日記 記憶の捏造について

 もうこれは完全に事実ではなくて自分で自分の記憶を作っているんだなという感覚があるんだけど、おれが大学時代友達も作らずに大学図書館の閉架書庫に降りていって、そこで昔のフランス文学とか詩とかをずーっと読んでいたという記憶。たぶん本当はそんなに図書館自体行っていないはずで、半ば自分で自分の記憶を伝説化していっているということなんだと思うけれども、最近では学生時代の自分はもう毎日のように閉架書庫で過ごしていて、薄暗い白熱球の明かりの下、何時間もひっそりと本を読んでいた――というような記憶に書き換わりつつあるんですよ。この短文もその記憶の伝説化に拍車をかけており、もう捏造が始まっているのだ。
 似たような話。戦争の記録を作っている人が従軍してた人にインタビューをすると、みんな自分が活躍した話ばっかり話すようになる。そこで「公式の記録ではあなたはその時そこにいないはずだが」と尋ねると、インタビュイーから怒られてしまう、という話をなんとなく思い出す。
 記憶のなかではおれはいつも孤高で文学青年で、そして作家になるべくゆがんだ情熱を燃やしつづけていて……。