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オンラインで「対話型鑑賞×メタダイアログ」の実験をしてみた。

こんにちは、臼井隆志です。今日は「アートの探索遠足#004」のレポートです。「アートの探索」マガジンの読者の方とアートを通じた学びを体験する、ゆるいイベントです。

このマガジンは、子どもが関わるアートワークショップを専門とする臼井隆志が、ワークショップデザインについての考察や作品の感想などを書きためておくマガジンです。週1~2本、2500字程度の記事を公開しています。

観客として、そして対話の技術の共有として

私たちがアートの観客として、家にいながらできることは何か。アートを触媒にオンラインで対話する技術とは何か。

これらの問いを定めながら、アートの探索遠足では、3月に引き続きオンラインでの対話型鑑賞の場づくりをしました。

前回は、google Arts & Cultureのサイトを用い、ニューヨークのグッゲンハイム美術館を(擬似的に)訪れ、2つの作品についての対話を行いました。

前回のレポートはこちら

今回は、鑑賞だけでなく、鑑賞した経験を振り返る「メタダイアログ」を組み合わせた場作りをしてみました。

ピーター・ドイグ展へ

今回テーマにしたのは、国立近代美術館で開催中だったはずの「ピーター・ドイグ展」です。

ピーター・ドイグの作品は、観客が何かしらの「既視感」を覚えながら、同時に知らない風景の中を彷徨うような「未視感」をつくりだします。

今、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、ぼくたちが経験したことのない生活をしています。一方で、自宅で料理をして食べたり、ZOOMでの会議はこれまでも経験してきたことでもあります。

自宅での生活やオンラインでの仕事など経験したことのある「既知の状況」が、感染症の不安という「未知の状況」に折り重なっている、この既視と未視のあいだに彷徨うぼくの心情がドイグの作品に重なる感じがして、このテーマを選びました。

対話型鑑賞の実践

今回は、オンラインホワイトボード「MURAL」を用いて「チェックインボード」を作ってもらい、参加者それぞれに自己紹介をしてから対話をスタートしました。

鑑賞した作品は「ラペイルーズの壁」です。

はじめに、2分ほど、この絵をじっくり見てもらう時間を設けます。その後、「この絵を見て気づいたこと、感じたこと、考えたことはありますか?」と問いかけていきます。

「夏のような、気持ち良さそうな空の色と日照り」
「日傘に穴が空いている」
「寂しい感じがする」
「傘が小さいし、ピンク色だから、子ども用のものなのかな?」
「亡くなった娘さんのもの?」
「塀の向こうに何があるんだろう?」
「この塀がもし低かったら、絵の印象はどう変わるんだろう?」
「海?」
「田園?」

ここまで対話が進んだところで、この作品についての情報提供を行いました。

この絵に描かれているのはトリニダードにある「ラペイルーズ」という墓地の塀であること。ここに描かれたおじさんは、ドイグも実際に会ったことがある人で、毎日街の中をさまようように歩いているとのこと。

撮影した写真をベースに描かれ、右上に写り込んでいたおじさんを中心のモチーフに据えて描きなおしていること。同時に、小津安二郎の「東京物語」に出てくる熱海の防波堤のイメージも参照されていること。

これらの情報に基づきながら、再び対話を進めていきます。

「このおじさんの影が、異様な形なきがする」
「そもそもこのおじさんの体の線も、くねくねしていて、足の曲がり方も気になる」
「塀の模様も、赤、深い緑、白と、謎めいている」
「この絵を最初に見たときに、ムンクの『叫び』に似ている。明るい空と路上の照り返しに挟まれた、ムンク、みたいな」

と、絵画に対する解釈はさらに深まっていきました。

「絵の感想を語った感想」を語り合う、メタダイアログ

30分~40分ほど鑑賞をしたのち、後半は3人1組のグループに分かれて「3ピースダイアログ」を実践しました。

3人1組で、話し手・聞き手・書きとり手の3つの役割に分かれ、7分ごとに役割を交代していきます。

その7分間も、最初の3分は語り手に自由に語ってもらいますが、次の2分間は聞き手と書き手が話を整理します。最後の2分間で、追加のインタビューをしていきます。

この対話の中で、「あらためてこの作品から何を感じたのか」が語り直され、「なぜそう感じたのか?」が問われていきました。

ツイッターに投稿しているのは、この3ピースダイアログで、参加者の方々に描いていただいたメモです。

問い合うことを楽しむ場が生まれた?

MURALの使い方や推奨環境などを十お伝えできないままワークをスタートしため、付箋に書き込みができないなどのアクシデントがありました。参加者の方を焦らせてしまったところなど、反省も多々あります。(十分にお伝えできず、失礼いたしました🙇‍♂️)

ですが、ぼくはものすごくドキドキしながらファシリテーションをしていました。

ドイグの絵に対して、多様な解釈が広がっていくことや、参加者の方々のこれまでの経験が投影されながらもそれが混ざり合い、ますます作品の意味が謎めいていく気配がありました。

なにより、後半の3ピースダイアログでは「聞き手役」になった方々が「問う」ことを楽しんでいるように感じられたのも、とても嬉しく思いました。

オンラインでも「この場にいる他者が何を感じたのかもっと知りたい」という思いが感じられ、問いかけ合う場が生まれたと感じました。

次回予告

次回は、2020年5月23日(土)11:00~12:30開催を予定しています。何かしら「つくる」「手を動かす」活動と鑑賞をサンドイッチにしたようなプログラムをやってみたいなと思っています。

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