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政治に対する雑感10-自民党総裁選・立憲民主党代表選に想うこと(前編)

 9月23日に行われた立憲民主党代表選、9月27日自民党総裁選に関する雑感です。前編の今回は自民党総裁選に関する考察になります。


選挙を意識した党首の選出

 自民党総裁選が9月27日、立憲民主党(以下「立民党」)代表選が9月23日にそれぞれ行われた。自民党は新総裁に石破茂を、立民党は新代表に野田佳彦を選出した。自民党、立民党とも無党派層からの支持を得るためにはどうしたらいいのか、また党員がどのような支持傾向なのかということを総合的に判断した上で、党の顔を選んだと言えよう。

自民党総裁選

 自民党総裁選は当初は、小泉進次郎が優勢で、その後を高市早苗、石破茂が追うという情勢、選挙直前では石破、高市、小泉の三つどもえという情勢となった。情勢が変化したのは、小泉の失速が主たる原因であろう。

小泉の失速

 小泉失速の主因は、小泉が総裁選で打ち出した聖域なき規制改革が、大企業の解雇ではないかとの批判を受けたことが挙げられよう。批判に対して、小泉自身は、正規雇用と非正規雇用の格差是正、非正規雇用労働者が正規で雇用されやすい環境を作ることであると主張をしたが、最高裁判例である「整理解雇の4要件」(※1)が人員整理ができにくくしていると主張したことについての説明はなかった。(※2)

 「整理解雇の4要件」は使用者側に労働者の解雇にあたって、解雇を行う前に解雇回避の努力や、その手続きの妥当性を求めるなど、経営不振などによる経営上の都合を理由に、使用者側の都合で安易に解雇を行うことをさせないための要件である。「整理解雇の4要件」を人員整理ができにくくしていると主張することは、当然、使用者側に立った労働条件に労働法制を改めるとみなされても不思議ではない。それにもかかわらず、「整理解雇の4要件」が人員整理ができにくくしているため見直すとした説明に言及することなく、見直しは、非正規雇用の労働者を考慮したためであるとする、小泉の主張は批判されて然るべきものである。

 また、小泉は年金の受給開始年齢80歳との主張についても批判があった。これについては、年金の受給開始年齢を60歳から80歳までにするというものであり、受給開始年齢自体を80歳からとするものではない。(※3)ただし、年齢の繰り下げ受給が75歳まで可能となったこと、高齢者雇用安定法で70歳までの就業機会確保がなされるようになったこと、(※4)など一連の流れを踏まえると、年金受給開始年齢を80歳まで繰り下げることを可能にするべきという主張は、何等かの形で年金受給開始年齢を引き上げようとしているのではないかとの不信感を抱かれる可能性は否めない。

 雇用、年金といった生活に密着した問題で不信感、疑義を生じさせる小泉の主張が支持離れの主因となったと言えよう。

高市の挫折

 一方、高市早苗はどうであろうか。高市は党員票で最多得票となったこと、国会議員でも旧安倍派所属であり、自民党の有力政治家である麻生太郎からの支持を受けた。だが、1回目の得票数では石破茂を上回ったものの、決選投票で石破に敗れた。石破が高市に逆転したのは総理総裁である岸田文雄が石破支持を打ち出したからとの説がある。(※5)

 ただ、私個人は、政治とカネの問題、アベノミクスの破綻という安倍政治に対する世間の倦怠感に対し、国会議員の中に地元周りなどで感じたことへの危機感というものも働いた可能性もあると考える。もし、ここで高市を選んだ場合、安倍政治の継承を自民党は選んだということになる。そのため、当初はご祝儀相場として支持率が上がったとしても、旧安倍派から出た政治とカネの問題、アベノミクスの失敗という指摘が付きまとうことになるだろう。

 特に、日銀の金利政策に対して「金利を今、上げるのはあほやと思う」というきつい表現で介入をする辺りは、日銀の独立性担保を危うくする主張でもある。前日銀総裁の黒田東彦はアベノミクスに忠実な金融緩和を実行したが、その結果がもたらした日銀による大量の国債買い入れがどのような状況をもたらしているかは言うまでもないだろう。

石破は安倍政治を刷新できるか

 石破茂が掲げた公約で評価したい点としては、防災省の設置であろう。防災省による国内での災害に対して総合的に対処することは、危機管理という意味で重要だ。特に、今年の元日に起きた能登大地震、先月に起きた能登の洪水と二重災害に苦しむ能登の人々に対して、早急かつ包括的な支援が求められる。石破が言う危機管理の点は、対外的なことが主張される傾向にあるが、市井に生きている民衆からすればむしろ自然災害による被害への具体的な支援をどう構築するかのほうが実感として重い。石破の防災省設置による災害危機管理について、どう取り組むのかについて注目していきたい。

 また、日米地位協定の改定に言及をしたこと(※6)についても注目したい。これについては、自衛隊の基地を米国内に置くといった相互の安全保障という観点であり、集団的自衛権の問題が絡む問題である。また、アメリカ側は防衛費の負担増を求めるなど(※7)、アメリカ側が求める条件にどう対応するべきかという問題がある。ただ、米軍基地の存在による米兵とのトラブルに悩む沖縄県にとっては、日米地位協定改定に期待する声もある。(※8)実際日米地位協定の改定に着手する場合、沖縄県のみに日米安保条約の負の側面が集中する現実と、日本全体が負うであろう経済的、軍事上の負担、リスクをどのように考えるか、という点が改めて問われるものとなる。

 ただ、石破は総裁選で掲げた公約が守られていないとの指摘がある。総理就任後の日銀総裁との会談で現状は利上げの時期ではないとの見解を示しており、安倍派を意識した発言をしている。高市のような露骨な発言ではないが、総理としての発言であり、報道に公表したことを考えると事実上日銀に何等かの影響を与えてしまう点が懸念される。(※9)

 地位協定改定についても国会での所信表明演説で言及していなかったことについて、疑念の声があるほか、(※10)政治とカネの問題で処分された議員の公認問題に対する姿勢も曖昧だ。(※11)これらの状況は石破自身の党内基盤の弱さが原因を指摘する声があるが、(※12)石破の良さは自民党内の問題点を批判してきたことにあり、それらを否定することは有権者から見たら裏切り行為としか見なされないのではないか。

 まだ、石破政権は誕生したばかりであるが、従来の自民党政治とは異なる政治手法ができるのか、それとも、石破が当初主張していたような有権者に政策についてきちんと問う姿勢を発揮できるのか。私たち有権者は、傍観者の立場に留まることなく、しっかり政策を見極め、評価し、行動することが求められるだろう。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 労働契約の終了に関するルール|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

(※2) 小泉進次郎氏、解雇規制の見直し明言で釈明に追われる 自民総裁選 | 毎日新聞 (2024年9月13日 20:05)

(※3) 小泉進次郎氏「年金受給は80歳から」? 開始年齢の選択肢を広げる発言【ファクトチェック】 (factcheckcenter.jp)

(※4) 高年齢者の雇用 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

(※5) 「石破新総裁誕生」の立役者となった”もうひとりのキングメーカー”とは? 決選投票「大逆転」の舞台裏 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け (shueisha.online)

(※6) 石破氏、利上げに慎重 日米地位協定見直しに意欲:時事ドットコム (jiji.com)

石破氏、日米安保条約改定に意欲 アジアへの「核持ち込み」にも言及 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

(※7) 石破氏が求める日米地位協定の見直しには「防衛費を3%程度に引き上げる必要」…米元国防次官補代理・コルビー氏 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

(※8) 日米地位協定の見直し期待、玉城デニー沖縄知事「県民の声 反映を」 石破自民新総裁選出で | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

(※9) 石破首相「追加利上げの環境にあるとは考えていない」、日銀総裁と面会 | ロイター (reuters.com)

(※10) [社説]石破首相の所信表明 地位協定改定なぜ封印 | 社説 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

(※11) 「自民党改革」石破首相の決意が分かる「公認」問題 裏金議員を衆院選でどう扱う? <対象議員一覧>:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

(※12) 論功行賞、滞貨一掃、「もはや痛いレベル」の党内統治…識者たちが見る石破茂新内閣の正体、その実効性は:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

「最悪ですよ!」京大・藤井教授が石破首相を猛批判 『石破カラー』「出すと国民喜ぶ 党内は怒る」発言に|FNNプライムオンライン

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