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Another Song Story

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任意の曲の歌詞の一部を題材に、本来の結末とは違う行く末へと導く…というもの。 ショートストーリー。
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ラプンツェル

春を待つ胸が苦しいのだ

僕は失った。それはとても大切な存在を。

「愁くんまだー?」

僕を呼ぶ彼女の声。
その声に手は届かず、ぼくは彼女を探し続ける。

またこの夢だ。

どこか懐かしいような声。思い出せない。何かを忘れている。

2月。スギ花粉が飛び始めて、春がすぐそばまで来ている……ともいかす、辺りはまた雪景色だ。

この夢を見る度に、僕は苦しくなる。何かを待っているような、待たせているよ

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泥中に咲く

君を照らすために咲く花さ

「ふぅ。」

私はそっと本を閉じる。
ここは病院。生まれつき体が弱く、入退院を繰り返している。

「ひーいーらーぎーーー」

元気に私の名前を呼ぶ声がする。……厳密に言うと彼女も患者なので元気ではないけれど。

「柊!私も戻ってきたよ。」
「戻ってきてどうするのよ。また倒れちゃったの?そんなさけんじゃだめでしょ?」
「あっははは……。まあでも柊がいる時でよかったわ。あん

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夜明けと蛍

水に映る花を 花を見ていた

これは、まだ暑い夏が来る、その前のお話。

「何を見てるんですか?」

女の人はそう話しかけてきた。
僕は一瞬だけ声の方へ視線を移したが、また湖へと戻す。
すると彼女はあろうことか、僕の隣へと腰掛ける。

「私はあそこに浮かんでいる花を見てるんです。いつまでも枯れないなと思って。あなたは、よくここに来られてますよね。」

内心驚きながらも、僕は答えない。いや、座る場所

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