見出し画像

春になると小豆島へ行きたくなる : 思い出と本の話

瀬戸内海に浮かぶ香川県の離島、小豆島。
琵琶湖よりは小さくて、東京の多摩市よりはちょっと大きい、日本で19番目に大きな島は行ってみるとけっこう大きい。

神戸・三ノ宮にあるフェリーターミナルからジャンボフェリーで3時間半。神戸に住んでいた頃は小旅行にちょうどいい距離の島でした。

何より、移動が船というだけで新幹線よりかなり遠くに行った気分になれるので、なんだかんだで4回、行ったことがあります。
瀬戸内の島に逃避行したくなりがち。

ほぼ毎年、春になると行きたくなります。

春になると行きたくなるのは、初めて行った時に、島のあちこちで咲いていた菜の花の風景がずっと頭の中の「気持ちいい思い出」の引き出しにしまわれていて、時々、たまらなくもう一度同じ景色を見たくなるから。

春にばかり行くので、小豆島は常春の島のように思っています。

切なくなる菜の花畑が忘れられない

二十四の瞳映画村 菜の花畑

特にいつも思い出すのが「二十四の瞳」映画村の菜の花畑です。
映画村は、小豆島出身の作家、壷井栄の小説「二十四の瞳」を映画化した際のセットを利用した施設で、昭和初期の島の学校がそのまま残っています。

「二十四の瞳」は、太平洋戦争前~終戦にかけて12人の子供たちと先生の目を通して、戦争の奪っていったものが描かれていて、読み終わった後に気持ちが沈んだ小説でした。

菜の花畑の咲く映画村の春は、小説の中でも戦前の島の学校(分教場)のイメージと重なります。

黄色に染まった春爛漫の明るい菜の花畑と作中の子供たちが過ごせた平和な日常の短さが重なって、キレイな春の景色を見たというより、春の儚さがめちゃくちゃ切なくなったのを覚えています。

小説と同じように戦前の春を過ごした子供たちが確かに小豆島にもいたことに思いを馳せて、ちょっと泣きそうになったのですが、一人で菜の花畑を見ながら泣いていたら完全にヤバい人なのでグッと堪えました。

小説の世界が現実とリンクして景色の解像度があがったせいか、映画村の菜の花畑はいつも春になるとありありと思い出します。

読み始めるとすぐ寝落ちしてしまう島の本

春になると菜の花畑を思い出して小豆島に行きたい衝動に駆られるものの、もちろん毎年行くわけにもいきません。
春って何かと忙しい。

行きたいなー、でも行けないなー、の欲求を満たしてくれるのは「瀬戸内海のスケッチ:黒島伝治作品集」という本です。

短編の作品集で、瀬戸内の暮らしがありのまま、見たままに書かれていて、ひたすらに日常を見つめる作品が収まっているんだろうと思います。

「だろうと思います」というのは、この本を持ってはいるんですが、いつも気づけば寝落ちしてしまうのでイマイチ内容がはっきりしていません。

それくらい読んでいて気持ちいい。
陽のあたたかさ、人の話し声、漁村の磯臭さが心地よくなって寝てしまいます。

ある意味、島に行った時に1番近い体験ができる本なので、気が向いたら開いて読んでいます。
でも、人に話せるほど内容を覚えていなくて、なんなら夢とごっちゃになってるせいで迂闊に人にすすめられません。

無くしてしまって読めなくなった本

旅行するときに一冊は本を持っていくのですが、持って行った本を無くしたのは小豆島と新潟の直江津だけ。
他に財布やら切符やら、カバン丸ごと忘れたこともあるんですが、不思議と本はあんまり無くさない人です。

本の表紙が島の風景と重なったのが嬉しくてバシャバシャ写真を撮った後、島内のバスに乗って無くなっていることに気づきました。

小豆島のどこにでもある名も無き道路

 買うなり借りるなりすればいいんですが、結局、そのまま読めていません。いつか最後まで読みたいと頭の隅にはずーっとあるので、読み終わった本より思い入れが強いかも。

無くしたものがある旅行先って、けっこう記憶に残るもんです。
あぁアレは今どこにあるんだろう、もう捨てられているかもしれないけど、地縛霊みたいに土地に居座って、私の代わりに永住していてくれないだろうか、とか思ったりもします。

今年も小豆島には行けなかった

気づけばもう5年も行っていません。
でも、毎春、気持ちは小豆島まで飛んで行っているし、いろいろな風景を思い出します。
このまま遠くの島になるのは寂しいので、気持ちのいい春の気候が楽しめる年には行きたいと思っています。
今年の春は雨が多いし暑かった……。常春の島ではいい春の思い出だけ残したいなぁと思います。

この記事が参加している募集

よろしければサポートをお願いします。サポートいただけると元気になれます。