見出し画像

判決「不法占拠!立ち退け!でも、不法占拠したままでOK」(西成あいりん地区)

大阪市西成区のあいりん地区にある労働施設「あいりん総合センター」(2019年3月閉鎖)の敷地を不法占拠しているとして大阪府が路上生活者22人に立ち退きを求めた訴訟で、大阪地裁は2021年12月2日、立ち退きを命じる判決を言い渡した。(読売新聞 2021年12月3日朝刊より)

あいりん総合センター

1970年、大阪府・市・国が共同で建設
職業安定所に加え、病院や市営住宅を併設
主として日雇い労働者が利用
耐震性の問題から建て替えが決まり、2019年3月に閉鎖


現状
市営住宅は閉鎖。病院、福祉センター、職安はすぐ近くに移転

西成労働福祉センター
日雇労働者の方々のための就労斡旋(職業安定)と、福祉・生活の向上を目的として開設された施設。公益財団法人。

あいりん労働公共職業安定所(いわゆる職安・厚生労働省が運営)

大阪市・大阪府の計画
あいりん総合センター跡地活用基本構想・活用ビジョン」 (PDF)として従来のセンターの機能を引き継ぐ労働施設と、地域住民の交流の場となる多目的広場などの整備を予定。

センター跡地に設置された広報看板


2025年度の供用開始を目指すが周辺を占拠され、老朽化した建物は手つかずの状態(センター周辺を一周)


2020年4月、府が立ち退きを求めて提訴

府側の主張
「路上生活者らが閉鎖後もブルーシートや布団を持ち込んで寝泊りを続けたため、解体・建て替えが出来ない」

路上生活者側の主張
「住居の自由の侵害」

支援者の意見
「新型コロナウイルス対策など、行政は他にやるべきことがある。急いで立ち退けという主張に憤りを覚える」


2021年12月
大阪地裁の判決
「占拠により土地の管理・建て替え工事が妨げられている。
施設閉鎖後も行政側は生活保護の受給支援や新たな居場所の確保に取り組んでいる。よって立ち退き要求は権利の乱用ではない。
ただし判決確定前でも立ち退きを強制できる仮執行宣言は認めない」


判決後・大阪府知事のコメント
「妥当な判決だ。耐震性を備えていない建物を一日も早く撤去したい」


判決後・弁護士のコメント
「非常に残念。行政の政策に裁判所も流された」
「建物は行政の支援になじめない路上生活者のよりどころ。判決は生活の自由を奪い、不当だ」として、路上生活者側は控訴する方針。


読売テレビニュース


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


判決は妥当だと思うが、(判決確定前でも立ち退きを強制できる)仮執行が認められなかったので大阪府にとっては意味のない勝利。

路上生活者(被告)側は控訴すると言っているし、おそらく最高裁まで待ちこまれるだろうから、判決が確定するのはかなり先。それまで大阪府は立ち退きを強制できない(=現状維持)。不法占拠でありながら、法律がその違法行為を保護するという、いびつな状況が続くこととなる。

今回は立ち退きを要求する裁判であったが、大阪府・市などの自治体は過去に路上や公園に設置されたテントの強制撤去や行政代執行などを行っている。


大阪府下の自治体が過去に行った強制撤去
対象はすべて路上や公園に設置されたテント・段ボールハウス類)


あいりん地区違法テント強制撤去(2016年3月30日)


あいりん地区で行政代執行…テントなど撤去


大阪市は30日、西成区のあいりん地区にある花園公園と公園前の市道を不法に占拠しているとして、路上生活者らが設置したテントや小屋を行政代執行法に基づいて強制的に撤去した。同地区での行政代執行は1998年12月以来という。

市によると、公園や周辺は、2002年にはテントなどが約30件あった。市が交渉を続け、大半は自主撤去に応じたが、市道上のテントや公園内の小屋、看板の3件が残っていた。テントには男性1人が住んでいる。向かいには小中学校があり、保護者らから撤去を求める声が出ていた。

市職員が午前8時20分、行政代執行を宣言。抗議する約50人を引き離し、道路を封鎖して作業に着手。「反対」などと怒号が飛び交い騒然となった。

毎日新聞(2016/3/30)より

 


大阪・西成の違法テントを強制撤去、市が通学路上で行政代執行 市道の一部にバリケード
  
大阪市は30日、日雇い労働者が集まる西成区の「あいりん地区」の道路や公園を不法に占拠しているとして、行政代執行法に基づき、テントや小屋などを強制撤去した。市によると、同地区での行政代執行は平成10年12月以来。隣接する市立新今宮小学校・今宮中学校の通学路に設置されるなどしたため、苦情を受けた市が昨年12月から文書で撤去を勧告していた。

対象となったのは、ホームレスの男性1人が居住する市道に張られたテントや、日雇い労働者を支援する労働団体が地区内の花園公園に廃材でつくった小屋、ビラを張った掲示板。

代執行は同日午前8時20ごろから始まり、市職員約130人が立ち会った。担当者が代執行宣言を読み上げた後、テントや倉庫の撤去作業を開始。終了後、再びテントが設置されることを防止するため、市道の一部にバリケードが設けられた。

市建設局によると、公園周辺でテントなどが設置されたのは11~14年ごろ。その後、市によるホームレスの就労支援などで設置数は減少したが、一部は自主撤去に応じなかった。

市は「やむを得ず強制撤去することになった」としており、人件費として約15万円ずつをテントの男性と労働団体に請求する方針。

産経新聞(2016/3/30)より

素人目には今回の不法占拠と状況は同じ。にもかかわらず、どうして今回に限り裁判で路上生活者22人に立ち退きを求めたのか?

おそらく今回の路上生活者が占有権を主張したのだろう。不法占拠であっても占有権を主張し、実際にその場に居座っている以上、正当な所有者である大阪府といえど勝手に追い出すことが出来ずに裁判せざるを得なかったのでは?


占有権

物を支配する権利のこと(民法第180条)。
土地の所有者は占有権を有している。また土地の賃借人も、その土地を使用する権限があるので同じく占有権を有している。
が、ある人が土地を現実に支配し利用しているが、他の人がその土地の所有者であると主張した場合には、土地を現実に支配している人はまったくの無権利者である可能性がある。そのような場合、法律上は現実に支配している人をとりあえず保護することが必要。よって法律上は現実に支配している人に「占有権」という権利があると考える。
民事裁判によって土地を現実に支配している人が無権利者であることが確定すれば、占有権は最終的には失われることになるが、裁判が確定するまでの間は占有権によって事実状態が保護されることになる。
なお、真実の権利者が長期間にわたって権利を主張せず、無権利者の占有状態が長期間継続した場合には、無権利者が土地の所有権を取得することが認められている(所有権の取得時効)。

 at homeからの引用・抜粋

未確認だが、公園や道路には占用権(使用する権利)はあっても占有権はないので、前述の路上テント類は法的に問題なく撤去できたのだろう。


馬鹿げた話に聞こえるが、ニュース内でも大阪地裁の言葉として「センターの敷地内は被告ら(労働者)による事実上の支配が成立している。大阪府が土地を管理できない」(0:30~)とある。


「被告らはセンター跡地を事実上支配しているが、占有する権利は有していない。立ち退行け。ただし原告は判決が確定するまでは、立ち退きを強制することは出来ない」

といった中途半端な判決を勝ち取った大阪府に残されている道は・・・

①判決が確定するまで気長に待つ
②不法占拠者に「立ち退き料」を支払って自発的に退去してもらう


②の方が簡単だけど、無理だろうなぁ。いくら知事が「金銭的にも安上がりだし、手間も時間も省ける。地域の開発も進む」と説明しても大阪府民は絶対に納得しないだろうし、他の野宿者が「俺たちにも立ち退き料を」と言って公園や公共施設を占拠する可能性もある。

①にしたって判決確定時に全員が立ち退いてくれる保証はどこにもない。今回の被告とは別の路上生活者が不法占拠に参入していたら・・・大阪府は再び裁判を起こさないといけないのだろうか?

現状ではセンター周辺すべてにガードマンなどを設置しておらず、やろうと思えばすぐにでも不法占拠に参加できる。

センター西側
センター東側


それにしても(一部の)ホームレス支援者がどうにも理解できない。

どうして「路上生活者を救え!」ではなく、
どうして「路上テントではなく、温かい部屋とベッドを」でもなく、
どうして「自由気ままに野宿する権利を奪うな」なのだろう。

目指すべきベクトルが間違っているような気がする。ホームレス支援をしている人を知っているが、最後にその人が言っていた言葉を。


「ホームレスにも、ホームレス支援者にもいろいろな人がいます。すべての人が今回の裁判で被告側を応援しているわけではありません」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?