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ラブホテルから1人で出て来られるくらいには、強くなったよ



まだ薄い灰色の空気が漂う朝方、ラブホテルから出て行く時の、あの何ともいえない惨めさ。




ああ、して、きたんだね。

すれ違うひとすれ違うひと全員にそういう目で見られているようで、いけないことなんてひとつもしていないのに、恥ずかしさと気まずさで自然と早足になった。






寝起きが悪い彼はチェックアウトの時間ギリギリまで寝ていたがって、いつも私を困らせた。


先に出ていいよ、と冷たく彼はいうけど、ただでさえ惨めで恥ずかしくて気まずいあの道のりをたったひとりで歩くなんて、私には出来っこない。


ベッドから出たがらない彼を甘えた声で起こしてみたり時にはぺしぺし叩いてみたり、まだまだ寝てたい彼を不機嫌にさせてまで、絶対に、一緒にラブホテルから出ていった。それほどまでに私は頑なに、ひとりで出ていくことを拒んでいた







 
そんな彼との恋が終わった後、私は、全然ちがうひとと、全然ちがうラブホテルで、全然ちがう夜をいくつも過ごした。




ラブホテルからひとりで帰って良いよなんてそんなこと絶対に言わないような、優しくて誠実な人と付き合って、初めて一緒にラブホテルを出た朝、惨めさなんてどこにもなかった。




また別の人とは、何もしないでただベッドで一緒に眠っただけの嘘のような理性の夜を過ごしたこともあった。

2人でラブホテルを出る時、後ろめたいことがなんにもないからか、いつもより少し堂々と歩けている自分がいた。





ただ寂しかったという理由だけで、好きでもない男と寝てしまった夜もあった。


その人は裸のままベッドで眠っていた。

私は声も掛けずに、ラブホテルを出て行った。


生まれてはじめて、たったひとりで。
なんの躊躇いもなく、すんなりと。





ラブホテルから1人で出て来られるくらいには、強くなったよ。



紛れもなく、あの頃の彼に向かって。
いや、あの頃の私自身に向かって、そう呟いた。
 





私は、気付いてしまったのだ。





あの頃、あんなにも頑なにひとりでラブホテルを出て行きたくなかったのは、" 一緒に居たのが彼だったからなんだ " と。




ひとりで帰って良いよなんて簡単に言って、私を蔑ろにする彼に、ほんとうは傷ついていた。



蔑ろになんてされてない、そんなことない、そんな筈ない、傷ついてなんかない、悲しんでなんかない、私はちゃんと大切にされてるんだって、思い込みたい。安心したい。それなのに。


ひとりでラブホテルを出て行ったら、
" あんた、全然大切になんかされてないよ "
って、簡単に突き付けられてしまう。



その現実から目を逸らしたくて耳を塞ぎたくて、だから、私はあんなにも彼と " 一緒に " ラブホテルから出て行くことに、必死だったんだ。


" 幸せになれない " を約束された恋なんて、もうしない。

生まれてはじめてラブホテルから1人で出て行ったあの日、私はひっそり、決意をした。


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