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「共感」と「同感」の違いについて

ぼくが寄稿し、編集チームとしても参加している雑誌「Tired Of」の創刊号が発売されました。

「遊び」に関する哲学な論考から実践知をめぐるインタビュー、写真、ちょっとしたワークスペースなど、さまざまな企画がてんこ盛りです。あなたのなかにある「遊び」が息吹き始める、素敵な本になっていると思います。

ぼくは「ココロ此処に在らず 第一回「インストラクションアート」と遊び論、そしてコロナ禍の育児」というタイトルで連載の初回を寄稿しました。コロナ禍の育児における葛藤と、そこに入り込んできた「インストラクションアート」が引き起こす「空想遊び」の可能性について、自身の経験をたっぷりに盛り込んだエッセイを寄稿しています。

このエッセイを書いた背景には、コロナ禍の葛藤について誰かに共感してほしい!共感したい!という渇望がありました。

この共感とは一体なんなのか、モヤモヤと最近考えています。

子連れで集まり、子ども同士が遊ぶのを横目でみながら親同士で雑談をする。「その話、わかる!うちはこうなんだよ」と「わかる!」と「うちはね…」の繰り返しで話に花が咲くことがこれまでは多くありました。それによって癒されていました。

しかし、コロナ禍においてそのような時間を作ることが難しくなっているいま、こうした共感への渇望が生まれています。集い、雑談することとは別の仕方で、共感をうむ関係を作ることは可能か?と考えています。

そんな流れのなかで、今日は、「共感」「同感」「ケア」について考えてみたいと思います。

「共感」と「同感」の区別

ちょうど先日、1冊の本を読んでいて「共感」と「同感」を区別する視点を知りました。

この本のなかでは、同感と共感が以下のように区別されています。

同感は、自分自身の経験やそのときわき起こる思い、情感をそのまま、ストレートに相手に当てはめる(投影する)こと

「同感」は、反射的に他者に自分を投影する行為であり、「わかる!私にもこういうことがあってね…」といった具合に、即座に自分の経験を語り得えるものだと言えます。ある種、自他が混同した状態です。

一方、「共感」はこのように書かれています。

共感は、まず自分自身を「からっぽ」にして、そっくり丸ごと、相手の中に入ってしまうことです。

一旦自分の経験や感情を脇において、「相手はどう感じているのか?」を、相手の身体のなかに入って考えることだと言えます。自分自身を忘れて「憑依」する感覚に近いでしょう。

「共感」を批判的に考えてみる

同感との違いは「自分の経験や感情を相手に当てはめない」という点です。

安易に「同感」してしまうと、結局自分の解釈を相手に当てはめていることにしかならず、新しい発見は生まれ得ない。自分のことを脇に置いて相手の声に耳を傾け、相手の見ている世界を共に感じることが大切だという論理はわかります。

しかし、ここにはある種の「上から目線」が内包されているようにも感じてしまいます。

例えば子育てにおいて、「親が自分のことを脇に置いて、子どもに共感してあげることが大切だ」という話をよくききます。しかし、親も自分のことで葛藤したり悩んだりしています。心に余裕がなければ、自身の葛藤を脇に置くことなどできないでしょう。心に余裕のある親が、子どもを「助けてあげる」という視点があるように感じてしまうのです。

人は他人をケアするとき、同時にケアされてもいる

ここで、「ケア」という概念について考えてみます。

ケアというと、「ケアしてあげる」というふうに、ケアする/されるという二項関係が明確に存在するように感じます。しかし『ケアリング』を著したノディングズは、「人は他人をケアするとき、同時にケアされてもいる」としています。

「上から目線」で他者の弱さを助けてあげるのではなく、水平な関係のなかで他者と自分の弱さを引き受け合う関係を作る、ということなのでしょうか。

ぼくはまだ、この言葉の真意を理解できていません。

ただ、「ケアするとき、ケアされてもいる」という感覚は、親同士の雑談の経験などから、どこかでよくわかる気もするのです。他者と私がケアし合う、あるいは共感し合うとはどのようなことなのでしょうか。もう少し、考え続けてみます。

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