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APOCALYPTICA 制作話

2023年9月29日、BOF:NTに出展する楽曲「APOCALYPTICA」をリリースしました。ありがとうございます。

一昨年の「彼女が告白をした理由」、昨年の「ねぇ、起きてる?」をご存じの方はお気づきかもしれませんが、BOFに参加する際は音ゲー楽曲として求められているスタイルではないものの、こういうアプローチもあっていいよねという自分の想いを詰め込むことにしていて、今回も欲望全開で作らせてもらったので少し語らせていただこうかと思います。

▼BOF:NT参加の経緯について

今年のBOFは、本業の忙しさや他の楽曲制作スケジュールの関係もあり当初は不参加の予定でした。そんな中、8月1日に僕のもとへ一つの連絡が届きます。

この文章を見た瞬間、察しのいい僕は「これはチームメンバーとして誘われるぞ」と全てを理解します。

立秋さんとは過去のBOFでも同じチームで参加したことがありますが、長年音ゲーの公募で歌モノ枠を奪い合うライバルでありつつ年に何度も一緒にご飯を食べる仲。そんな相手からの誘い、断るわけにはいきません。少し睡眠時間を削れば制作の時間も確保できるし、ちょうどやりたい音楽の構想もありました。

二つ返事でOKと返しチームのDiscordサーバーに入ると、同じく年に何度も一緒にご飯を食べる仲のねこみりんさんと、先日知り合って一緒に銭湯に行ったqfeileadhさんを交えて打ち合わせを行います。この時まだ僕は何も具体的なことが決まっておらず、主にスケジュールの確認とBOFに参加するという意思表示を行うに留まりました。

▼楽曲テーマについて

打ち合わせが終わり制作意欲を掻き立てられた僕は早速、漠然と考えていた構想を固めることにします。

ここ最近「世界が崩壊した物語」を描きたいということだけは頭の中にあり、どうすればそれを表現できるかを考えていました(SOUND VOLTEXに書き下ろしたSTIGMAからこの世界観に魅入られました) 一昨年、昨年とポエトリーリーディング、ポエトリー+ASMRという初めてのチャレンジを行っていた僕は、今年も自分がやったことのない音楽にしたいと思い、変拍子を取り入れながらしっとりと聴ける幻想的な楽曲の方向性で進めていくことに決めます。

続いて、世界観とキャラクターを考えます。世界が崩壊した後・しっとりと聴ける・幻想的というワードから、崩壊よりは復興に向けた描き方をするために「崩壊後の世界で再興を祈る少女」というキャラクター像を固めていきました。

キャラクター像を固める上で最も大切にしているのが、どんな世界に生まれて、どんな考え方を持っていて、どんな目的を持っているか。それさえ決まってしまえば、作り上げた世界の中にキャラクターを落とした瞬間に物語は進行していきます。

今回の主人公である少女リーヴァは、世界が崩壊した後の生まれです。そんな世界ではずっと家族と仲睦まじく過ごすことは難しく、いるかどうかもわからない豊かな人に拾われるという微かな望みを持って子を置いていってしまうか、一緒に過ごしていても子に未来を託して早くに亡くなってしまうか、ほとんどがそのどちらかです。そこで生まれた子たちはもちろん色彩豊かな世界や、希望に満ち溢れた人々の営みなど知るはずもありません。

今まで運良く生きてこられたリーヴァもそんな身寄りを無くした子の一人で、集落にたった一人しかいない子を周りの大人たちは可愛がっているものの、崩壊前から生きている彼ら(特にお年寄り)が話している過去の思い出を彼女は理解することができません。どんなに想像を膨らませても、それを自身が経験することはないのだという虚しさがすぐに襲い掛かります。しかし、ただ死ぬまでの時間を過ごすだけの毎日ではなく未来に希望を持ちたい彼女は、大人たちが話している過去を未来の現実にしようと心に誓います。彼らが話していたことを自分なりに解釈して、辛うじて建物だけは残っていた教会というらしい場所で、信じていれば叶えてくれるらしい神という何かに祈るのです。

余談ですが、リーヴァの"生きる"という意味の捉え方の根底には、僕が幼少期にプレイしたクロノトリガーの影響が色濃く出ています。
原始の時代で恐竜人と戦うエイラが、隠れるように生きる長老に「お前たち、生きてない。死んでないだけ」と言い放つシーンが強烈に印象に残っていて、今でも思い出すほどです。

自身をさらけ出すことをせず内に秘めた想いを静かに燃やすリーヴァは、闘志をむき出しにしているエイラよりもむしろ、その近くで影響を受けて成長していくキーノに近いのかもしれません。

余談でした。

▼チームメンバーについて

楽曲の方向性が固まった後、協力していただけそうなメンバーを探すのに奔走します。

まずは、キャラクター像に近いイラストを描いていただけそうな人を探して、いつものようにインターネットの海に潜りこみました。具体的には、pixivのみんなの新着から色んなイラストを見たり、Skebの新着作品から色んなイラストを見たり、X(Twitter)で #イラスト #創作 などのタグで調べて色んなイラストを見たりです。

その結果、みぞれさんのイラストがイメージに非常に近かったためご相談したところ、すぐにご快諾いただきました。また、この時点では楽曲制作には着手しておらず、提示できるデモや資料がない中でスケジュールだけ空けていただくという形でのご相談なので、音ゲーのことをご存じであるみぞれさんであればBOFのことについても比較的説明が容易だろうということもありました。

それとほぼ同時期に、ボーカリストさんも探しはじめます。今回の楽曲テーマを表現するにあたっては落ち着いた声色かつ儚い印象で歌ってほしいということもあり、友人たちに素敵なボーカリストさんがいないか聞いたり、X(Twitter)で募集ポストをしたり、YouTubeやbilibiliで色んな方の歌を聴いたりした結果、主にbilibiliで活動されている中国の符白牙さんにご連絡することにしました。

彼女は中国の方で、最近増えてきた中国のリスナーさんたちも突然の国を越えたコラボレーションに驚くのではないかということ、さらに彼女が日本のボカロ曲を日本語で歌っていたため、日本語でのやりとりもできるのではないかと思ったのもご相談するきっかけになった一つです(結果的にやりとりは全て翻訳を介してでしたが、それでもコミュニケーションが取れることを知ったのはいい経験になりました)

▼制作について

世界観やメンバーが決まったところで制作に着手します。この時点で8月7日。9月末までに全てを仕上げることを考えると、逆算すれば自ずとスケジュールは決まってきます。

~8月25日 楽曲デモ制作
~9月20日 イラスト制作・ボーカル収録
~9月30日 楽曲仕上げ・映像制作

「ちゃんと歌える」「イラスト制作のイメージが湧く」レベルの楽曲デモを制作するのにこの時点で残り約20日程度。思ったよりも余裕があるなと思ってしまった僕は、常々やりたいと考えていた「日本語・英語以外の歌詞」という要素を足すことにしました。作曲・イラストは日本人で歌唱は中国人と、異なる言語が母国語のメンバーであることもそれを後押ししているような気さえしていて、せっかくであればメンバー全員が馴染みのない言語を使用することに決めます。

ただ、さすがに20日程度で架空の言語を作って詰めていく自信がなかった僕は、少し前に見ていたQuizKnockの動画を思い出しました
(ちなみに僕はここ数年QuizKnockの動画にハマっていて全て見ています)

シャレイア語は動画内でクイズとして出題されたものですが、基本的な文法についてわかりやすく説明されており、シャレイア語の公式ページにも入門資料や単語辞典があったことで、2週間勉強すれば歌詞に使えるところまで持ってこれるのではないかと思い、取りかかりました。

また、シャレイア語自体が芸術言語として作られているものであることも大きな理由です。

外国語には、 理解できないもしくは見慣れないからこその 「美しさ」 があると私は思います。 外国語の歌が母国語の歌よりなんとなく綺麗で心地良く聴こえてきたり、 外国語のポスターなどが和訳されると一気に無粋に感じられたりした経験は、 多くの人にあるはずです。 様々な商品のパッケージに外国語のフレーズが書かれるのも、 外国語に 「分からない美しさ」 があるからです。

陳腐な出来事や、 果てには陰鬱な感情であっても、 外国語で綴れば美しいものに昇華できるのです。 そして人工言語であれば、 この 「美しさ」 をより美しく感じられるものに自由に変えることができます。 このように、 私にとっての言語的美しさを追求し、 シャレイア語を介して物事を美しいものに変移させられるようにするのも、 シャレイア語を作る目的です。

Avendia - シャレイア語とは
https://ziphil.com/

楽曲は5/8拍子を軸に、サビ部分は6/8拍子にすることで、そこから世界が広がるようなイメージを作り、サビ以外の部分ではドリアンスケール(サビはメジャースケール)を用いる他、楽器もスコットランドのバグパイプや中国の揚琴など幅広い国の伝統楽器を使用することで、幻想的な異世界感を演出することを意識しています。

実際の制作期間としては、8月15日に楽曲と日本語での大まかな歌詞展開が完成し共有、その後コロナで寝込んでいた間にシャレイア語を勉強し、8月24日に日本語の歌詞展開をシャレイア語に落とし込んだ仮歌が完成(仮歌に関しては当初ボーカロイドを使用していたものの、耳馴染みのない言語のため発音があまりにも難しいということで、以前whereverという楽曲でボーカルを務めていただいたRanoさんに仮歌をお願いしました)

楽曲が完成した時点で、映像をどのように見せるかも僕の中で固まっていました。イラストをお願いしたみぞれさんに対する実際のオーダーをかいつまんで書くと下記の通りです。

・正面構図で手を重ねて祈っている少女がメインキャラクター
・キャラクター、背景どちらも全体的に透明感と神々しさを表現してほしい
・冒頭は目を閉じた少女から始まるため目を閉じている差分がほしい
・Aメロはモノクロのためグレースケールでも違和感ないイラストがほしい
・Bメロは黒背景の白抜き線画を想定しているため線画状態のものもほしい
・サビ前で目を開くモーションを入れたいので目の開閉の中間差分もほしい

といったことを楽曲の世界観やストーリーもお伝えしながら、参考画像を交えてご説明しました。

制作着手から音楽・映像の完成まで2ヶ月弱というスケジュールの中、符白牙さん・みぞれさんのお二人も前倒しで制作していただいたこともあり、余裕を持って完成まで漕ぎつけることができました。お二人には感謝しかありません。

▼そんなこんなで完成!

瓦礫の山の中に、遥か昔に栄えていた名残が残る荒廃した街。
今は灰色の空に囲まれたこの世界では皆、ただ流れるだけの時間を、少しずつ死んでいくだけの時間を過ごしている。
夢の中でさえ色を知らない私は想いを馳せられるような過去もなくて、縋ることのできる過去を持っている大人たちを羨ましく思っていた。
私がここに生きていたことなどなかったかのように、世界はこのまま巡っていくのだろうか。
力のない私にできること。
今はまだ見出せない希望を、想像のつかない未来を祈ろう。

YouTube - APOCALYPTICA

想いの詰まった楽曲、BMSでもぜひ楽しんでみてね!

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