字は武器になる
字が、好きだ。
丸くて女の子らしい字
育ちが良さそうな美しい字
子どもが書く記号みたいな字
男の子が書く、ちょっと汚い字
一文字一文字ぴったり同じ大きさの字
一目見ただけで「あ、これあの人の。」
と分かってしまう個性的な字
どれも好き。
字って、見ていて飽きない。
たまにふとした場面で
自分好みの字に出会えた日には
ドキドキする。
小学生の頃、私は字が汚かった。
コンプレックスのひとつだった。
雑で、汚くて、へなちょこな字。
可愛い字が大好きなのに自分じゃ書けない。
悔しい。
隣のクラスの女の子の
可愛い字を見ては羨ましく思い、
教室の壁に貼ってある
その子の「 自己紹介カード 」の字を
こっそり書き写して
( 著作権法違反を習ったばかりだった私は
捕まるんじゃないかとドキドキしていた )
家で何度も何度も真似して書いて
練習していたこともある。( 勉強しなさい )
可愛い字が書けるようになりたくて
たくさんたくさんたくさんたくさんたくさん
たくさんたくさんたくさん練習して
授業中もノートの余白には
「 あ 」から「 ん 」 までのひらがなを
納得できる「可愛い!」になるまで
繰り返し繰り返し
何度も何度も何度も何度も書いた。
( だから勉強しなさい )
そしたら、あの子の可愛い字の成分と
私のへなちょこな字の成分が合わさって、
私にしか書けない「 可愛い字 」が出来た。
嬉しい〜〜〜〜〜〜〜〜
生まれたての可愛い字を
誰かに見て欲しくて見せびらかしたくて
クラスの係決めの時にはいち早く
新聞委員に立候補して、係長就任。ぱちぱち。
自分の字で埋め尽くされた新聞が
教室の壁に貼られているのを眺めては
ああ、なんて可愛い字なの。ニヤニヤ。
生徒会の書記に立候補した時には
可愛い字を駆使して作ったポスターを
学校中に貼りまくり見事当選。めでたい。
自分の字が印刷された生徒会だよりを
見るたびに、この字を全校生徒が!
全校生徒の親達が!見てるなんて!と興奮。
気付いたらクラスの子たちから
「 字、かわいいね 」
「 手紙交換しようよ 」
と言われるまでになっていた。
( 私が小学生の頃、どれだけ多くの女の子と
手紙交換をしているかがステータスだった)
( 可愛い字の子は、もちろん大人気 )
「 可愛い字 」という武器を
手に入れただけで、気付けば私は
自分を表現する場所
行動力
尊敬
賞賛
までをも手に入れることに成功していた。
新聞係という、クラスの中で
たった数人しか得られない表現の場。
自分の言葉を発信できる特別な権利。
自分の字で書いた生徒会だよりを
全校生徒に読んで貰いたい!という一心で
生徒会に立候補するという行動力。
可愛い字が書けるというだけで
向けられる周りからの羨望の眼差し。
そしてこれら全ては、
承認欲求の塊みたいな私の心を
すっかりみっちり満たした。
すると、自分に自信が持てるようになった。
私には武器がある。
誰にも負けない、壊れない、
可愛くて、強い武器が。
私の右手から生み出される
この可愛い愛しい武器があれば、
私は、どこまででも進んでいける。
そんな武器を右手に、私は今日も書いてます。
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