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連載:都市空間生態学から見る、街づくりのこれから

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2015〜2020年にかけてNTT都市開発・東京大学Design Think Tank(DTT)・新建築社の3者で行われた共同研究「都市空間生態学」の紹介と、それに紐づく「いま考… もっと読む
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当たり前に向き合ってまちをつくる|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.12

都市空間の生態という「意地悪な問題」にどうアプローチするか ──この連載では都市空間生態学から抽出したエッセンスをいまの社会にどう生かすかという視点から、「まちの主体は誰か」「温度あるデータ」「ブラブラの価値」といったトピックについてこれまでお書きいただきました。今回は、まず都市空間生態学のそもそもの出発点からお聞きしたいと思います。 2015年の研究発足当初は、「データや情報技術を用いたデジタルなデザインの使い所として、都市は面白いんじゃないか」というところから僕の関心は

新しいまちの尺度から浮かび上がる「間地(まち)」|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.11

文:木内俊克 皆さんは都市の評価指標や都市ランキングというものを見ることがあるだろうか? 行政による都市政策立案から個人による自分が住みたいまち探しまで、使われ方もスケールも対象も様々だが、全体像が把握しづらい都市だからこそ、統計データを駆使してその傾向を可視化できるようにするという目的は共通している。指標をつくる主体は様々で、国際規格が定められた指標から、いわゆるシンクタンクや企業の研究所によるものまで多岐に渡る。評価は他都市と比較してはじめて相対的にその良し悪しが判断で

〈ブラブラ〉が育まれるまち_東池袋エリアから考える(後編:暮らしのプラスαとしてのブラブラ)|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.10

前回に引き続き、旧日出町界隈を含む、豊島区池袋エリアでコミュニティづくりに携わってこられた中島明氏(としま会議 代表、RYOZAN PARK インキュベーションマネージャー)のヒアリングをお届けする。 前編では、社会実験を行った2018~2019年当時から現在までの4年間、交通のモードの変化や子どもの遊び場の増加など、社会実験でも変化が求められていることが明らかであった要素が、ここに来て次々と実現しつつある状況をお伺いできた。そこには、南池袋公園にはじまり、豊島区が力を入れ

〈ブラブラ〉が育まれるまち_東池袋エリアから考える(前編:住み暮らすことが育むまち)|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.9

文:木内俊克 〈ブラブラ〉が育まれるまち。それは自転車や歩きでめぐりたくなるきっかけがそこかしこにあって、偶然見かけてついつい寄り道したくなるような場所が、宝探しのように点在しているまち。前回、前々回の記事では、そんなまちの魅力を具体的に捉えるため、都市空間生態学研究で2016~2017年に研究対象とした台東区の三筋・小島・鳥越(以下、三小鳥)を紹介した。この三小鳥、用途地域は「商業地域」で、かつては江戸随一の遊興地・浅草に隣接し、昭和期には町工場とその労働者の空腹を満たす

〈ブラブラ〉が育まれるまち_「三小鳥」から考える(後編:まちの活性化を、点から線で考える)|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.8

前回の記事に引き続き、三小鳥(三島・小島・鳥越)のおかず横丁で焼豚屋を営む遠藤剛氏(株式会社遠藤商店)のヒアリングをお届けする。 前編では、われわれが三小鳥で2回目の社会実験を実施した2017年以降でまちに見られた変化、特にコロナ禍によってまちの人々の視線が外から地元へ再び向けられ、アクションを起こす機運が高まりつつありことや、高齢化とマンション建設によってまちの変化が加速しているが、若い方々の流入でまちに新しい風が吹きつつあることなどが触れられた。 後編である今回は、三

〈ブラブラ〉が育まれるまち_「三小鳥」から考える(前編:コロナ禍が地元を見直すきっかけに)|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.7

文:木内俊克 前回の記事では、生活者にとってまちの経験が豊かであるということは、まちをブラブラする楽しさがあるということではないかと書いた。 そして一歩踏み込んで、〈ブラブラ〉とは回遊であり、予定された目的の外側にある、偶然やまだ知らない何かとの出会いをもたらしてくれる寄り道や予定変更である、という要点にも触れた。 つまり、そんな回遊のきっかけがそこかしこにあり、予期していない影響を受けられる場所は豊かだと。では寄り道や予定変更といった回遊のきっかけがそこかしこにあるまち

まちをブラブラするという価値の耕し方|「都市空間生態学から見る、街づくりのこれから」vol.6

文:木内俊克 まちをブラブラすることが好きだ。 特に、研究の対象地とするまちを探しにブラブラしているときは実に楽しい。辿ったことのない道を選び取り、目に飛び込んでくる風景、肌をなでる風や空気の湿りけ、かすかな香り、そこにいる人の気分や人がいた痕跡、それらの感覚を頼りに辿る道を選び取りながら、同時に辿ってきた記憶をあたまの中で整理しては、まちの骨格や特徴を読み取る。 まちのイメージを探りながら、その先に今は見えていない何かに出会うかもしれない瞬間を待って、積極的に漂い続け

温度をつくることからしか、街まちづくりははじまらない|都市空間生態学から見る、街づくりのこれから vol.5

文:木内俊克 前回、前々回と扱ってきた「温度あるデータ」と街づくりについて、ここまでの流れをふりかえっておこう。 人びとが感覚や感情で捉える様々な情報のことを、ここでは「温度あるデータ」と呼んでいる。 誰かの記憶や想像にふれ、まだ知らない世界の感じ方や捉え方を経験することができれば、もっと街が楽しくなるはず。 データの向こうに人の営みを感じる「温度あるデータ」の街づくりでの活用は限定的だが進んでいて、Decidimによる合意形成や位置情報ゲームINGRESSなど、発展

都市とデータと私たち|都市空間生態学から見る、街づくりのこれから vol.4

文:木内俊克 前回の記事で、都市空間生態学の研究が発足した当初からテーマとして扱ってきた「温度あるデータ」とはどんなものかについて触れた。 ​ふりかえり: 人びとが感覚や感情で捉える様々な情報のことを、ここでは「温度あるデータ」と呼んでいる。 誰かの記憶や想像にふれ、まだ知らない世界の感じ方や捉え方を経験することができれば、もっと街が楽しくなるはず。 だからこそ、街の人びとの「温度あるデータ」を記録・可視化し、人びとに還元することも、街づくりと言えるのではないか?

「温度あるデータ」とは何か?|都市空間生態学から見る、街づくりのこれから vol.3

文:木内俊克 今回から3回にわたって、都市空間生態学の研究が発足した当初からテーマとして扱ってきた「温度あるデータ」について取り上げたい。これが掘れば掘るほど面白い、実に奥深いトピックなのだ。 ここでは温度という言葉を用いているが、つまりは人びとが感覚や感情で捉える様々な情報のことを指している。こうした一見ふわふわと捉え所のないようなものを、我々はどのようにデータとして扱い、記録し、視覚化し、そして街に住まう人びとに還元できるのだろうか? そんな問いを出発点に、まずは「温

都市空間生態学から見る、街づくりのこれから vol.2

文:木内俊克 誰が・何がまちをつくるか 「街づくり」というくらいだから、まちはつくられるものだ。でも「誰が」まちをつくるのか、その主体について深く思いえがくことは、あまりないように思える。街づくりのこれからを勘案するにあたって、まずはその主体について考えてみたい。 まちで暮らす住民が主体だという声がまずあがりそうだが、大規模な建物を企画しているのはデベロッパーであり彼らの影響が大きいという声も聞こえてきそうだ。とはいえ建物そのものは設計者が設計していて、その良しあしが重要

都市空間生態学から見る、街づくりのこれから vol.1

文:木内俊克 2019年までの5年間、いわゆる街づくりをテーマとした、NTT都市開発・東京大学Design Think Tank(DTT)・新建築社による共同研究「都市空間生態学」を担当していた私は、実に多くの方々とお会いしては、まちについてお話する幸運に恵まれた。それで分かったことがひとつある。元々、街づくりに答えなんてないのだ。 研究の根底には、人や物事が互いに影響し合って成り立っている相互依存的なネットワークとしてまちを捉えてみよう、その仕組みを捉えてまちを活性化す