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3人1組で「ブラインド・トーク」をやってみた

言葉だけでものごとを伝えようとするとなかなかうまくいかないこともあります。しかし、ぼくたちは言葉に頼って生きています。だからこそ、言葉の使い方を一歩踏み込んで考えていきたいと思っています。

ということで、「見えないものを想像する手がかりとは?」という問いにもとづき、ブラインド・トークを開催しました。今日はそのレポートを書きます。

このマガジンは、アートワークショップの設計を専門とする臼井隆志が、ワークショップデザインについての考察や作品の感想などを書きためておくマガジンです。対話型鑑賞イベントの実施に加え、週1~2本、2500字程度の記事を公開しています。

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3人1組のブラインド・トークとは?

ブラインド・トークとは、絵を見ている人が、絵を見ていない人に対して、その絵に描かれたものを言葉だけで伝える活動です。絵を見ていない人の頭のなかに言葉を通して絵を描く活動でもあると言えます。

今回は、この「ブラインド・トーク」を3人1組で行いました。1人が目を閉じて絵を想像する役。2人が絵を見て説明する役です。

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このとき、説明役の2人がそれぞれに役割を分担します。1人が「FACT」つまり客観的に説明可能な事実を話します。もう1人が「TRUTH」つまりその人の”解釈”を伝えます。

こうすることで、FACTとTRUTH、それぞれが人間の想像力にどのような影響を与えるのかを考えてみたかったのです。

アートを言葉にするためのFACTとTRUTHとは?

一つの作品を例にしてみましょう。

環境彫刻家アンディ・ゴールズワージーの「Slits Cut into Frozen Snow, Stormy…」という作品です。この作品を用いて、3人1組でブラインドトークをやってみました。

この作品の客観的な事実(FACT)とは

・4:3ほどの横長の写真作品である
・雪原の奥に雪山が広がっている
・雪原の真ん中に氷の構造物がある

といったものです。

一方その解釈(TRUTH)とは

・氷の様子が不自然で、異物感がある
・それによって不穏な気持ちになる
・なにやら神聖な感じがする
・それによって背筋が伸びるような気持ちになる

このような、説明役が見出したTRUTH(解釈や感情)は作品のイメージにどのような影響を与えるのか?ということが、今回の実験の問いのひとつでした。

解釈を一言添えると、頭の中の彩りが変わる

面白かった事例が一つあります。

ゴールズワージーの作品に対して、説明役(TRUTH)が「神聖な感じ」と言いました。それに対して、聞き手がイメージしたのが、色とりどりの絢爛な風景でした。

それまで雪原の説明などで丁寧に白が基調となっていることを暗黙に伝えていたにも関わらず、たった一言、解釈の言葉が添えられるだけで、頭の中のイメージの色彩が変わってしまうのです。

こんな風にして、3人ひと組のブラインドトークを通して、どのような言葉が正確なイメージを想起させたのか。あるいはどのような言葉がイメージを変えたのかを探索していきました。

3者のダイアログがイメージをつくる

また、この実験をしたことによるもう一つの発見は、3者のかけあいの重要性です。

一人がFACTを説明し、一人がTRUTHを説明する。10分程度の制限時間をこの2つのモノローグで終わらせてしまうと、なかなかうまくいきません。

まず、聞き手側からの質問が重要になります。

「こういう構成になっていることは、今までの説明でわかったのですが、この部分がわかりません。どうなっていますか?」といった問いを通して、聞き手自らがアクティブにイメージ作りに参加することが重要になります。

加えて、説明役同士のかけあいもまた作用することがわかりました。

「私はこう思ったんですけど、Aさんはどうですか?」と説明役同士が問いかけあい、対話することで、聞き手がその解釈のギャップを感じ取り、イメージを補足することができるようなのです。

なぜブラインドトークをやろうと思ったか?

最後に、この実験の企画意図を書いておきます。

今回のプログラムは、ぼくにとって一つの実験でした。それは、鑑賞者同士がファシリテーターが不在でもアート作品を巡ってた対話するにはどのような仕掛けが必要なのか?という問いをめぐるものでした。

というのも、対話型鑑賞のファシリテーションをするとき、参加者同士の自発的な対話を起こすにはどうすればいいのか、いつもわからないからです。

どうしてもファシリテーターが問いを発し、参加者が答え、それをパラフレーズしながらまたファシリテーターが問いかける・・・というキャッチボールになります。

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理想は、ファシリテーターも問いかけるけど、参加者同士も問いかけあい、意見を交わしてもらうことなのです。

参加者同士が説明したり問いかけたりせざるをえない状況であるブラインド・トークから、何かヒントが得られるのではないか?と考えました。

結果的に、作品を巡って自律的に言語化するしかけにはなったなと感じます。

しかし、課題としては、TRUTHをめぐる意見の対立が起こりづらいのではないか、ということです。

次回のぼくの課題は、参加者同士の自律的な対話をうながしつつ、解釈の違いや認識のギャップをめぐる対話を起こすには、どうすればよいか?というものです。

次回もまた、対話型鑑賞を楽しみながら、ファシリテーションのための実験をしてみたいと思っています。

参考図書

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