見出し画像

タワー様と一緒④僕とモグラさん(全年齢Ver.)


スプラトゥーン2 サーモンランに出てくるオオモノシャケとイカの話。

ちょっと精神的BL。苦手な方はご注意下さい。5話の掌編・短編連作集です。


[chapter: 1.僕とモグラさん]

部屋の主は帰ってくるなりまっ先に僕の元にやってきては僕に全身をなすりつけ、身にまとう粘液で僕をデロデロにする。

「洗濯してもらったばかりなのに」

僕は抗議をしながら、ねちゃねちゃになったよそいきの衣服から急いで普段着へ着替える。

[[rb:ここ > 海 底]]では僕がまとえる服や布自体が貴重で、布地が痛む原因である洗濯は出来るだけ控えたかった。

今日は来客があったばかりに良い服を着てしまっていた。うっかりして着替えをするのを忘れていたのだ。

部屋の主はごめんね、というようなそぶりで再度僕にまとわりついてくる。新しい服にもつくヌメリ。僕は謎の声を上げていた。

 *

 何となく大人して地味なキャラだったからか華やかで賑やかなイカ社会に劣等感を抱いていた。
親しくしていた仲間に性行為を押しつけられ、なし崩しに関係を持ってしまった。そのやり口に不信感が募り厭世的になっていた矢先、モグラに食われた。点滅しながら光る輪が近づき足元からピンク色の口に飲み込まれる。

 たまたま使い慣れない武器で周りに仲間がいない状況だった。インク切れで動けない中、こちらにすっと近づいてくるリングにひどく怯えながら飲み込まれたのを憶えている。

 それから何故かモグラに執着されるようになった。モグラは仲間ではなく僕だけを目指してやってくる。どこの場所にいてもだ。

 バイト仲間にはモグラホイホイと笑われていた。便利なのでカゴの横にいるように言われる始末。おかげで僕の金イクラ納品数は凄い数になってしまった。

 ある日、ジャンプの失敗でモグラの口内に転落してしまう。モグラの口内でバラバラに噛み砕かれ、溶かされ、身体は浮き輪に再構築される。

 その過程で僕はモグラの何かに触れた。それは粗暴さや醜悪さの中にぽつんとした寂しさを抱えているように見えた。

 僕はそこに触れて撫でてみた。寂しくなんかないさって、居場所がないのは、はぐれものは僕も一緒ってさ。自分を食ったモグラに妙に親近感を抱いてしまった。

 バイトの寮内の関係に追いつめられた僕は消えたくてたまらなかった。
呼ばれた様な気がして出た夜の浜辺で、遠目に点滅するリングを見た。

 浜で、足元で点滅するリングに自分から入ったのは覚えている。ただ、その後を覚えていなくて、気がつくとやたらと湿気った洞窟の中の部屋に寝ていた。

 僕の下には海藻が敷かれ、クッションの代わりを果たしていた。部屋の天井はやけに高く、床は石畳の床。

 この場所に全く見覚えがなく、見当がつかなかった。しばらく部屋全体を眺めていたらコジャケがシャーっと音をたててやって来た。

 襲われると思い素早く警戒をしたが武器は手元にはない。噛まれても抵抗できるよう身を硬くして待ち構えていた。コジャケは僕を眺めては来た道を引き返していった。

 危機が去ったと思ったら、コジャケはドスコイを伴い、戻ってきた。どすどすと床を振動させて近づくドスコイ。じりじりと後ろの壁際に下がる僕。

「イカ。オマエ、モグラト来タ。モグラノ。オマエヲ、コジャケ、世話スル」

 どうやらここはシャケたちの基地みたいな場所らしい。僕を連れてきたのはモグラという事だった。
 コジャケが世話をすると言っていたぞ。それに聞きずてならないことも言っていた。僕はモグラの所有物って。

 インクリングの言葉をしゃべれるのはあのドスコイだけのようだった。

それだけを言い残して振動音をたてながらドスコイが去った行った。
コジャケが赤イクラを器に入れて持ってきた。ヒレを口に持っていく動作をしている。身振りから食べろと言っているようだ。

 バイトで回収する赤イクラ。うわさでは回春などに効果があり、金イクラ共々闇市場で高値な金額で取引されているらしい。
おそるおそる一粒口に入れてみる。弾力があり歯をたてるとプツンという歯ごたえがした。軽い塩気と馥郁たる香り、まろやかなコクと旨味が口いっぱい広がった。これは旨い。

 口いっぱいに含んで噛み締める。トロリとした粘液が口内から食道に広がっていく。身体がホカホカして気持ちがよくなってくる。アルコールのほどよい酩酊感に近いんだろう。
しばらくすると自分がいる場所をすっかり忘れて、警戒心や緊張感までなくしてしまう。気まで大きくなっていた。

 コジャケに「おいしい」と微笑むと、ヒレをパタパタさせていた。喜んでいるみたいだ。あれ、シャケたちって敵じゃなかったの。
 意志が通じると分かると凶暴そうに見えた顔も妙に可愛く見える。
 赤イクラを全部食べ終わると、身体が重く眠くてたまらない。意識を手放しながら海藻の上に横になった。

 気がつくと意識を失っていた。変な夢を見た気がした。ネロネロにすりすりされる夢。
 そのままうつらうつらしていると、まとわりつかれる感触がした。薄目を開けてみると巨体の頭部が僕の身体にくっついていた。そいつはネロネロしている液体に包まれていた。

 目の前にはモグラがいた。床から頭部を出させている。このモグラは最初に僕を食べたモグラで、バイト中に僕を狙いうちにし、浜辺に迎えにきたモグラだった。

 その目からは僕を傷つけようとする攻撃的な色合いは感じられなかった。

 僕に向けられる目は、愛おしむような優しい目をしているような気がした。シャケがイカを愛おしむ? まさか。そんなことがあるんだろうか。

 スリスリされていたし、僕はモグラに関心を持たれ、執着されているような気がする。おもちゃみたいなものなんじゃないかと僕は思った。

 僕は寮に帰りたく無かったし、イカ世界に未練もなかったから、ここでなるようになれと開きなおった。

[newpage]

[chapter: 2.僕のパンケーキ]

 モグラとは言葉は通じなかったけれど、何となく意思の疎通はできた。世話係のコジャケも身体の構造上、発語が難しいだけで僕の言葉は理解していた。

 嘘や建前が全くない世界。僕の事を知る人が居ない世界。彼らが僕を襲わないと分かってから、この世界は意外と住みよい気がした。それは僕が一定の権力をもつモグラの庇護下にいたからかもしれない。

 僕はモグラが連れてきたイカということで、しばらく珍しがられた。時折、ドスコイが何匹も群れで来て、僕を見てあれこれ品定めをしている。コジャケやシャケ達も用事のふりをして何匹も僕を見に来ていた。

 モグラは僕が好きそうなものを持ってくる。以前インクリングのガール向け雑誌を持ってきて、掲載商品の好き嫌いを尋ねられた。(ような気がする)

 そう解釈した僕はその雑誌のページをめくりながら、これは好きだ、好きじゃないと、一つづつ伝えていった。

 ハイカラシティで有名なパンケーキ屋の紹介が載っていた。その店は学校のガール達が話題にしていた店だった。

 保護者のいない僕は金銭的にギリギリの生活を送っていたので、空き時間は常にバイトに充てていた。

 学校の皆が放課後や週末に遊びに行く、そのきらきらした時間や世界が羨ましかった。その華やかさの象徴がこのパンケーキに思えた。

 長いことじっとそのページを見つめていたせいで、好きと勘違いされてしまったようだ。

 しばらくしたら、雑誌で見たようなパンケーキをモグラが持ってきた。それをしきりに食べろという仕草をする。

 本当は生クリームやケーキ類は甘くて少し苦手だったのだけれど、用意してくれたモグラに悪くて、全部食べた。

 僕が好きと思って用意してくれたんだろう。ここでは入手が難しいだろうに。

 食べる僕をじっと見ているモグラに微笑む。モグラもなんだか嬉しそうだ。

それを見ていると僕はなんだかくすぐったくなってしまい、ふふっと笑ってしまった。笑う僕をモグラはけげんそうに見ている。

「ありがとう。気持ちが嬉しかった」

 にっこり感謝を込めて言うと、伝わったようだ。嬉しそうにしている。

 僕が感じるこの世界では表層的な言葉がない。僕のイカ語が通用しないからだ。

 でも想いといった思念は通じる。身振り手振り顔つき、言葉のイントネーションで相手の言いたいことは何となく分かるし、自分の意思も伝わる。単純なことや強い思いのものしか伝えないけれど。

 モグラは時折パンケーキを用意してくれた。甘いけど、それはただ甘いだけじゃなくて。何回か食べるうちに僕はパンケーキが大好きになっていた。

[newpage]

[chapter: 3.二人でドンブラコ]

 ここは海底らしい。湿度を過分に含んだ重い空気が身体にまとわりつくようだ。息を吸うのもやや重くるしい。それと気圧の関係でやたら酔いやすい。直ぐ酩酊状態になってしまう。

 地上へは各島へ移動するゲートがあるらしい。それを使えばすぐに移動ができる。それを知った時、地上へ行きたいと思った。

 ここの待遇は嫌じゃなかった。大切に扱われ心がささくれることもなかった。ただ、重く湿った空気から抜けてみたかったし、なんとなく太陽が恋しかった。

 世話係のコジャケに太陽に当たりたいと言ってみた。モグラにも同じ事を言ってみた。モグラはコジャケから報告を聞いており、僕が逃げ出したがってると思ったようだった。僕にはもうここしか居場所はないのに。

 僕は根気強く外に出たい、太陽に当たりたいと懇願し続けた。根負けしたモグラが僕を外に連れていってくれた。

 転送装置の傍に減圧室があって、外の大気の気圧に合わせて時間をかけて身体をならしていく。
 モグラは減圧が不必要なのに僕の身体が慣れるまで、数時間を一緒につき合ってくれた。

 久しぶりの外の世界。光が眩しくて、空気が軽い!臭いがない! 空気が新鮮に感じられて、たくさん深呼吸をした。

 既に太陽は落ちはじめていて陽射しはやわらいでいた。

 ドンブラコの浅瀬から陸地へ上がる。これってシャケ達の出没場所だ。イカの自分がここに出没している奇妙さを感じた。

 モグラは陸上では姿を現さずリングのまま移動していた。僕の周りをリングが点滅しながら周回する。早くと、促されているみたいだ。砂利混じりの浜辺から高台へあがる。

 イクラを食べ続けたからか、海水に濡れてもダメージはなかった。ただ海水で濡れた身体に高台の潮風は染みた。

 むき出しの鉄骨に当たるカーンカーンと鳴り響く金属の音。以前は、あれほど恐ろしく感じたのに、今は何も感じない。足元近くで点滅するリングがあるからかもしれない。

 僕はモグラさんに声を掛けた。

「連れてきてくれて、ありがとう」

 返事をするようなタイミングでリングが光った。きっと、どう致しましてと言っている気がする。

 船の先端部みたいな一番高い箇所に腰掛けて、脚をぶらぶらさせてみた。見渡す限りの水平線。海は色んな世界につながっている。

 この海のどこかの先にイカたちの世界がある。でも僕はそこに戻りたいと思っていない自分を再確認した。そうか、そうだよな。

 なんとなく満足して、あの空気が重い海底へ帰ろうかなと思った。ちょっといたずら心が生じてきた。

「ねぇ、モグラさん、僕を食べてみてよ」

 立ち上がって側のモグラのリングの上に乗ってみた。モグラさんは躊躇している。なかなか食べない。

「大丈夫だから」

がばっとピンクの口内に包まれ暗闇に飲み込まれる。以前は恐怖だったのに全然怖くない。モグラさんが僕を大切に思っているのを知っているから。

 モグラさんの体内はモグラさんの鼓動が鳴り響いている。きっと胎生の胎児はこのような音を母親の体内で聞いて安心するんだろう。

 僕も安心していたら、キュルキュルキュルと身体が物凄い勢いで引っ張られた。

 ポンっ。僕はいつの間にか外にいて、浮き輪姿になっていた。

 浮き輪から自分では元に戻れない。バシャバシャとジャンプをしてモグラさんに合図を送るけれど、モグラさんにも、どうにもできなかった。

 イカの武器が無いと解放できないみたいだった。浮き輪姿のまま、モグラさんに体内に飲み込んでもらって、海底の住まいに戻った。

 コジャケに拾得物らしいスプラローラーで引いてもらって元に戻れた。安易に浮き輪姿になってはいけないと反省をする。

 モグラさんは機会があれば僕を外に連れ出してくれた。減圧、加圧もモグラさんの体内だったら必要ないようで、帰りは浮き輪姿になって戻ってくることがしょっちゅうになった。

 そのため世話係のコジャミさんは、僕をローラーで引くことが妙に上手くなっていた。

[newpage]

[chapter: 4.僕のマグカップ]

 何だかわからないけれど、僕はドスコイ達に可愛がられていた。ドスコイ達は僕にいろんな物をくれる。
海で拾ったインクリングの玩具とか、対戦中イカが落とした端末だとか、クマサン商会のポイントカードとか!!

 端末はここだと電波は届かないし、いろんな機能を兼ね備えているので、落とした本人は家に入れない、病院に行けない、買い物ができないなど、様々な分野に支障が出て、途方に暮れてしまっただろう。ポイントカードも。

 モグラさんはドスコイ達の行為を苦々しく思っているみたいで、僕とドスコイ達が意思疎通を図っていると邪魔をしてくる。僕がドスコイと仲良くするのが嫌みたいだ。

 ある日、僕が唯一好きだったゲームの、キャラクターのマグカップをもらった。くじを当てないと貰えない非売品の商品で、僕は生活が厳しくて、くじすら引けなかった。だから貰えて本当に嬉しかったんだ。

「ありがとう!!」

 嬉しくって何度もお礼を言う。お礼を言われたドスコイも嬉しそうだ。

 そんな状況にモグラさんが鉢合わせしてしまう。しばらく前から僕らの様子を見ていたようで、めちゃくちゃ機嫌が悪い。あたふたと逃げるドスコイ。

 モグラさんは僕の手からカップを取り上げ、床にたたきつけた。ガシャンと飛び散る破片。破片はあちこちに飛び、僕の頬もかすめた。

 モグラさんにとってはただのカップでも、僕には特別なカップだった。ドスコイの親切と自分の大切な思い出を思いっ切り否定されたような気がした。

 僕は涙をこらえ別部屋に駆け込んだ。モグラさんが追ってきてヒレで僕を触る。顔をモグラさんの方に向かせようとする。

 あんな酷いことをしたモグラさんを見たくなかった。触られたくもない。

 モグラさんのヒレが顔に触れた時、思いっ切り噛みついてしまった。噛みつきながら振り向くとモグラさんは、僕の切れてしまった頬の血を拭くために布を当てようとしていたところだった。

 モグラさんはボンっと音をたてて3つの金イクラになった。その場には金イクラと血の付いたハンカチだけが残されていた。

 金イクラから復活するには時間を要する。僕はモグラさんの金イクラを抱えながら何でこんなことになってしまったんだろうと思った。

 どっちも相手の話を聞かないで、勝手に行動した結果だ。相手のことが大事なはずなのにお互いに何やってるんだろう。

 モグラさんが復活したら謝って、謝ってもらう。そしてまたこのような事態を起こさないよう、二人で話し合う。せっかく一緒にいられるのだから。一緒に笑っていられるようにしたいから。

 金イクラが、ブレ始めた。イクラが消える前兆だ。

 モグラさんに言う一言目を何にしよう。僕は布を握りしめながら、地面に金イクラを置いた。

[newpage]

[chapter: 5.ドスコイダンス]

 最近やけに眠い。身体が重くってやたら横になってる。モグラさんは心配してるけれど、眠いと重い以外は痛いことも苦しいこともなかった。

 モグラさんの留守中にドスコイ達が遊びに来てくれた。以前モグラさんの嫉妬でドスコイからもらった僕のカップを壊され、そして怒った僕がモグラさんを金イクラにしてしまった事件があった。その後、僕らは話しあって反省をした。

 僕の一番仲良しはモグラさんだと伝えた。だから心配しないでと。モグラさんも僕に確認すると言っていた。そして僕を傷つけたことを本当に詫びていた。

 それからはモグラさんは無駄な嫉妬はしないし、ドスコイ達と遊んでも大丈夫になった。

 ドスコイ達はどこで学んできたのか変な踊りを見せてくれた。立派な体格でかっこ良く踊るのに腰を突き上げる奇妙なポーズを挟み込んでくるので笑ってしまう。コジャミさんとドスコイ達と皆で笑う。

 ドスコイ達が帰って、モグラさんの帰りを待つ間、モグラさんと外に散歩に行った事を思い出していた。

 モグラさんと出会ったドンブラコ、モグラさんについて行った浜辺、思い出の場所を簡単にまわった。

 頭に僕を乗せたままモグラさんが泳ぎ、半島をぐるりと周ったこともあった。夜だと灯りが全く無く真っ黒でめちゃくちゃ怖いのに、昼間はただの森に見えた。

 モグラさんには、いろんなものを食べさせてもらったし、いろいろもらった。

 一番貰えて嬉しかったのは居場所かな。僕が僕でいられて安心していれる場所。種族は違うけど気の合う仲間もできたと思う。

 僕を必要としてくれて、大事にしてもらった。一緒に笑える人がいるって幸せだなって思った。

 モグラさんが帰ってきた。真っ先に僕のところにきてくれる。会えて嬉しいって全身で言っている。僕も嬉しいって返した。

 僕はモグラさんが居ない間にあったことをモグラさんに伝えた。モグラさんはドスコイの踊りの話で笑っている。

 こんな日々がずっと続くといいなって思った。