獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。…

獺川浩

「うそかわこう」と読みます。 いろんなジャンルの小説を投稿しています。公募にも挑戦中。小説/漫画/ゲーム/音楽/動物が好きです。創作系のアカウントはフォロバします。

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【短編小説】見守るもの

 最初は父さん母さんと、生まれたばかりの美也子だけだった。  何年かして美也子が年長さんになると、うちは犬を飼いはじめた。オスの柴犬で、名前はコロマル。ころころ丸っこいからと、美也子が名付けた。  母さんと一緒に近くの公園へ行き、子犬のコロマルと美也子は兄妹のようによく遊んでいた。  一年もするとコロマルはもう大人になって、美也子はうらやましがっていたけど、コロマルにもたれて寝るのは気持ちよさそうだった。  散歩に一人で行ける歳になると、美也子は毎日のようにコロマルを連れ出し

    • 【連載小説】星のあと 28(完)

       冬休み最後の日、顔を合わせた四人はやはり憂鬱な顔だった。納得していても気は進まない。だが、それでもムトには会いたい。寂しい気持ちを抱えたまま住処へ行くと、一面が花畑になっていた。 「えええ」吉男が素っ頓狂な声をあげる。  鮮やかに彩られた無数の花が部屋中に咲いていた。大小さまざま、中には珍奇な形をしたものもあるが、部屋の発光から相乗効果を受けた神秘的な光景の美しさに息を呑み、目を奪われた。  部屋の真ん中にムトがいた。呼びかけると、花が部屋の隅に寄っていき、ムトまでの道を作

      • 【連載小説】星のあと 27

         住処に着くと、どっと疲れがでた。全員くたくただったので少し眠り、起きるとムトが立っていた。 「ムト!」  飛び起きて呼びかけると、いつもの眠たげな眼差しで応えた。 「私なら心配いらない」 「よかったあ」  吉男が大きく息を吐き、皆一様にほっとした。 「そっちは大丈夫なの」ゆかりが湊を見た。 「まだちょっとぼんやりするけど」額をさわった。「大体は回復したよ」 「よかった」  ゆかりは隠し立てすることなく、安堵の表情をみせた。 「それでよ、あいつは何者なんだ?」  十吾が眉間に

        • 【連載小説】星のあと 26

           しっかりと方角を見定めてから、公園のマンホールを降りた。静寂と、暗がりの冷えた湿路。下賤の者が潜む雰囲気に、吉男は呑まれそうになった。だが、そんなことではムトを見つけられない。臆せず進む湊を見て、心を強く持とうと思った。  声を出さず、身振り手振りだけで互いの感覚を知らせ合い、調整をしながら慎重に歩いた。彼が移動して鉢合わせする可能性もあるので、せめて足音や気配で気取られまいとしてだ。直線距離なら大して長くはないはずだが、湊らが定めた地点に沿って作られたわけではないため、融

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        【短編小説】見守るもの

          【連載小説】星のあと 25

           薄汚れた雑居ビル群の、暗く澱んだ壁の間を進んでいく。埃っぽく狭い路地には、隙間からわずかな日光が射していた。上方から電車の通る音がするが姿は見えない。人気はなく、吹き溜まりのような雰囲気だけが漂っている。まともな者には無用の場所であり、突き当たりまで来ても、打ち棄てられた資材や段ボールがあるのみだった。 「行き止まりじゃねえか」  苛々した口調で十吾が言った。「おいよしお、ここに間違いないんだな」 「確かにこの路地だったよ」  勢いこむ十吾に疑念を持たせては悪いと思い、吉男

          【連載小説】星のあと 25

          【連載小説】星のあと 24

           十五分ほど経って、ようやく妙な感覚から解放された。湊はまず、吉男と十吾に確認した。 「彼のこと、覚えているかい」 「う、うん」吉男がうなずく。「でも、覚えてるというより」 「思い出した、な」十吾が顔をしかめる。「なんで忘れちまってたんだ」 「ねえ、みんなは知ってるの?」ゆかりがたずねた。「あの子、なんだか普通じゃなかったわ」 「そうか、上条さんは面識がない」  あわてて湊がいきさつを話した。 「それで、僕たちが忘れていた理由だけど、一つ思い当たることがある」 「まさか」吉男

          【連載小説】星のあと 24

          【連載小説】星のあと 23

           冬休みになった。住処へと宿題を持ち寄り、毎日通った。カタカナを習得したムトはいよいよ漢字へと突入したが、均整のとれた字がうまく書けず、苦戦している。しかしそれも楽しんでいるようだ。皆で互いに教えあったりしながら勉強する様は、教室にいる時の雰囲気に近かった。  だからなのか、ある日ムトが言った。 「学校に行きたい」 「おいおい、何をいいだすんだよ」訝しげに十吾が言った。「人前にでて平気なのかよ」 「私が住処に居続ける理由として、もちろん厄介ごとに巻き込まれないようにというのも

          【連載小説】星のあと 23

          【連載小説】星のあと 22

           エレベーターに乗り込み、住処へ着くまで平均三回ほど往復していたのが、一回で着くようになった。皆がよりムトのことを意識しているからに他ならなかった。もう未確認生物という枠もない。個と個の繋がりだけだ。  地球に来てから何十年と経っているにも関わらず、適合の判定はまだできていない。適合は完全でなくてはならないからだ。進行速度から考えるに突然ムトが消えるということはなさそうだが、逆に言えばいつまで一緒にいられるかもわからない。住処で過ごす時間の大切さも増していた。  終末の気配を

          【連載小説】星のあと 22

          【連載小説】星のあと 21

           いつものように住処でムトと話した帰り際、ゆかりが言った。 「そうそうムト、あたしたち明日は来ないから」 「ほう。なぜだ?」 「おいおい、なんでおれまで入ってんだ」ムトの疑問に乗っかる形で十吾が抗議する。 「山野くん、あなた先生の話聞いてた?」やれやれというふうに額に手をあてるゆかり。「明日の放課後は音楽会の練習するからって言ってたでしょう」  傾いたままのムトに湊が説明する。「音楽会っていうのは、クラスごとに決まった曲を演奏する会のことさ。それぞれ歌や楽器の担当があって、し

          【連載小説】星のあと 21

          【連載小説】星のあと 20

           先生が一つずつペアを作っていく。なかなか順番が回ってこないのが焦らされているようでやきもきしたし、残りの生徒が減ってくると早すぎると思った。しかし十吾は、向き合うと決めたものの、具体的にどういう言葉でどう言おうかは考えていなかった。考えだしてすぐ、頭がごちゃごちゃしてきてやめたのだ。ただそれは、話せばどうにかなるなどといった破れかぶれの楽天性ではなく、仕立てのよい言葉に意味がないことを、どこかで感じていたからだった。  指名され、ゆっくり立ち上がる十吾を竹井は少し驚いた様子

          【連載小説】星のあと 20

          【連載小説】星のあと 19

           翌日、やや多い仕事量を前にして、ゆかりは吉男に遅れると告げた。頑張れば一人でもこなせるかもしれない。でも違う。違っているはずだ。息を整えてから、席を立った。 「木下さん」  ふりむく里子にたじろぎそうになる。自分は前回、ひどい断り方をした。だから何を言われても仕方ない。胸に渦巻く気まずさを抱えてゆかりは言った。 「手伝ってくれない? 仕事が多くて大変なの」  すると、一瞬きょとんとしていた里子の顔がぱあっと明るくなった。 「いいよ!」 「あ、ありがとう」  むしろうれしそう

          【連載小説】星のあと 19

          【連載小説】星のあと 18

          「私とスウはいつも一緒にいた。触れずとも、互いの感情を何もかも分かりあえた。柔らかな陽光に包まれながらぷかりと宙に浮かび、六日ごとにやってくる夜には並んで星空を見上げた。同族の数は多くなく、誰もが見知っていたが、もっとも縁を深めた者はスウだった」  イメージが流れ込んでくる。いつものような具体的な風景ではなく、漠然とした感覚に依るイメージだ。湊たちにはスウの姿がおぼろげにしか見えない。ムトは映像を送るのは得意でないと言っていたので、そういうこともあるのかと、なんとなく思ってい

          【連載小説】星のあと 18

          【連載小説】星のあと 17

           覚えのいいムトは、ひらがなの形と発音の紐付きをすっかり習得してしまった。湊がまた同じように表を作り、次はカタカナに入った。だが、それもすぐに覚えてしまうのだろう。文字を教えてもらっている時のムトは楽しそうだ。相変わらず表情はないが、取り組む姿勢を見ていればはっきり分かった。  ただ湊は塩の一件から実験を控えるようになり、その代わりムトの基本的な生態を毎日聞くようになった。同じ過ちを繰り返さないようにと、反省は全員がしていたが、一番しているのは湊ではないかと吉男は思う。むろん

          【連載小説】星のあと 17

          【連載小説】星のあと 16

           十二月になると毎日のように雪が降り、ぐっと冷え込んだ。風が強く吹くと一瞬だけ吹雪を連想する。登校中、厚地の手袋をうらやましがった十吾が貸してくれよとすり寄って、嫌がる吉男と押し問答していると、二人の横を通り過ぎざまにゆかりが言った。 「おはよう」 「えっ、ああ、うん」  吉男は戸惑いながら返事をした。相変わらずゆかりが近くに来るとどぎまぎしてしまう。白い肌にはっとしてしまうのだ。だが今日は違うことが気になったので、ゆかりと距離が離れてから十吾にたずねてみた。 「ねえ、最近ち

          【連載小説】星のあと 16

          【連載小説】星のあと 15

           研究は進んでいた。形態変化の性質を記録したり、ムトの記憶を旅したり、互いの生活や世界についてよく語り合った。知識に対して貪欲だというのもあるが、自分が持っている図鑑や教科書などの書物、あるいは口頭の解説によって伝えられる情報をムトが欲してくれているのは、湊にとっても喜ばしいことだった。  ただ、時々ムトの気持ちが分からない時がある。記憶の映像を見て、こちらは楽しくも寂しいような感覚になったり起伏があるが、ムトはどうなんだろうか。けれどそれは人間相手でも同じだ。たとえば過去に

          【連載小説】星のあと 15

          【連載小説】星のあと 14

          「道は全て黄色だった。目に痛いほど濃厚な黄色だ。とてつもない広さの道幅に細かな区切りが入った地面はしっとりとしていて、硬くはない。一定以上の弾力があった。時々、柱に羽根のついた房のようなものが立っており、風でばらける糸の束に触れるとちくちくした。だが傷が付くほどではなく柔らかみがある。空は澄み、何者にも縛られない開放的な空間が拡がっている。だが、生き物は見当たらない。ただ時折、びゅうと風が吹き、房が無言で揺れる。何もいないのだ。そして雲が道と同じ色をしている。蒼空に映えるには

          【連載小説】星のあと 14