見出し画像

ラジオをきっかけにしたターニングポイント(その2)

 ミキサー(音響機器)……。これを理解して扱える人というのは、なんだか特別感のある人だった。それが目の前に。

 どれが何のツマミなんだろう。

 と思いつつも必要最低限以外は触れない。メーカーや型式(?)をメモするのも気が引けた。使わせて頂いているのであって、所有物ではない。情報を抜くようなことはしない方がいい気がする。

 仕事でもそうだが、『貸与物』であるにもかかわらず使っているとまるで自分の『所有物』のように思ってしまうのは悪い癖だ。自分の思う通りに動かしているとそういう勘違いを起こしてしまうようだ。幸いにもわずかなところで「それはダメだ」と思う部分があったから、多少は自負があるらしい。

 ここで、これをこうする。ここまで下げる。ここまで上げる。

 自分の耳を頼りに。もう少し大きい方がいいか? 小さい方がいいだろうか。

 以前にも書いた気がするので重なってしまうと思うのだが、私は声が前に出なかった。ファミレスのテーブル席にで対面に座りあった相手に、私の声は届かないのだ。隣り合わせに座っても聞き取りづらい。周りの音にかき消される。

 ラジオでもBGMに負けてしまいがちで、それでもマイクに甘えていたのか全然声が出ない。私はただただ必死に声を出していた。曲を挟むときやジングルが入るとき、激しく咳き込んでいた。

 声の出し方が分からなかったのだ。

 ボイストレーニングを受けつつ、ラジオをやったことは良い方向に進んでいたと思っている。

 今ではようやく、普通に話して相手に声が届くようになった。ラジオで咳き込むこともなくなった。

 ミキサー(音響機器)の扱いにも少し慣れていた。調節するということに関してはまだ甘い部分が大きく占めているようだが、とりあえず聞けるレベルにはなって来たと思う。

 未だに曲を差し込むときなどに焦ってしまうことが多々ある。これは今でもよく発生しているので、人が失敗したり慌てたりするのを見聞きするのが好きだという方はぜひ聞いてみればよいかと思う。

 ……まあ、毎回毎回失敗するわけではないがね?

 ある収録日の事だった。これは2022年の1月だったと思う。

 いつものようにスタジオに訪問し、挨拶をして収録準備を整えていた。

 スタジオの管理者は緊張感を解くためか、或いは喉の調子を見るためか、収録前に喋る時間をよく設けてくれた。互いの近況だったり、最近のトレンドについて喋る。

 この日もそうだと思っていた。

「こまえさん」

 いつもの収録日だと思っていた。

「これいらん?」

 なになに? お菓子? たすかるー!!

「これ全部(音響機器一式)」

 HA?

カバー写真:pixabay
撮影者:khamkhor

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?