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ノストラダムスに関する考察② -日本のノストラダムス現象をどう考えるか(後編)-

宴は終わったが

 五島勉によるノストラダムス像がいかにいい加減で歪曲されたものであるかということの考察および、ノストラダムスの実像、なぜ「予言」に惹きつけられてしまうのかを考察します。今回は五島勉のノストラダムス描写に関する批判的考察の後編です。(※1)

五島大予言のオウム真理教への影響

 大予言シリーズによって歪曲された終末論は、オカルトマニアのみならず新宗教-厳密には新新宗教のほうが妥当か-にも大きな影響を与えた。その代表例はオウム真理教であろう。宮崎哲哉

 オウム(注.真理教)の『日出づる国、災い近し』(オウム出版 一九九五)を頂点とするハルマゲドンの世界にも五島の大予言史観の反映が看て取れる。というよりも一種タネ本となっている印象がある。麻原の著書に先立つ五島予言本ではすでに、核兵器や細菌兵器、レーザー光線、神経ガスによる最終戦争が語られ、「地殻変動兵器」(地震兵器!)や未知の超兵器の使用まで言及されている。また麻原教祖が抱いたキリスト教国VS仏教国という虚妄の対立構図もここから直接導き出されたのではないかという疑いもある。(※2)

 五島大予言シリーズのいわゆる終末観がオウム真理教に影響を与えたという見解は宮崎だけに留まるものではない。島田裕巳は五島大予言が出版された1973年時点において、オウム真理教の事件で死刑判決を受けた13人のうち10人が1960年代生まれと当時小学生だった者が大半であったことに注目し、当時小学生だった世代の中には五島大予言を真に受けた者がいたとの見解を示している。(※3)

 こうした動きに対し、五島はオウム真理教の言動は自分が著した五島大予言シリーズとは関係がないことを強調している。五島は五島大予言シリーズの最終巻である「ノストラダムスの大予言 最終解答編」で、自分がノストラダムスに予言された救世主であることを強調するカルト教祖は問題であると主張している。(※4)

 確かに五島大予言シリーズだけがオウム真理教のすべてというわけではない。宮崎は、中沢新一の思想や中沢の著書「虹の階梯」、中沢自身の松本との関係の深さなどについてもオウム真理教に影響を与えたとして中沢を批判をしている。島田もオウム真理教に入信した信者の背景には、五島大予言の影響のほか、ユリ・ゲラーの超能力ブームの影響や、バブル時代の物質中心主義から抜け出したいと思う心理もあったのではないかとしている。

 また、私個人はオウム真理教の凶悪犯罪や暴走という点については、坂本弁護士殺害事件における捜査機関の初動捜査の問題が主因ではないかと考えている。加えて、捜査機関以外の問題として、メディアの側が「とんねるずの生でダラダラいかせて!!」、「ビートたけしのTVタックル」などで松本を出演させるなどして面白がったことに対する批判的考察もなされるべきであると考えている。

 ただ、以上を考慮しても五島大予言シリーズのいわゆる終末論がオウム真理教をはじめとした新新宗教に多大な影響力を与えたことは否定できない。現にオウム真理教のみならず、阿含宗、幸福の科学の教祖もノストラダムスに関する本を著しているが、これらの宗教は五島大予言以後に設立された宗教法人である。また、島田は阿含宗がいわゆる終末を予言しそれを乗り越えるために超能力を身につけることを説いていたことにも言及しているが、(※5)阿含宗はオウム真理教の教祖であった麻原彰晃こと松本智津夫がかつて入信していた教団である。五島大予言の影響を受けた阿含宗の思想が、何らかの形でオウム真理教に影響を与えた可能性もあるだろう。

五島大予言は「終末」論だけが問題なのか

 五島大予言シリーズの悪影響はいわゆる終末論だけに留まらない。宮崎は五島大予言シリーズの問題について次のように指摘する。

 五島の『ノストラダムスの大予言』は、終末論的思考を、元々神学の素養を欠く日本人に、それも大衆レヴェルにまで一気に浸透させた。またそれは天変地異や戦乱、環境破壊による人類滅亡という不安感をやみくもに煽り立てただけではなしに、ユダヤ人や白人に対する偏見、キリスト教への一面的過ぎる評価、西欧近代文明に対する偏頗的、皮相的な懐疑をも染み入らせた。さらにユダヤ-キリスト教的千年王国のヴィジョンを見事逆転させて、仏教による千年王国の実現(注.本文では´による強調)という「別の」ヴィジョンへと読者を誘導するとおいうアクロバットまでやってのけた。(※6)

SNS上において差別と偏見に基づくユダヤ人論をしばしば見かけるが、これらの主張には五島の主張と共通する部分は多い。大予言シリーズを著した五島の責任は決して軽いとは言えない。

 なお、五島は晩年に週刊文春のインタビューに応えている。そこで自身が起こした「ノストラダムスの大予言」の影響について、オウム真理教の問題も含めて本人の見解が述べられている。ご参考までに提示したい。(※7)

事実に基づく実証性への理解を

 何気にインターネットを閲覧していたら、講談社のFridayが今年2月19日にノストラダムスをネタにした記事を書いていたのに気づいた。(※8)サブタイトルの中に「ロシアによるウクライナ危機」との文言があるが、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻までは想定(予言?)できなかったようである。

 講談社は、週刊少年マガジンでノストラダムスなどのオカルトを扱った「MMR マガジンミステリー調査班」を1999年の短期連載を含めて不定期シリーズで手掛けたほか、同じ時期に週刊誌「週刊現代」でノストラダムスをネタにした記事を書いていたことがある。そのため、Fridayの記事にはさもありなんと感じると同時に、ノストラダムスの実像がノストラダムスが生きた16世紀当時のフランス、ヨーロッパの歴史的背景を踏まえてノストラダムスの著作物を学術的に研究した本や文献が日本語でも知られるようになった2022年現在(※9)においても、未だに旧来のオカルト的なノストラダムス像で面白おかしく記事になればいいという軽さを感じさせられる。

 五島大予言やオカルトに限らず、ネット上には特定の民族、集団に対する差別、偏見に満ち溢れた書き込みがママ見られる。そこでは思い込みによる一方的な主張が展開されがちであり、私たちがいかに事実に基づく実証的な考察を軽視するかということの表れでもある。五島大予言、ノストラダムス現象から学ぶべき教訓は事実をきちんと調べ、実証性に基づく考察をすることの必要性、大切さということではないだろうか。

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 いかがだったでしょうか。次回はノストラダムスの生涯について学術的な観点からの文献を踏まえ、ご紹介したいと思います。(来週は別の記事を掲載する予定です)

皆が集まっているイラスト1

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1) 先週の前編はこちら

(※2) 宮崎哲哉「正義の味方」「第5章 すべては『ノストラダムスの大予言』からはじまった」洋泉社 P78~P79

(※3) 島田裕巳「「オウム」は再び表れる」中央公論新社 P72

 他にも島田は村上春樹がオウム真理教の信者、元信者が五島大予言に影響された人が多かったと語ったこと(P65~P66)、オウム真理教の元幹部上祐史浩が自著で五島大予言にある終末予言にのめり込んだことに言及した箇所(P74)を引用している。

(※4) 五島勉「ノストラダムスの大予言 最終解答編」洋泉社 P232

 五島のカルト教祖とは文脈から松本のことを指していると思われるが、仮にそうだとすれば松本が自身を救世主とした根拠の一つとしては、五島自身が記した「ノストラダムスの大予言 日本編」で真の救世主が日本から登場するとノストラダムスが予言したという主張に基づいている(実際には内容が異なることについては、山本弘「トンデモノストラダムス本の世界」P39~P40を参照のこと)可能性がある。

(※5) 島田「前掲」P74

(※6) 宮崎「前掲」P82~P83

同様の見解を山本も「トンデモノストラダムス本の世界」で示しており(P61~P66,P74~P75)、今回引用した部分は 同著P74でも引用されている。

(※7)

(※8) Friday 2022年2月25日号

「ノストラダムスが予言してた「2022年に人類滅亡危機」その中身」
-続! ノストラダムスの大予言 新型コロナウイルスの蔓延、ロシアによるウクライナ危機、トンガ大噴火は前兆だった-

(※9) 個人的に知り得る範囲としては以下の文献が参考になるものと思われる。

樺山紘一・高田勇・村上陽一郎編「ノストラダムスとルネサンス」岩波書店
竹下節子「ノストラダムスの生涯」朝日新聞社
竹下節子「さよならノストラダムス」文芸春秋
竹下節子「カルトか宗教か」文芸春秋
渡辺一夫「フランス・ルネサンスの人々」「第三章 ある占星師の話ーミシェル・ド・ノトルダム(ノストラダムス)の場合」- 白水社

なお、渡辺については五島大予言以前にある論文である。

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