ものすごくみじかい話 アスパラガス

 はじめて彼の部屋に行ったとき、キッチンに壜に入れられた植物が置いてあって、なにかと思いきやアスパラガス。

「こうやって置いておくと長持ちするんだよ」と照れくさそうに言っていたことが、なにかとてもすてきなことに感じられて、それも付き合うことの原因のひとつになったんだなあ、ということを思い出すのだけれども、だからといって自分でアスパラガスを買ったときに、そんなふうに保存しようとしたことなんか一度もない。

 いつもちょっとだけ食べたあと、食べ切れなくて冷蔵庫にしまったしわしわのアスパラガスを見るたびに、恋人のキッチンの透明な壜の、透き通った光のことをなんとなく、憧れとともに思い出すのだ。