見出し画像

オンラインで「見えない絵」についての対話する

こんにちは、臼井隆志です。今日は「アートの探索遠足」のレポートを更新します。

今回は、先日実践したオンライン対話型鑑賞イベントのなかで「ブラインドトーク」という活動を実施した話を書きました。

このマガジンは、子どもが関わるアートワークショップを専門とする臼井隆志が、ワークショップデザインについての考察や作品の感想などを書きためておくマガジンです。週1~2本、2500字程度の記事を公開しています。

見えないものを想像する日常

ミーティングや打ち合わせで、こんなシーンによく出会います。

相手がモヤモヤしていることは伝わってくるが、そのモヤモヤが何なのかがわからない。そのために会話が快活に進まない。

こんなとき、相手の頭にはこんなことが浮かんでいるかもしれません。

「そもそもモヤモヤしていることを打ち明けてよいのか?」
「打ち明けるとしてもどう言葉にすれば良いのか?」

このとき、ぼくたちは聞き手として、問いかけによって話し手をサポートすることができます。

「いまどんなことにモヤモヤしてますか?」
「そのモヤモヤについて話すことに時間使っていいですか?」
「今の話題に対して不愉快なことってあります?」
「それによって脅かされるものはどんなことですか?」
「逆に共感できる部分があるとすれば、どんなところですか?」

などなど。

これらの問いに答えてもらうことで、聞き手は相手のモヤモヤへの解像度を上げていきます。

こうしたやりとりは、相手の頭の中にある、見えないイメージを問いかけによって共有しようとする対話的活動です。

見えないものを想像し、共有する方法とは?

心の中の見えないものを想像する方法を、ぼくたちは日常のなかでさまざまな仕方で探索していると言えます。とりわけ、リモートワークが急増した今、多くの人が抱える課題となっています。

対話型鑑賞の方法のなかには、そんな状況によく似ている活動があります。

それが、今回実験した、見えない相手と絵画を語る「ブラインド・トーク」です。

ブラインドトークとは?

ブラインドトークとは、絵を言葉で説明し、相手の頭に想像させるゲームのような活動です。

ペアになり、説明役と聞き役に分かれ、説明役はお題となる絵を見て、言葉だけで絵を説明します。聞き役はその言葉だけを頼りに、お題となる絵を想像します。

この活動を、今回はオンラインで実践しました。プログラムはこんな感じ👇

オンライン・ブラインド・トークのやり方

スクリーンショット 2020-05-28 21.25.05

① まず、参加者をペアに分けます。そして、説明役を決めます。

② 説明役1人1人に、チャット機能のプライベートメッセージでお題となる絵画のURLを送ります。

③ [WORK1:実践]最初の5分は、ブレイクアウトルームを開き、説明役から聞き役に絵を説明するワークをしてもらいます。このとき、聞き役から説明役に質問することはOKです。

④ 次の5分で、ブレイクアウトルームを閉じ、メインセッションで「ネタバレ」をします。

⑤ [WORK1:リフレクション]その後、またブレイクアウトルームを開き、振り返りをおこなってもらいます。

このときの問いは「イメージと合っていたところ、ズレていたところはどこか?」「どのような説明、質問があれば絵画とイメージを合わせることができるか?」といったものです。ここで、うまくイメージを合わせるコツを検討してもらいます。

⑦ さらに、ブレイクアウトルームを閉じ、メインセッションで各ペアから全体に向けてコツを共有してもらいます。

⑧ [WORK2:実践+リフレクション]今度は聞き役と説明役を入れ替え、また先ほどと同様に、チャットのプライベートメッセージで新しいお題の絵画のURLを送り、③〜⑦の手順を繰り返します。

今回は、こちらの二つの絵画をテーマに扱いました。

そして最後に、この日のワークの感想を書き込んでチェックアウトをしてもらい、プログラムを終了しました。

チェックアウトの感想はこんな感じ👇

スクリーンショット 2020-05-28 21.29.15

スクリーンショット 2020-05-28 21.28.44

絵を正確に伝えるのか、解釈や印象を伝えるのか

ここからは、臼井が感想の中で印象に残った言葉を書いておきます。

ひとつ今回議論のポイントになった問いは、「絵を正確に伝えるのか、解釈や印象を伝えるのか?」でした。

ブランドトークの目的は、見えない人の頭の中に絵が正確に描写されることです。しかし、ただ淡々と描かれたものを語るだけでは、その絵の面白さや味わいは伝わらず、結果として頭の中に絵が像を結ばないことがあることがわかりました。

つまり、見たことのない絵を想像するためには、描かれたものとその印象が必要であるということなのかも知れません。

「言い澱み」こそ味わい深い

また、このような意見もあり、大変興味深く聞きました。

サクサクと描かれている物や配置を説明していた説明役が「うーん、これは何と表現すればいいのだろう?」と言い淀むシーンがあったそうです。そのとき聞き役だった方は、「その場所には何か言葉では表現しにくい何かがあるのだな」と、逆に想像するのが楽しくなったと言います。

言い表しにくいものを、わかりにくいからといって想像から除外するのではなく、その想像をこそ楽しむ。「こうかな?」と頭の中で空想したイメージが、「そうじゃなくて・・・」とズレる感覚が面白いとのこと。

"たとえ"は賭け

「時間も限られているし、上手く伝わるかわからないなかで”たとえ”を使うのは賭けだと思った」

絵のなかに現れているうまく言えない形状やニュアンスを”たとえ”を用いて説明することで相手とイメージを共有しようとします。

この"たとえ"によってイメージが上手く伝わる場合もあれば、ずれてしまう場合もある。そのリスクを承知で”たとえ”を使うのが面白いという意見でした。

たしかに、日々のミーティングでも、ニュアンスを伝えるために”たとえ”を用いて成功する例もあれば失敗する例もありますよね。そうしたアナロジーを考える力が鍛えられるのも、アートを見て言葉にする楽しみの一つであると言えそうです。

次回

来月もまたオンラインで対話型鑑賞イベントをやっていきたいと思います。
「ブラインド・トークを3人一組でやってみたらどうなるんだろう!?」という参加者の方のアイデアから、実践してみたいと思っています。

6月上旬に告知しますので、ぜひご期待ください。

ここから先は

0字
マガジンの売り上げは、アートワークショップの企画や、子育てをする保護者やケアワーカーがアートを楽しむための場づくりの活動費(書籍購入、リサーチ費など)に使わせていただきます。

アートの探索

¥500 / 月

このマガジンは、アートエデュケーターの臼井隆志が、子育てのことや仕事の中で気づいたこと、読んだ本や見た展覧会などの感想を徒然なるままに書い…

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。いただいたサポートは、赤ちゃんの発達や子育てについてのリサーチのための費用に使わせていただきます。