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きもちもにゅうか


買ってきたばかりのクレンジングオイルを手のひらに伸ばしてべとべとの両手で顔を覆ったら、どこかで嗅いだことのある香りで、べとべとで顔を覆ったまま記憶の中を泳いで泳いで、その匂いがもう会わなくなったセフレの車の芳香剤の香りだ、ってぴんときて、なんでこんな匂い覚えてんだろうなんでクレンジングと車の芳香剤の香りが一緒なんだよおかしいだろ全然ちがう2つなのにおんなじ匂いでまさかべとべとなんかに思い出させられるなんて不覚にも程がある。

べとべとべとべとしながら、ああこの匂い懐かしいな。でもあんまり好きじゃなかったんだよな。あいつ元気かな。仕事がんばってるかな。一緒にいたとき、ふたりともかっこつけて、よそよそしくて、最後の日だけは、最後だからこそ少し真剣に話をして、将来の話なんかもしたりなんかして、2人が一緒にいる将来なんてないのにね。おかしいね。もっと早く素直に話せてたらもう少し違ったふたりの関係になってたのかな、とか、なんて意味のないことを考えながら、いつのまにかべとべとはさらさらになって、化粧はもう落ちてた。乳化。気持ちも乳化。きもちもにゅうか。





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