日記 ペーパーウェイトを捨てる

 お気に入りの液体の入っていて揺すると動くタイプのペーパーウェイトがいよいよだめになって隙間から液体がどばっどば漏れるようになってきたので仕方がないと捨てることにする。
 ただ、中に液体の入っているものをこのまんま捨てるっていうんじゃ(ゴミの)分別的にまずいだろうということで中の液体は抜くことにする。隙間からちょっとずつ水が染み出しているので押せば隙間が広くなってそこから水がでていくだろうと隙間を押していくとあんのじょう水がでていく。でもちょっとしかでないので金槌でどんどん叩いて隙間を広げる。すると水がどばーっとでていくようになったので、よっしゃと思って水をどんどん出していると、
 臭いのだ。液体が。
 なんかたぶん、石油系の臭いだと思うのだけれども、液体が入っている系のペーパーウェイトは油が入っているのだと聞いたことがあったので、たぶんそれだろうと思うけれども。お寺の本堂みたいな匂いだなあと思う。お寺は石油ストーブを使っているからなのかもしれない。
 それでもがんばって液体を全部絞り出し、紙に吸わせて袋に詰めて分別が完了。これできれいに捨てられるぞと思った矢先のことだ。
 臭い。
 指が石油臭いのである。
 とりあえず石鹸で洗おうとするもぜんぜんまったくとれない。なんだこれ。お寺の本堂みたいな匂いだと思えば最初は我慢しようと思ったけれどもぜんぜん臭い。こんなの我慢していられるかとネットで検索。“指についた臭い”、で検索すると歯磨き粉で洗えというのとお酢で洗えというのがでてくるので両方試す。
 すると多少はましになったけれどもそれでもまだ臭いしそのうえレモン酢の匂いも加わってなかなかゆかいなことに。
 おれがなにをしたっていうんだ。破壊したからかな。捨てようとしているからだと思う。たぶん、お気に入りだったペーパーウェイトを。十年以上は窓辺に置いてあって、ふとした拍子に部屋の中を江ノ島の海の一部を切り取った情緒を添えてくれるもの。あの日差しと波の音。水族館の薄暗さと水槽のなかの光。そういうものの一部をいつまでも私の部屋に供給してくれていたもの。そういうものを。
 そうか。これは心の痛みなんだ、と思いながら指の臭いを嗅ぐと存分に臭い。臭いよもう。自然に消滅するまで待つしかないんだよ。

終わり