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[喜作新道] 山本茂実(1986, 7, 20)朝日文庫.424p. ☆☆☆

『あゝ野麦峠』で広く知られている山本茂実の作品。

北アルプスの中房温泉から槍ヶ岳にぬける登山道を切り開いた、猟師で山案内人の小林喜作の一代記である。
関係者への綿密なインタビューをもとに書かれたドキュメンタリーとして、迫力のある作品。

喜作は、腕の立つ猟師であると同時にビジネスの才能もあった、当時としては珍しい人物であったらしい。

明治から大正にかけての山里の水飲み百姓は極めて貧困であったが、中でも猟師は極貧であったという。
そんな中で、喜作は熊やカモシカ猟でそれなりの財を築いていた。
また、新道の開拓は次第に活発になるアルピニズムを想定したビジネスプランであった。

極めて優秀な猟師であったが、猟の最中に鹿島槍ヶ岳棒小屋沢で雪崩により亡くなった。
極貧の百姓の中で、ビジネスの才に恵まれ経済的に余裕もあったため、死亡当時から妬みによる謀殺説が唱えられていた。

本書では、その真偽も追跡する。
関係者へのインタビューをもとに、様々な考察をしている。
結論は読んでのお楽しみ・・・

余談ではあるが、上高地に来た宮宅の者が、道路工事をしていた土方を見て、「ドカタと申すものは人間には危害を加えないか?」とお付きの者に聞いたという話には、こんな時代もあったのかと思わずうなってしまった。

黎明期の北アルプス開拓の周辺にいた人々や社会のことが、生き生きと描かれていて、ハラハラドキドキする。

私の故郷、松本から毎日見ていた北アルプスを思い出しながら、1ページ1ページ楽しみながら読んだ。
古い本ではあるが、今読んでも充分楽しめるエンタテイメント的力作である。



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