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プロフェッショナルの職業倫理

 NHKのBSプレミアムで、西部劇『ザ・プロフェッショナル』を見る。ストーリーは大金持ちの銀行家、グラントの妻、マリア(C・C・カルディラーネ)がラザという男に誘拐され、十万ドルの身代金を要求される。警察を信用していないグラントは、メキシコの革命戦争でメキシコの革命軍に加わったリコ(リー・マーヴィン)を雇う。リコは、爆薬(バート・ランカスター)、馬(ロバート・ライアン)、弓矢(ウッディストロード)の技能に優れた男、四人を選び、マリアの奪還に成功するが、マリアは、実は、ラザと恋仲で、グラントから十万ドルを受け取ったメリーの父親の命令で、グラントの妻になったことを知る。マリアの誘拐は、マリアと、革命組織のリーダーでもあるラザの二人で企んだものだった。

ラザとマリア
この女性はマリアではない。ラザのもとにいる女性でどんな場面でも男の欲望を受け入れる女性。性的欲望も含むらしい。シドニー・ブルックスは彼女をプロフェッショナルに入れたわけだ。

 四人のプロフェッショナルのうち、リコとともにストーリー的に主役となるのは、爆薬の専門家、バート・ランカスター演じるビルで、ビルは、グラントとの話はなかったことにしよう、と言うが、リコは、四人で組み立てた作戦はすでに始まっているので、それはできない、と言う。そしてラザとラザの仲間たちの追跡を振り切って、グラントの前にマリアを連れてくる。グラントが「よくやった。妻を見せてくれ」と言うと、リコは「奥さんを無事に引き渡すまでは、話は終わらない」と答える。グラントは「これこそプロフェッショナルだと言いたいわけか?」と言う。(字幕では「職業倫理か?」となっていた)。グラントはリコにそう言って、妻のところに行くと、妻は傷ついたラザに寄り添っている。グラントは、二人の仲は先刻承知といった顔で、部下に「殺せ」と言う。部下はためらいつつ、ピストルの引き金を引こうとするが、リコはそれを撃ち落とし、グラントに「俺たちは、何もかもわかっている」と言う。つまりラザとマリアが恋人同士だったこと、マリアの父親に大金を渡してマリアを奪ったこと、等々である。最後はラザとマリアは二人、馬車に乗って去り、リコがグラントと結んだ契約は、着手金の千ドルだけだった……ということになったのだと思うけれど……シナリオ的には、「なんじゃ、こりゃ」という感じがしないでもない。

 西部劇には共和党系西部劇と民主党系西部劇があるそうだが、『プロフェッショナル』は民主党系西部劇の最左翼に位置するもので、トランプの支持者が見たら大ブーイングの映画だろうけど、1966年につくられた映画で、最初見たときは、移植の技能を持つ「プロフェッショナル」たちの技能を見せる映画だとしか思っていなかったので、正直いって、胡散臭い感じがないでもないなあ……と微妙な印象をもった記憶がある。その後、だいぶ経ってから、NHKで「プロフェッショナル」という番組が始まった時も、映画の『プロフェッショナル』を思い浮かべ、技術屋のナルシスティックな自慢話ではないか、と思ったのだったが、シドニーブルックスがつくった『プロフェッショナル』は「プロフェッショナルの職業倫理」のあり方に関する映画なのだった。では、それがうまい具合に描かれているか、というとそう言えないので、困ってしまうのだが……ブルックスの『プロフェッショナル』についてはこれくらいにして、日本では、NHKの「プロフェッショナル」に象徴されるように、「技能の有無」に問題が矮小化されているので――これもNHKのBSプレミアムでやっていたのだが――トンネルの掘削に命をかける技術屋の時代遅れの父権主義全開の映画『黒部の太陽』みたいな映画がつくられ、みんな感動しているようだ。黒四ダムは1960年ごろにつくられたので、当時はあんな突貫精神が健在だった……と言えるのだったら、まだ、いいのだが、今でもその精神は寸分も変わらず、ただ技術は飛躍的に進歩しているので、黒四ダムの破砕地帯のトンネルの、おそらく百倍以上の規模のトンネルをリニア新幹線のために貫通させようとしているわけで、暗澹たる思いにとらわれた。監督は熊井啓で、政治的ポジションは、どちらかというと良心的左翼だと思うのだが……言うべき言葉を失うね……。

熊谷組の社長の滝沢修。迫力があって名演技には違いないが、悪代官のよう。民間企業の社長なんだから国とつるんでいなければあり得ないセリフ。
破砕帯のトンネル開通! 手前で三船敏郎が深刻な顔をしているが電報で病身だった奥さんが亡くなったこと、最後の言葉は「トンネルの完成を祈ります」と知らされている。この後、酒樽が割られて工事関係者全員で酒を飲みながら涙をこらえて三船敏郎が挨拶する。『プロフェッショナル』もご都合的なラストではあったのだが、女性の扱いが極端に違うので驚いた。『黒部の太陽』では電報を持ってくるのがスカートで半袖の女性の事務員だった。トンネルは男の仕事だと言いたいのだろうが。一方『プロフェッショナル』では、プロフェッショナルな人間に女性が入っている。『プロフェッショナル』と『黒部の太陽』は同じ頃の映画だと思うけど……。

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