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アートの探索遠足#1 白髪一雄展レポート

こんにちは、臼井隆志です。今日は、今年から新しく始める「アートの探索遠足」のお誘いです。この企画は「アートの探索」マガジンの読者の方と、リアルな場でアートを通じた学びを体験することを目的としています。

このマガジンは、子どもが関わるアートワークショップを専門とする臼井隆志が、ワークショップデザインについての考察や作品の感想などを書きためておくマガジンです。週1~2本、2500字程度の記事を公開しています。

2020年1月25日「アートの探索遠足」を開催しました。

この企画は、臼井隆志の定期購読マガジン「アートの探索」をご購読いただいている方々と一緒に美術展に足を運び、対話型鑑賞を楽しむゆるいイベントです。

毎月第4土曜日に実施を予定しています。今日はそのレポートを書きます。

白髪一雄展へ

今回は、オペラシティアートギャラリーでオープンしたばかりの「白髪一雄 a retrospective」です。白髪一雄は、日本の抽象絵画を代表する作家で、元永定正らとともに「具体美術協会」を牽引しました。

床においたカンヴァスに油絵具をたっぷりと山盛りにし、天井からぶらさげたロープにつかまって足で絵具を踏み、滑らせて描く「フットペインティング」という画法で歴史に名を残しています。

その作品たちは、身体・運動の探索の痕跡からほとばしる生命の躍動を感じさせます。ぼくが以前、赤ちゃんとのワークショップを開発したとき、白髪さんの探索と赤ちゃんの探索に通底するものを感じ、その活動を参考にしていました。

そんな個人的な思い入れもあり、この展覧会を今回の目的地にしました。

まずは全体をながめる

朝10時50分、オペラシティアートギャラリーの前に集合します。6人の参加者の方とともに、かんたんな目的説明と自己紹介をしてから、展覧会の会場に入ります。

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チケットを買って、ロッカーに荷物をあずけ、いざ鑑賞スタート。

最初の20分は、展覧会をさっと見て回ります。ぼくはみなさんがゆったりと鑑賞しているあいだに、会場の全体マップを把握し、鑑賞したら面白そうな作品とその位置を確認しました。

鑑賞しやすい位置を気にしたのは、もし展覧会が混雑したばあい、4、5人の対話でも、動線を塞ぎ、他の鑑賞者の邪魔になってしまうからです。

作品の前後左右に余白が大きくあることや、近づいたり下がったりしても展覧会の導線を塞がないことなどが、対話型鑑賞をしやすい条件なのです。

ひとつめの作品で対話をする

みなさんが2/3ぐらい展示を見たかな?というところで、まずウォーミングアップとしてひとつめの作品を鑑賞します。こちら、撮影OKの作品だったので、掲載しておきます。

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半円のような統一された形がある。
左上の青やピンクがかった赤から、生命感や清涼感を感じる。
円のなかに、左から右にいって、右から左に戻るという時間や運動を感じる。
精緻に描かれていない感じから、微妙な蠢きを感じる…

といったように、絵画を観たことで想起されたものが交換されていきます。

ふたつめの作品で対話をする

次に鑑賞した作品は、乳白色の油絵具が厚塗りにされ、月面の探索後のような形状になった作品でした。

絵具の立体感が、絵画なのか彫刻なのかわからなくなる。
絵具が乾燥した後のヒダがどのようにできたのかが気になる。
他の絵が赤や黒など情動に訴える色だったのに対して、この作品は乳白色だから、目の焦点が合わない。
焦点が合わないというより、作家が塗りたくった運動を追いかけるように目が一箇所に落ち着かず動いてしまう。
「何かに見える」とか「一つの像を結んだ」というより、作家がぬりたくって試行錯誤した痕跡そのものなんじゃないか?

といった想像が交換されました。ほかにも、

冷めたカフェオレをレンジでチンしたときにできる膜に見える
塗装途中の壁に見える。こんな壁が街中にあって、子どもだったらどうするだろうか。
ケーキの生クリームがうまく塗れない感じを思い出した。
といった絵の見立ても交換されていきました。

キャプションには「扶桑」というタイトルが書かれており、意味を調べると中国の伝説の巨木であったことがわかります。

言われてみると巨木にも見えてくる。予め巨木を描こうとしたのか、あるいは描いたものを見立てて「扶桑」というタイトルをつけたのか、どちらなんだろうという疑問を伝えて場を閉じました。

みっつめは、一つの部屋で対話をする

作家の年表や、製作に使っていた道具などの展示を見てから、もう一度展覧会場をめぐりました。そして、参加者の方からの発案で「2つ以上の作品を同時に対話してみよう」という話になりました。

展覧会にありがちな「テーマで部屋を区切る」ということがなく、作品の説明文もないので、暗黙に区切られた部屋ごとのテーマを読み解く楽しさもあります。

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そんななかで、一つの部屋で複数の作品を見ながら「この部屋から感じる印象は?」という問いで対話をしていきました。

さっきの「扶桑」と違い、この部屋にある作品は、明確にかたちを描き出そうとしている意図を感じる。
円環のかたちから、宇宙や太陽といったものに見える。
ナルトの螺旋眼みたいな形とか、水しぶきのかたちとか、見立てられるものが多い。
この部屋に置かれた作品の「白」がやたらと印象に残る。

など、空間を見渡しながら行う対話型鑑賞は、目だけでなく空間全体でゆったり動きながら対話をするリッチな時間になりました。

対話型鑑賞を終えて

2時間弱の対話が終わったあと、ロッカーから荷物をみんなで取り出し、それとなく感想を語り合い、ゆるやかに解散。その後、数人でランチにいきながら対話してみた感想やお互いの興味関心について話しました。

このかんじ、ジムにいって心地よく運動した後にもにてるし、温泉に入ったあとみたいでもあるし、あるいは特殊な音響空間から出てきたような感じもありました。

対話型鑑賞と聞いたとき、かつてのぼくは「なにその地味そうな活動。絵を見て話すって、、、、つまらなそうw」と思っていました。

たしかに静謐で地味な活動ではあります。しかし今日あらためて確認できたのは、対話型鑑賞は"美的感覚を用いて行う複数人での運動"なのだということです。

対話型鑑賞の経験は、何に似ているのか?

アートを見ることで、作品からさまざまな情動、イメージ、身体の運動を思い浮かべます。そのとき、日常では使わない知覚が働きます。

つぎに、ファシリテーターの"問い"を触媒に、自分の知覚をいいあてる言葉を探します。このとき、日常とは異なる言語感覚も働きます。さらに、それらの言葉を他者と交換し、絵画をみる知覚への解像度があがっていきます。

そのプロセスは、どちらの解釈が正しいかを競うものではありません。最適解に向かって一つの合意を形成するものでもありません。情感を交換するセッションです。どこかしらスポーツや音楽の即興セッションにも似ています。

「対話型鑑賞とはどのような経験なのか?」「何に似ているのか?」をめぐって、これからも考えていきたいと思いました。

イベント後のランチでもらったnoteのヒント


また、鑑賞後のランチをしながら、いくつか書くべきnoteの宿題をいただきました。

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