時空を行き交う西部劇――『クイック・アンド・デッド』
後期高齢者としては全くめでたくないのだが、おかげさまでまた一つ、馬齢を重ねてしまった。
それはそれとして『クイック・アンド・デッド』という映画を見た。
「氷の微笑」で有名になったセクシー女優、シャロン・ストーン主演の西部劇。当初、本当にあのシャロン・ストーンが?……と思ったが、まだ名前の知られていなかったラッセル・クローと。若手のホープ、デカプリオを、自ら口説いたそうだ。おまけに日本の衛星放送の会社がが出資したそうで日米合作という意外な作品だった。
日本の出資者がマカロニウェスタンのファンで、雰囲気的にもそれは感じられる——と書いているブログがあったが、まさにその通りで、作品の全体的構想は、セルジオ・レオーネの『ウエスタン』そのままだ。
つまりシャロン・ストーン演じる、女性ガンマン(?)のエレンは、『ウエスタン』のハモニカ、ことチャールス・ブロンソンで、ヘンリー・フォンダ演じた極悪人フランクは、ジーンハックマン演じる、ヘロッドだ。
ヘロッドはある町を牛耳っていて、そこで年に一回、早打ち自慢の無法者を集めて決闘を行わせている。
映画はヘロッドが強盗殺人を繰
り返していた時の仲間の一人で、腕のたつガンマンだったが、今は絶対平和主義を主張する牧師、コートを捕まえて決闘に出ろと迫る。断るコートの首にロープを巻いて椅子の上に乗せ「オーケーしろ」とさらに迫る。否定するコートの立っている椅子の脚をヘロッドがピストルで撃ち抜く。椅子が崩れかかるが、それでも首を横に振るコート。ヘロッドはもう一本の脚を撃ち抜く。「オーケーと言え」と迫るヘロッド。「断る」とコート。そして残る脚は一本だけ……となった時、エレンがロープのをピストルで撃ってコートを助ける。それを見たヘロッドは、コートとエレンをリストに書き込む。決闘大会に参加させて殺してしまおうというわけだ。その後、映画は決闘のトーナメント戦を描くことになるが、その見所はデカプリオ演じるキッドという少年と、ヘロッドの決闘だ。というのもキッドはヘロッドの息子を自称している。ではなんで父親を殺そうとするのか。キッド曰く「あいつに俺を認めさせるため」と言っているので、エディプスコンプレックスの克服か?
勝負は、「今が絶頂だ」と偉ぶる少年、デカプリオを、初老となったジーンハックマンが僅差で撃ち殺す。「死にたくない」と言う、キッドに対し、ヘロッドは「俺の息子かどうかわからない」という。
その後、ヘロッドはエレンを撃ち殺し、次にコートと対決するが、その瞬間、ヘロッドが蓄えていた爆薬が一気に爆発、決闘どころではなくなるが、そこに死んだはずのエレンが現れる。確認した医者が「死んだ」と言ったが、実際は致命傷ではなかった……ということらしい。それはそれでいいけれど、なぜ、火薬が爆発したのか? エレンがが火薬の箱をベッド代わりにしていること何度も示されているのだから、そこにどのように着火したのかというと、エレンのはずだが、明示されていないのは欠点と言うべきだろう。キャラクター的に言えば、ラッセルクローが演じるコートだが……。それはともかくとして、生き返ったエレンにヘロッドは「お前は何者か?」言うと、エレンはヘロッドに保安官のバッヂを投げつける。
以下、回想場面。
映画の冒頭、縄を首にかけられた上、椅子の上に立たされたコートを、エレンが縄を撃つことで命を救うが、全く同じように首に縄をかけたまま椅子の上に立たされた男はエレンの父親で、保安官をしているが、逆にヘロッドに捕まってしまう。ヘロッドは、オヤジの命を助けたければ、縄を撃てとピストルを渡す。「無理よ!」と泣き叫ぶ幼い少女のエレン。「大丈夫だ」と言う保安官の父親に従い、ピストルを撃つが、額を撃ち抜いてしまう。嘲笑しながら、父親の保安官のバッジを幼い少女、エレンの足元に投げ捨てるヘロッド……。
というわけで『クイック・アンド・デッド』のエレン(シャロン・ストーン)と、ヘロッド(ジーン・ハックマン)は『ウェスタン』におけるチャールス・ブロンソンとヘンリー・フォンダと全く同じだ。パクったといえばパクったし、剽窃したと言えば剽窃だし、楽屋落ちといえば楽屋落ちだが、でもだかたといてって、シラけてしまうことはない。むしろ、映画を楽しむ要素というか方便の一つと言っていいと思う。いずれにせよ、『ザ、ウエスタン』のことを知らずに見ても面白いのだから。
……なぜって、監督はサム・ライミだ。私が知っているのは『スパイダーマン』だが、恐怖映画の古典になっている『死霊のはらわた』がデビュー作だそうだ。その後、『クイック・アンド・デッド』を経て、『スパイダーマン』シリーズに至る。『クイック・アンド・デッド』が、ただ派手な爆発シーンと、決闘における奇想天外なアクション――額を撃ち抜かれたヘロッドが、棒状で一回転するとか――しか、見所はないぞ!――という人も多いと思うけれど、マカロニウエスタンの記念碑的作品に対するオマージュと思えば楽しみも倍加する。そう私は思いたい。
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