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「どうする、熊谷」

トップリーグ開幕戦レポート

W杯で「神対応」と絶賛された熊谷。
うれしい言葉、ありがたい評価だったけど、トップリーグ開幕を前に、僕は途方に暮れていた。

W杯と同じようにはできない。

そりゃそうだ、ラグビーワールドカップは国を挙げて臨んだ国際大会。国内リーグであるトップリーグとはわけが違う。でもW杯で盛り上がったラグビー熱は確実にトップリーグに流れてて、以前なら熊谷ラグビー場での観客動員数3000~5000人のところ、トップリーグ開幕戦のチケットは完売。予想観客数は2万人を超えると言われてた。

まず違うのは輸送手段。
交通手段はバス、車、タクシー、自転車、徒歩。電車で来る人が多いから、バスとタクシーと自転車に余裕がなければ、大半が徒歩になる。

熊谷駅からラグビー場まで、徒歩50分。

W杯でも3,000人の人が歩いてくれたし「遠さ」は周知されてる。とはいえ今回、県ラグビー協会が50台のシャトルバスを確保して、熊谷市が自転車シェアリングを紹介しても「バスが圧倒的に足りない」「駐車場もすぐ埋まるだろう」「同じ敷地内で成人式もあるって!」大変だ大変だと市内のあちこちでそんな声を聞いた。W杯の時には使えなかった駐車場利用を考えても、あの時同様3,000人規模で歩いてもらう以外に解決策は無いように思えた。

どうする、熊谷。

「開幕戦だし歩いてくれる人がいるかも」と誰かが言った。

確かに。
そんな希望もあったが、今後5月までに行われるトップリーグの熊谷開催は計7回。毎回毎回、ただ歩いてもらうなんて苦行だ。きっと続かない。「歩こう」「歩くのが楽しい」「また歩きたい」と思ってもらうにはどうしたらいい。

さらに違うのはボランティアさんの存在。

W杯のとき、市内やラグビー場にはボランティアさんが溢れていた。改札口を出たとたんに手を振って誘導してくれて、ラグビーロードで「がんばって!」「もう少し」と励ましてくれたボランティアさんが今回はいない。

予算もない、人もいない。運営側は目一杯やってる。でもこのままじゃ「熊谷、なにやってんだ、W杯の時はよかったのに」って言われてしまうと思った。それだけは絶対避けたかった。あんなにW杯に向けていろんな人たちが時間と労力をかけて積み上げた実績を、トップリーグの開始と共に継続どころか失ってしまうことだけは絶対に避けたかった。

ラグビータウンを掲げる熊谷市民である以上、もはや他人事じゃいられない。残されてるのは市民の力だと思った。

これで開き直れた。

クレームが来たっていいじゃん。どうせならやれること全部やろう。考えつくことやってみよう。たとえ失敗しても、熊谷は市民もワンチームでスムーズな運営と「おもてなし」しようとしてる姿勢が伝われば、次があるはずだ。

そう思い直した。

とにかく熊谷に来てくれる人たちをがっかりさせたくなかったから。


2020年。新年早々、思いついた具体策をSNSで発信した。柱は3つ①W杯のおもてなしレガシーを引き継ぐこと②観客輸送の課題解決として楽しくラグビーロードを歩いてもらうこと③ラグビー場の盛り上がりをまちの活性化に繋げること。これらを実現するために考えたのが、観客をハイタッチで出迎え歓迎する「熊谷ラグビーロードおもてなしハイタッチャーズ」立ち上げ、地元コミュニティーラジオ局「FMクマガヤ」でラグビー特番の放送、市内の飲食店を紹介したちらし「ウェルクマ」の配布。マスコットキャラクター「スク」と「マム」出動。

すぐに数名から賛同のメッセージを頂いた。
熊谷不惑倶楽部さんからはチームのセカンドジャージを「ハイタッチャーズのユニホームとして使って」と言って頂けた。

協力してくださる方々が現れたので、次にみんなが集まる場所を用意した。場所はLINEのオープンチャットグループ。(なぜLINEのオープンチャット機能を使ったかというと、どのSNSからも流入しやすいプラットフォームだと思ったから。それと最初は顔を知らない人同士の集まりになるから、プライバシーは守られている必要もあった。その条件を満たすのが僕の持ち合わせた情報ではLINEオープンチャットだった。でもLINEは使っていないとのメッセージも頂いたので急遽ツイッターだけはハイタッチャーズの別アカウントを作った)

また当日の実際の活動をイメージしてみたら、ハイタッチに抵抗ある人もいるだろうと思い、どう対策しようか考えたところ公道を使ったマラソン応援の様子が浮かんで、何か小旗を振ってもらうのもいいなと、市担当課やハイタッチャーズメンバーに聞いたらワイルドナイツの旗がたくさん貸してもらえることがわかった。それを今度は沿道にお住まいや事業所の方々に配ったらどうだろうと思ったけど、今回は思っただけで終わり、また次回以降チャレンジしたい。そんなことをライングループで呟いたら、ラグビーロード近くにお住まいのメンバーが「当日お子さんと通りに出て旗振って歩行者を応援しますよ」と言ってくれた。これには賛同してもらっている実感が湧いて涙が出るほど嬉しかった。(実際、当日にお子さんにワイルドナイツの旗を渡したところ、駅と沿道でハイタッチャーズとして活躍してくれた!)

ところで、企画にはお金がかかる。

今回は大きくいうとチラシ印刷費、ラジオ番組提供費合わせて2万円強。(着ぐるみは市からの無償貸し出し)そこでSNSで活動資金を募ることにした。すると1週間で予算額がほぼ集まった!口座に振り込んでくださった方、Polcaというクラウドファンディングサービスで支援してくださった方、直接渡してくださった方も5名くらい。1口1000円でお願いしてたから20名くらいから預かれたらいいと思ってたら5口の方もいて驚きながらも口数に関わらず本当に有り難かった。もし集まらなかったら自腹のつもりでいたから、必要額に達した時はホッとした。心配してくれてた妻に一番に報告した。
熊谷ラグビー合唱団やサンタ学校の仲間、SNSでは見ず知らずの方にまでお願いばかりの1週間。そんな中でも良い返事がもらえると単純にうれしい。思いつきで走り出す僕の背中を押してくれるのは、いつだって周囲からの「いいね、それ!」だ。その声、ほんとありがたい。

FMクマガヤで担当しているラグビーレギュラー番組水曜17時台「楕円に乗ってどこまでも!トラ!トラ!トライ!」でハイタッチャーズ参加を呼びかけたり、ウェルクマ参加店舗集めに四苦八苦したりしつつ、チラシデザインは木曜一晩で仕上げた。でもネット印刷は間に合わず、市民活動支援センターでメンバーに手伝ってもらいながら印刷、裁断でどうにか間に合った。新聞取材も来て頂いて有り難かった。(関連記事掲載頂いたのは埼玉新聞さん、毎日新聞さん)

そういえば、活動資金の口座振込み用に専用口座作りに行ったけど団体の規約が必要で諦めた理、市民活動支援センターに市民団体登録しようか合唱団の別活動としてやっていこうか迷ったけど、合唱団とはまた趣旨が変わってくるから、改めて「この指とまれ!」を宣言するつもりで新規で団体登録をした。またラグビー特番にゲストとして元ラグビー日本代表の三宅敬さんとラグビー応援ソング「Go forward」を歌う田中美里さんにオファーしたところお二人とも快く引き受けてくださったことは心強く、今回の企画に自信を強めた出来事だった。


1月12日、トップリーグ開幕当日。
朝9時から「ハイタッチャーズ」のメンバーは駅改札口のインフォメーションブース横に立ち、スクマムうちわや「ウェルクママップ」を配布しながらハイタッチ。駅から会場へ向かう人たちは「イェーイ!」「おお!」という感じで手を挙げタッチしてくれた。「KUMAGAYA」と目立つ熊谷不惑クラブのジャージを着ていたのも良かったらしい。何人かから「それどこで買えるの」と聞かれた。

試合会場では11時の開場と同時にハイタッチを始めた。(メンバーはその前からやっていてくれた)続々とゲートに向かう人たちも次々に手を挙げてハイタッチに応えてくれて観戦の雰囲気が一気に盛り上がった。その頃にはマスコットキャラクターの「スク」と「マム」も登場し、「ふわふわ」「かわいい」とたちまち人気者になって来場者と一緒に写真を撮ったりハイタッチしたりしていた。テレビ取材も受けて、スクとマムが夕方の情報番組の冒頭を飾っていたのは嬉しかった。でもまさか中に入っていたのがうら若き女子でしかも一人は中学生とは思わなかっただろうな。アテンドを買って出てくれたメンバーしのさんに結局スクマムは任せっきりになってしまって、楽しかったけどいろいろ大変だったとあとで聞来ました。しのさんごめんなさい&ありがとう。

「ハイタッチャーズ」は試合終了後にも活躍した。僕も熊谷駅で「来てくれてありがとう」の思いを込めてハイタッチしながら観客を見送った。たぶんメンバー1人につき300人以上にハイタッチしたんじゃないかと思う。


結局、試合後約3000人の人が駅まで歩いてくれたらしい。

熊谷駅まで歩いた人限定の「スクマムスタンプカード」企画(協会主催)で、パナソニックワイルドナイツ選手のトレーディングカードプレゼント(今回は稲垣選手だった)が大好評でよかったし、沿道のカラーコーンメッセージにクスっと笑って、FMクマガヤで放送したラグビー特番に耳を傾けてくれたことで「歩く」ことを楽しんでもらえてたら嬉しい。

「ハイタッチャーズ」のメンバーはハイタッチだけじゃなく、ラグビー協会さんから依頼を受けてカードプレゼントの手伝いもした。駅まで歩いて来てくれた方に「お疲れさま!」と声を掛けながらカードを渡した。実はこのとき「ハイタッチャーズ」メンバーと協会スタッフだけでは人手が足らず、いつのまにか「FMクマガヤ」のパーソナリティーの面々も手伝ってくれていた!「あれ、人たりてないじゃん、と思ったからなんとなく手伝っちゃってたよ、歩いてくる人みんな笑顔だったから楽しかったからおっけー!」なんて言ってくれて、まさに「ワンチーム」を感じた場面だった。みんなありがとう!

あとでSNSを見たら「友だちと話してたら50分あっという間だった」「訪れたファンとのハイタッチはRWCから衰えることなく健在」「帰りに熊谷駅でハイタッチできたのは良い思い出、また行こう」「見ず知らずの人なのにイェーイとハイタッチして帰路に着きました(笑)すごいぞラグビータウン熊谷」とツイートされててめちゃくちゃうれしかった。僕らの思いが伝わったって感じた。「ハイタッチャ―ズ」は、今回人数も時間も行き当たりばったりだったけど、できれば仲間を30人くらいに増やして今後も続けたい。

FMクマガヤでは、当日ずっと交通情報を配信してた。バス、駐車場の状況も伝えた。今後行われる試合の日にも情報を発信していく予定なので、熊谷に来るならスマホアプリ「FMプラプラ」を入れておくことも薦めて行きたい。

11時台と15時台に放送した「ラグビー特別番組」を聞いてくれた人もいるだろうか。11時台には二十歳を迎えたパナソニックワイルドナイツの福井選手から試合に向けてのメッセージを発信したできたことは番組の濃度を上げてくれた。協力頂いたチームと福井選手に感謝。

福井選手からのメッセージ
「パナソニックワイルドナイツの福井です。ワールドカップをきっかけに見てくださる方がすごく増えたと思いますが、敵、味方関係なくその選手たちに負けないよう頑張ります。応援よろしくお願い致します」

ちょうど当日は成人式でもあったし福井選手のリクエスト曲も流せたのは良かった。番組内では「わたしとラグビー」というテーマで視聴者からのお便りも紹介した。15時台は三宅さんと田中さんがゲスト出演。お二人から「みんなで楽しもうという感じがいいよね」と熊谷の盛り上がりをとても喜ぶ話を頂けた。僕は地元のコミュニティーFM局でお二人をゲストに「ラグビー特番」ができることに改めて感動しつつ番組ナビゲーターを務めた。(試合後必死に自転車を漕いだけれど番組参加できたのは30分から。もう一人のナビゲーター浅野さんにしっかり進めてもらった、ありがとう浅野さん)

「ハイタッチャーズ」としての当日はここまでだったけど、もう少し続きがある。

駅の賑わいも落ち着いた夕方17時から、熊谷駅南口のクラブLagoonで行われた田中美里さんと三宅敬さんによるイベント「勝手にアフターマッチファンクション」に僕はフード出店した。
これもミラクルなイベント。
何しろさっき試合を終えたばかりのクボタスピアーズの稲橋選手、大熊選手がゲスト、さらに高田馬場のラグビーファン御用達のお店「ノーサイドクラブ」のマスターもゲストDJという豪華さで試合映像見ながら選手から振り返り解説してもらえるという内容!「地域もチームも超えてただただラグビー楽しもう!」っていう気持ちが集まっていて、「そうだよ!こういうことだよ!」と思ったひとときだった。

こうしてお正月気分が完全にぶっ飛んだ慌ただしくも嬉しく楽しく次回への希望に火をつけて、僕の長めの一日が終わった。


ジャパンラグビートップリーグ2020。熊谷ラグビー場の入場者数は17,722人。

シャトルバスは50台、路線バスも大幅に増便した。3300台以上が駐車できる3カ所の駐車場は満車。シェアサイクルは100台以上利用された。試合はもちろん盛り上がったし、交通も僕が知る限り大きな混乱はなかった。もちろん駐車場満車情報の問題とか、出店ブースの行列とかプログラム配布場所がわかりにくいとか、「これはちょっと……」「こうしたほうが」という反応もあったので、必ず次につなげていきたい。

ラグビータウン熊谷
僕らにできること、僕らにしかできないことが、まだまだきっと、たくさんある。
さあまた準備開始だ。

臼杵 健

<12日開幕戦に向けてご支援頂いた皆さまへ>
ハイタッチャーズ立ち上げ間もなくで、内容もどうなるかわからないという状況の中、多大なるご支援を頂き、おかげさまで予定した企画を行うことができました。本当に有難う御座いました。

まだまだ5月までトップリーグは続きますし、海外リーグやオリンピック、小学生から大学生まである大会や女子、車椅子やブラインドラグビーなどラグビーの話題は尽きることはありません。熊谷に地域的には直接関わらなくてもラグビータウンとして積極的に絡んでいくことは大事だと思っています。常に市民間でラグビーの話題が会話の冒頭に出てくるようなまち、それがラグビータウンでもあると思います。引き続きそんなまちを目指していきますのでご支援頂ければ幸いです。

↓おまけ(開幕戦までを時系列で振り返ってみました)


12月30日 チケット半券サービスのお店募集tweet

1月2日 おもてなしハイタッチャーズを作ろうとtweet、駅前ファンゾーン化構想tweet、FMクマガヤでラグビー特番と交通情報構想tweet、資金はサンキューウォーキング募金アイデアtweet

1月3日 熊谷不惑倶楽部さんから提案頂き、ハイタッチャーズユニホームとしてクラブのジャージをお借りすることに

1月5日 ラジオゲスト田中美里さん三宅さん決定、自転車シェアリング試走会(沼上さん)、ハイタッチャーズ設立宣言(ライングループスタート)

1月6日 市RWC推進室と打ち合わせ(スクマム 借用、インフォメーションブース駅設置、チラシ配布許可など)

1月7日 沼上さんの「シェアサイクルに乗って熊谷へラグビーを見に行こう」レポートUP、ハイタッチャーズのTwitterアカウント作成
半券サービス店お願い連絡、埼玉県ラグビー協会と打ち合わせ

1月8日 埼玉新聞取材(11日掲載)

1月9日 12日のハイタッチャーズ活動予定を発表、募金開始、ラジオ特番お便り「私とラグビー」募集開始、クラウドファンディングポルカ立ち上げ
「田中美里と三宅敬の勝手にアフターマッチファンクション」告知出る、ノーサイドクラブで田中美里ちゃんと仲間たちの集まりに参加、熊谷経済新聞取材(10日配信)、 チラシ原稿完成
1月10日 ハイタッチャーズチラシ印刷、市民活動団体登録、毎日新聞取材(11日掲載)

1月11日 出店用ベーグル仕込み

1月12日 開幕戦当日

am5:00 焼き終わり 出店出発準備

am8:00 熊谷駅へハイタッチャーズ備品搬入(チラシ、ユニホームなど)

am8:30 車移動 ラグビー場にて出店設営 スクマム チーム、推進室さんと打ち合わせ

am9:30   ラグビー場出発 熊谷駅へ ハイタッチャーズ参加  NHK取材 自転車シェアリング案内 ラグビーyoutuberマサキさんとハイタッチなど

am11:00 ハイタッチャーズ会計小久保くんと自転車でラグビー場へ FMクマガヤ「楕円に乗ってどこまでも!トラ!トラ!トライ!」を聴きながら

am11:30  ラグビー場yハイタッチ スクマム 合流 フジテレビ取材(スクマム )TBS取材(インタビュー)NHK取材
pm0:00 ハイタッチャーズ一旦解散 ウスキングベーグル出店へ

pm0:50 出店完売

pm1:00 キックオフ

pm2:45 試合終了 出店撤収準備 ラグビーボール石像付近へハイタッチへ

pm3:15  ハイタッチャーズを小久保くんに託し、自転車で熊谷駅へ

pm3:30 FMクマガヤ出演

pm4:00   ラジオ終了 駅ハイタッチへ スタンプラリー景品ガッキーポストカード引き換え手伝い

pm4:30  車でラグビー場へ 出店撤収

pm5:00 ハイタッチャーズ本日活動終了の知らせ受ける 車で店へ

pm6:30 Lagoonでの「勝手にアフターマッチファンクション」で出店
pm8:30 イベント終了
pm10:00  帰宅



頂いたサポートはおもてなしハイタッチャーズの活動に充てさせて頂き、ラグビータウン熊谷をもっと熱くしていきます