獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。…

獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。小説/漫画/ゲーム/音楽/動物が好きです。創作系のアカウントはフォロバします。

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【短編小説】見守るもの

 最初は父さん母さんと、生まれたばかりの美也子だけだった。  何年かして美也子が年長さんになると、うちは犬を飼いはじめた。オスの柴犬で、名前はコロマル。ころころ丸っこいからと、美也子が名付けた。  母さんと一緒に近くの公園へ行き、子犬のコロマルと美也子は兄妹のようによく遊んでいた。  一年もするとコロマルはもう大人になって、美也子はうらやましがっていたけど、コロマルにもたれて寝るのは気持ちよさそうだった。  散歩に一人で行ける歳になると、美也子は毎日のようにコロマルを連れ出し

    • 【連載小説】星のあと 16

       十二月になると毎日のように雪が降り、ぐっと冷え込んだ。 風が強く吹くと一瞬だけ吹雪を連想する。登校中、厚地の手袋をうらやましがった十吾が貸してくれよとすり寄って、嫌がる吉男と押し問答していると、二人の横を通り過ぎざまにゆかりが言った。 「おはよう」 「えっ、ああ、うん」  吉男は戸惑いながら返事をした。相変わらずゆかりが近くに来るとどぎまぎしてしまう。白い肌にはっとしてしまうのだ。だが今日は違うことが気になったので、ゆかりと距離が離れてから十吾にたずねてみた。 「ねえ、最近

      • 【連載小説】星のあと 15

         研究は進んでいた。形態変化の性質を記録したり、ムトの記憶を旅したり、互いの生活や世界についてよく語り合った。知識に対して貪欲だというのもあるが、自分が持っている図鑑や教科書などの書物、あるいは口頭の解説によって伝えられる情報をムトが欲してくれているのは、湊にとっても喜ばしいことだった。  ただ、時々ムトの気持ちが分からない時がある。記憶の映像を見て、こちらは楽しくも寂しいような感覚になったり起伏があるが、ムトはどうなんだろうか。けれどそれは人間相手でも同じだ。たとえば過去に

        • 【連載小説】星のあと 14

          「道は全て黄色だった。目に痛いほど濃厚な黄色だ。とてつもない広さの道幅に細かな区切りが入った地面はしっとりとしていて、硬くはない。一定以上の弾力があった。時々、柱に羽根のついた房のようなものが立っており、風でばらける糸の束に触れるとちくちくした。だが傷が付くほどではなく柔らかみがある。空は澄み、何者にも縛られない開放的な空間が拡がっている。だが、生き物は見当たらない。ただ時折、びゅうと風が吹き、房が無言で揺れる。何もいないのだ。そして雲が道と同じ色をしている。蒼空に映えるには

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        【短編小説】見守るもの

          【連載小説】星のあと 13

           住処でムトと話しているとき、吉男がナップサックから漢字ドリルを出した。 「おいよしお、何してんだよ」十吾が近寄ってくる。「そんなの持ってきて」 「宿題だよ」吉男はちょっと嫌そうな顔をした。「ここに来るたび未確認ノートに書くことが増えるから、時間なくて大変なんだよね」 「今日は宿題多いからなあ」湊が言った。「僕は帰ったらやる」 「湊くんは早いもの」  ふと見回せばゆかりも早そうで、しかし十吾は、と。吉男はため息を吐いた。 「おい、なんだよ」不満げに驚いてみせる十吾。「やらない

          【連載小説】星のあと 13

          【連載小説】星のあと 12

           木枯らしが吹いた。冷たい風が、三角座りをする一同の無防備な足を撫でつけながら通り抜けていく。先週よりも一段階上昇したかに感じられるその冷たさは、冬の到来を自然に告げていた。  体育の授業で並んで座しているのは六年二組の面々だけではなく、一組も塊になって横にいた。合同授業だ。卒業が近いので、思い出作りの一環として企画されたのだが、先生の思惑など大半の生徒は感じとれず、ただなんとなく祭り事の雰囲気にわくわくしていた。  授業はサッカーだった。一組と二組でペアをつくり、パス練習な

          【連載小説】星のあと 12

          【連載小説】星のあと 11

          「手伝った方がよかったかな?」と、ビルの前まで来て湊は言った。 「ほっとけよ。見張りがいなくてせいせいするぜ」十吾は軽くなったと言わんばかりに肩を回す。「あー楽ちんだぜ」 「ぼくも、放っておけばいいと思う。男子に言われたって受け入れるわけないよ」  半ば投げやりに吉男が言う。吉男は今それどころではなかった。次に野呂兄弟が襲いかかってきた際の身の振り方がさっぱり思いつかない。どうやって身を守る? どうやって逃げる? そんなことばかり浮かんで、具体的な考えは何も出てこない。ゆかり

          【連載小説】星のあと 11

          【連載小説】星のあと 10

           たかが、名前を呼ばれただけのこと。なんでもない。なのに、どうしてこうも気になるのか。目で追ってしまうのか。わからない。どうしても。  ゆかりにとって一番解せないのは、理由らしい理由がなさそうなことだった。名前なら誰にだって呼ばれているからだ。自分のことで意思が定まらないのも初めてであり、しかし己の中のぶれのようなものは感じることができた。対抗心は失っていないが、違う感情が介入したことで、割合としては下がってしまっている。それは嫌だ、とゆかりは思った。  今の状態になる前、も

          【連載小説】星のあと 10

          【連載小説】星のあと 9

          「焦土の中を歩いていた。進むごとに足元から灰が舞い散り、降りつのる灰と混ざり合う。周囲の熱気は重く、ざらざらとしている。苦々しく焦げくさい匂いがしていて、煙霞のために景色は不鮮明。時折、轟音と共に立ち昇る噴流が、煙の向こうに赤くちらつく。遠目にも分かるほど激しい炎上だ。溶解を伴い、原型を忘れかけた岩石が無作為に降り注ぎ、灰にまみれながら山坂を転がっていく。勾配は緩やかだが道のりは果てしない。どれほど歩いたか、時間という概念が無いので判然としない。しかしとても長い時間だ。自然に

          【連載小説】星のあと 9

          【連載小説】星のあと 8

           土曜の授業後、そして日曜と、いずれも昼一番からビルに行った。早い時間の来訪の理由を訊ねられたついでに話した、学校の休みや時間割のことを、ムトは興味深そうに聞いていた。生活習慣の異なりが気になるらしく、自分たちが普段気に留めていない点をよく訊くため、その度に皆は色々と考えた。  もっとも十吾は結論を急ぐか放棄していたし、ゆかりは他に気がかりがあったので、自然と湊の回答が多くなった。吉男も考えるが、結論を出すのが遅い上に言葉にするのが下手なため、回答者足りえることはなかった。形

          【連載小説】星のあと 8

          【連載小説】星のあと 7

           ビルへ行く前に、湊は持ち物を検めた。シャベルや虫網など、かさばる物をリュックから抜き、代わりに国語辞典を入れた。  ムトと会話していて思ったのだが、ムトの言葉遣いは少し難しいときがあり、話の流れやニュアンスで理解している部分があったため、知らない単語が出てきた際に辞書で調べられれば、と考えたのだ。もちろん、出てくる都度調べていては会話から置き去りにされてしまうので、わからない言葉を書き留めておき、後から調べる、といった形になる。  さすがに質問用に持っているメモ帳と併用する

          【連載小説】星のあと 7

          【連載小説】星のあと 6

           授業が終わるのが待ち遠しかった。わくわくしていた。そわそわしていた。湊と吉男と十吾は休み時間の度に集まり、他のクラスメイトに聞かれないようこっそり昨日の出来事を話し合った。 「この分ならよ、河童だっているんじゃねえか?」 「十吾くんったらもう、調子いいんだから」  軽い冗談を言い合い、でも本当にいるんじゃないかと思わずにはいられなかった。何せ本物に出会ったのだ。特に吉男は活き活きとしていた。着々と未確認ノートを更新しながら、いつも自分をいびる、あの揃いのクラスメイトを見返す

          【連載小説】星のあと 6

          【連載小説】星のあと 5

           途中から、よもやと三人とも思っていたが、実際その通りであり、少年の案内でたどり着いたのは駅前であった。人が多いという理由で、湊の地図からは除外されていた調査範囲だ。一つ角を曲がれば商店街には惣菜屋、肉屋、金物屋などが並んでいて、夕方は主婦たちで賑わっている。もう少し時間が経てば、駅構内から背広を着た会社員らがぞろぞろ出てくるだろうと思えた。  少年の手引きで奥まった場所にある雑居ビルの前に来ていた湊たちは、こんなところに未だ明確な発見をなし得ていない新生物がいるなどとは、誰

          【連載小説】星のあと 5

          【連載小説】星のあと 4

           土手下を流れる浅川の前まで降り、細い白石の上を歩いていく。暗渠の入り口は上端が台形をしており、陽光が断ち切られている。蜘蛛の巣を避けて身を屈めながら入ると、遠くに見える終点からはまた光が射していて、左右より間接的に明かりを得るために中はさほど暗くない。ただし泥臭く、ゴミが浮いているせいか水の流れが緩慢である。不潔な空間を好む生き物はいるが、人でなくとも、需要がなさそうに思える。何かが潜んでいそうな雰囲気こそあったが、何度か網やシャベルで川の底をさらえた後、これ以上の見込みは

          【連載小説】星のあと 4

          【連載小説】星のあと 3

           シャベル、地図、双眼鏡、十徳ナイフ、ゴム手袋、インスタントカメラ、スケッチブック、絆創膏、消毒液、懐中電灯、虫網、縄、コンパス、温度計、撒き餌、ライター、虫眼鏡……。  複数のポケットがある湊のリュックには、様々な道具が入っている。普段の探索では使用する場面が想定できている場合が多いので、これほどまでに詰め込むことはないが、今回は何しろ相手が未知の中の未知のため、守備範囲が広いに越したことはなく、用途が限定的な道具もあるにせよ、過分と呼べるほどの荷物量も致し方ないことだった

          【連載小説】星のあと 3

          【連載小説】星のあと 2

           翌日の昼休み。教室の隅で話し合う湊と吉男に、ぬうっと大きな影が近づいてきた。 「よう。おまえら何してんだ?」 「わわっ」  いきなり頭上から声が降ってきたので、吉男は声をあげ、あわてて振り返った。 「十吾くんかあ。おどかさないでよ」 「おめーが勝手にびびったんだろ」  ふたりの間に割って入った十吾は、吉男と湊の顔を交互に見てにやにやした。 「どうせまた未確認なんとかだろ。よく飽きねえなあ」 「十吾くんが飽きっぽすぎるんだよ」と、吉男が少しつんけんする。「どうしても行きたいっ

          【連載小説】星のあと 2