この間リスが来て

「この間リスが来てさ」
「リス?」
「あれだよ、頬袋に餌を溜めこむやつ」
「あーリス」
「そうそう、それでリスが来てタイムマシンに乗せてほしいっていうんだよ」
「なんだってまた」
「自分の死んでしまった奥さんの元気なころに会いに行きたいっていうんだよな」
「泣かせるね」
「それで乗せてやって過去に戻ったんだけど」
「どれくらい?」
「半年ぐらい前」
「あ、結構最近なんだ」
「リスだからね。それで過去に戻ったんだけど、奥さんはまだ元気なんだけど、当然旦那さんもまだ生きてるから、おまえは誰という話になるわけよ」
「そりゃあね」
「それで大喧嘩をして、おれはおまえなんだと、だからこの奥さんとちょっと話させてもらってもべつに問題はないんだと、でも旦那さんのほうでは自分がタイムマシンに乗ってやってきたなんてわからないからふざけるんじゃないよと、おまえは誰なんだと。それでずっと喧嘩をしている間に、ちょうどその日が奥さんの寿命の日だったらしくて、奥さんが死んじゃってさ」
「もっと別な日にすればよかったのに」
「先方の指定だったんだから仕方ないだろ。それで奥さんが死んじゃったので、いったん休戦をして、それで奥さんの亡骸を葬ろうと、死亡証明書を取って、火葬場に連れて行って」
「リスの話だよね?」
「リスの話だよ。それで骨壷に入った奥さんを連れて帰って、お墓に入れて、四十九日も終わったんで、じゃあ喧嘩を再開しようかって言って」
「喧嘩はするんだ」
「そりゃまあ自分だからね、憎たらしいところも全部知ってるから。それでお互いに喧嘩を再開したんだ」
「それで?」
「それで勝ったんだけどさ」
「リスが?」
「リスがね。勝ったんだけど、自分が未来から来た方のリスだったのか、それとももともといた方のリスだったのかわかんなくなっちゃって」
「そんなことある?」
「頭を強く叩かれたし、喧嘩してる間中ずっと、いかに自分が奥さんと会いたかったかとか、奥さんがいなくなってからどれくらい辛かったかとか、そんなことをずっと未来から来た方のリスから聞かされてたから、それでごっちゃになっちゃったんだと思う」
「リスが?」
「リスがね。それでまた森に戻ったんだけど、奥さんもいないし、自分は自分を殺しちゃった罪が新しくできちゃったしで、もう死のうかなって言い出してさ。七輪貸してくれってうちに来たんだよ」
「七輪かあ」
「で、おれんちにはないもんだからさ、おまえんちにないかなって思って」
「ないよ。リスの話だよね?」
「リスの話だよ」