、参議院選挙における投票率の推移を踏まえてご紹介しました。
 3回目は、20代を中心に若年層の投票率について、バブル崩壊以前の中選挙区時代の衆議院選挙、2000年以降の現行の小選挙区比例代表制度の衆議院選挙の状況を踏まえて考察しました。
 4回目は、20代を中心に若年層の投票率について、参議院選挙での状況を踏まえて考察します。
 5回目は、明るい選挙推進協会が作成した「第 47 回衆議院議員総選挙全国意識調査調査結果の概要」、「第 49回衆議院議員総選挙全国意識調査調査結果の概要」に対する三春さんへの見解、「特定世代若年層棄権継続説」について考察します。
 6回目は若年層の棄権率について、「特定世代若年層棄権継続説」以外の別の観点から考察します。
 7回目、8回目は若年層の棄権について、どのように向かいあうべきかを考察します。
 ポイントだけをお知りになりたい方は1回目、2回目の大項目「1990年代の投票率低下について」、5回目の大項目「「特定世代若年層棄権継続説」についての考察」、6回目をお読みいただけたらと思います。
 以上、長丁場となりますが、よろしくお願い申し上げます。

若年層の投票率と全体の投票率との比較検討

1989年参議院選挙から1998年参議院選挙の特徴

 参議院選挙の場合、衆議院選挙と異なり選挙制度変更の影響を受けていないため、1990年代の投票率についても併せて比較考察したい。 

総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」より
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成

 参議院選挙については1995年参議院選挙が自社さ政権で野党第1党が新進党なのに対し、1998年参議院選挙は自社さ政権(社民、さきがけは閣外協力)で野党第1党が民主党と単純比較できない部分があるが、ここでは参考資料として提示する。

 特徴としては1989年参議院選挙から1992年参議院選挙について投票率が全体として下落傾向にあるということにある。特に40代以下での投票率の下落が15%前後下がっており他の世代と比較しても激しい。(図1-2)下落は1995年参議院選挙でも続くが、1998年参議院選挙において大幅に回復し、1998年参議院選挙20代で1992年参議院選挙並みに、それ以外の世代ではそれ以上に回復したことが特徴的ではあるが、1989年参議院選挙時点での投票率並の回復には至っていない。(図1-3)この点について、以下の段落で詳細に検証したい。

 1989年参議院選挙と1998年参議院選挙には9年間の年数が経過しているが、1989年にそれぞれ20代から50代だった世代について1998年に30代から60代となったときの投票率について比較をしたい。1989年20代47.42%→1998年30代55.20%、1989年30代65.29%→1998年40代64.44%、1989年40代70.15%→1998年50代69.00%、1989年50代75.40%→1998年60代75.24%と20代を除き減少をしている。1998年参議院選挙の投票率は58.84%と1995年参議院選挙の44.52%を14%以上も上回った。それでも1989年参議院選挙の投票率よりも全体として低くなったということは、「若年棄権層に関する考察② 「特定世代若年層棄権継続説」(後編)」でも述べたが、55年体制が崩壊した影響の表れであると言えるだろう。

 次に、前回衆議院選挙の投票率における考察と同様に、参議院選挙でも全体の投票率とそれぞれの年代の投票率との間にどれだけの差があるのかを比較検討したい。(図1-4)からは、20代が衆議院選挙同様に他の年代、全体と比較して投票率が低いこと、また30代についても衆議院選挙同様に年を追うごとに投票率が当初は全体よりも高かったにもかかわらず、次第に下落していることがわかる。これについては前回も述べたが、次の章で述べる。

2001年・2004年・2007年参議院選挙の特徴

 前回は衆議院選挙についての投票率について考察したが、今回は2000年代の参議院選挙のうち、小泉ブームが起きた2001年参議院選挙、年金問題によって自民党が大敗した2007年参議院選挙について考察したい。(図1-5)からは衆議院選挙ほど、全体においても世代別についても投票率が上がった2005年衆議院議員選挙(郵政選挙)、2009年衆議院選挙(政権交代選挙)ほど投票率の差が劇的に変化しているとは言えない状況である。

総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成

世代別の差についても、(図1-6)、(図1-7)からは、衆議院選挙と同様に20代において他の年代と比較して投票率が低い傾向がみられる。

総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」より
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
注)赤字と赤の背景は全体より低い値を指す

 2007年の参議院選挙については、元朝日新聞編集委員の石川真澄が唱えた統一地方選挙の年に行われる参議院選であるために自民党の得票数が減少する亥年現象(※1)を指摘する声もあろう。そのため、保守票が減少しかつ常時棄権層が覚醒したとする見方があるかもしれない。

 ただし、自民党の2004年参議院選挙の得票数は選挙区:19,687,954票、比例区:16,797,686票に対し、2007年参議院選挙の得票数は選挙区:18,606,193票、比例区:16,544,671票であり、選挙区で約100万票、比例票で約25万票の減少である。これに対し、石川が指摘した亥年減少の典型例とした1971年参議院選挙では、前回1968年の参議院選挙では選挙区:19,405,546票、全国区:20,120,089票に対し、1971年参議院選挙では選挙区:17,727,263票、全国区:17,759,395票と、選挙区で約170万票、全国区で約340万票を減らしており、2007年参議院選挙の得票数の減少よりも大幅に減らしていることがわかる。

 投票率も1968年参議院選挙が68.94%に対し、1971年参議院選挙が59.24%と9.76%と大幅に下げているのに対し、2004年参議院選挙は56.37%、2007年参議院選挙は58.64%と2.33%の微増と石川が亥年現象の特徴としている投票率の減少は起きていない。また、2007年参議院選挙は年金記録問題で自民党に逆風が吹いた年の国政選挙であり、無風であった1971年参議院選挙であることも考慮すると保守票の減少幅はかなり抑制されていると言える。以上からすると、2007年参議院選挙において、普段投票に足を運ばない常時棄権層が大幅に動いたことが投票率を増加させたとまでは言えないだろう。

 常時棄権層の一部がなぜ、2005年衆議院選挙、2009年衆議院選挙にのみ現象として投票行動に表れるのか。参議院選挙でも政治的争点となった選挙があるにもかかわらず、なぜ彼らは劇的な形で投票行動をしなかったのか、その辺りについての検証、考察が課題であると言える。

30代・40代の投票率が全体投票率以下に下落する現象に関する考察

 ここで(図1-4)及び(図1-7)を再掲したい。

総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
注)赤字と赤の背景は全体より低い値を指す
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
注)赤字と赤の背景は全体より低い値を指す
総務省選挙関連資料「国政選挙の年代別投票率の推移について」を元に作成
注)赤字と赤の背景は全体より低い値を指す

 (図1-7)だけを見ると、参議院選挙においては、30代投票率が2016年参議院選挙まで、40代投票率が2019年参議院選挙まで全体投票率との比較において下落の幅が拡大する傾向にあり、30代及び40代の衆議院選挙における投票率がが2014年まで全体投票率との比較において下落傾向である点で共通の傾向がみられる。また、2019年時点の40代は1969年生まれから1979年生まれと氷河期世代にほぼ重なる。ここからすると三春の主張がデータ上も裏付けられたように見える。

 ただ、(図1-4)との比較の上で見ると、30代については1990年代の時点ですでに下落傾向にあり、三春が主張したバブル崩壊時20代だった層にだけ見られる特徴ではないことがわかる。20代については、1989年から1998年まで下降をし、その後2010年までそのままであるものの、2013年からからは上昇に転じている。

 40代については、1998年参議院選挙以降に全体との投票率との比較において下落傾向がみられるが、これについても1949年生まれから1958年生まれとバブル崩壊時に20代だった世代よりも前の世代からの下落である。また、2022年参議院選挙では40代の投票率の差は再び全体の投票率の数字に近づいている。2022年時点の40代は1972年生まれから1982年生まれと氷河期世代である。同じく40代について衆議院選挙では2014年衆議院選挙が-2.68%に対し、2017年衆議院選挙が-0.16%と異なる数値を示しており、(図1-8)2019年参議院選挙とは異なる結果となっている。

 まとめると、① バブル崩壊時に20代だった世代のみならず、それ以前の世代においても衆議院選挙、参議院選挙とも全体投票率と比較した際に投票率が下落傾向にあった。② バブル崩壊時に20代だった世代以降の世代の投票率が全体投票率との比較において常に下落し続けているわけではなく、票の揺り戻しがみられるケースもある。①および②からすると、2000年代以降の低投票率傾向が「特定世代若年層棄権継続説」の特徴であるバブル時に20代だった世代以降の棄権のみが原因とは考えにくいと言える。

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 いかがだったでしょうか。次回は明るい選挙推進協会が作成した衆議院議員総選挙全国意識調査調査結果の概要に対する三春さんの見解、「特定世代若年層棄権継続説」に関する考察になります。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 元朝日新聞編集委員の石川真澄が唱えた仮説。統一地方選挙がある年に行われる参議院選挙では、統一地方選による消耗から保守層の選挙運動量が鈍ることで保守票が減少するために、投票率が下がり自民党に不利になるとしている。統一地方選挙と参議院選挙が同時に行われる年が亥年であることにちなんでいる。

参考文献:石川真澄「戦後政治史」 補論 民意の軌跡 岩波書店 (1997年版)

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 次回は都合により、通常7月8日土曜日の18時から21時とするところを、7月8日土曜日12時から15時の間の投稿とさせていただきます。よろしくお願いします。

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