「創生の天使」{本編(第一稿)}


プロローグ“双生の天使”

歪む世界

軋む身体

泣き続ける少女

なぜ泣いてるのか

彼女自身知らないかのように泣き続ける

その涙が地を濡らすことは無いとしても・・・


広い宮殿。
その一室に二人の女性が寝ていた。
ダブルベッドでありながら、二人抱き合うように眠る彼女ら。
その姿だけならとても微笑ましいものであろう。
しかしそれは、彼女らがなんと言う名で世間に知られているかを知るまでの話。
“双生の天使”
能力者のいるこの世界の中で相当な地位に存在する者。
“どんなに強い能力者でも、彼女ら相手では敗北を味わう。”
そんなふうに言われる実力者。

「・・・ん。」
彼女らの片方が目を覚ます。
彼女の名は『ライチャート・サメンスタ』。
彼女が起き上がろうと体を動かす。
しかし先ほどまで抱き合って寝ていたのだ。
「・・・動けない・・・。」
そっと姉を起こさないように、その腕の間から抜け出しベッドを降りる。
「寒ぃな・・・。」
そんなことをつぶやきながら、部屋を出ようとしたところで。
「・・・サー、どこに行くの?」
姉が呼び止めてくる。
彼女の名は『ライチャート・レーゲン』。
彼女らは二人きりの時は互いを“サー”、“レィ姉”と呼び合う。
それともう一つ。
彼女らはある意味、両方とも二重人格である。

「レィ姉、起きちゃったんすか。寝ててよかったのに。」
「だって、サーがいなくなったから・・・。」
なんだか寂しそうで泣きそうな顔のレーゲン。
人前ではもっと真面目で規律正しい人なのに。
そんなことを思いつつ、そんな彼女が好きなサメンスタ。
姉の元まで戻り、その額にキスをして言う。
「ちょっと出かけてくるだけだから。」
「・・ホント?」
「ホントだって。だからレィ姉は寝てな。明日からまたいろいろ忙しいんだから。」
「・・・うん。」
納得したのか、布団に頭半分だけを出して潜るレーゲン。
その目はサメンスタが手を振りながら扉を出るまで彼女を見つめていた。

(よくあんなんでやってけるよな。)
廊下を歩きつつ、サメンスタは姉に感心する。
今では、能力者たちの裏勢力の一つ『救済者(リリーファー)』のリーダーとなったレーゲン。
そんな彼女の本性はあれなのだから。
だが、そんなことを思っている彼女も、
「あ、サメンスタ様!こんなお早い時間にどちらへ?」
「あ、いえ。目が覚めてしまったものですから、散歩でもしようかと。」
宮殿に仕える人に対してさえ、態度がガラリと変わるのだ。

行くあてもなくフラフラと歩き回り、サメンスタはベランダに立っていた。
春に近づくにつれて暖かくなりつつある風にあたりながら、空を見る。
そこには未だ暮れずに光り輝く月。
星々がその光に消されないようにと命を燃やす夜空。
それを眺め、彼女は何を思ったのか。
「・・・日記でも書くか・・・昔んだけど・・・。」
そう呟いて、そこを後にした。

数日後、救済者たちは戦のために拳を握ることとなるのだが、
今回語られるのは、それ以前にサメンスタが書き記した自分達の生涯。
彼女ら二人が生きたこれまでのことである。

幕間“巻頭注意書”

以下の内容はサメンスタの日記の言葉。
巻頭の注意書きの内容である。


   ~この日記を見る者へ~

  これを読む前に注意しておきたいことがある。
  別にここで脅し文句を書く気はない。
  むしろただの“一人”の少女の日常である。
  それ故に退屈かもしれないが、日記なんてそんなものだ。

  この日記は日々つけたものではない。
  後に人生を振り返りつつ書いたものだ。
  そのせいで記憶の曖昧な部分は書いていない。
  私の人生の転機とでも言うべきことが綴られている。
  了承いただきたい。

  皆(これを読む者たち)は何を望んで読むのだろう。
  自分以外の人生を見たいから?
  自分以外の価値観を知りたいから?
  自分の知らない世界を見たい、知りたいから?
  ただ、人の生き様を見てみたいから?
  皆の意思は私には計り知れない。
  しかし私から一つ言わせてもらおう。
  自分以外の人生を見ようとも、
  自分以外の価値観を知ろうとも、
  自分の知らない世界を見て、知ろうとも、
  結局それを生かすも殺すも皆次第だと。

  私は真っ当な人生を送ってきたと胸を張れるような人ではない。
  醜くも、それでも“人間らしく”生きてきたつもりだ。
  この日記は、人々を助けるために魔王に立ち向かうヒーローのお話ではない。
  恋焦がれる学園生活を贈る少女の話でもなければ、かっこよく戦うバトルものでもない。
  それだけ承知して、ページをめくってもらいたい。

  最後にもう一つだけ。
  私には瓜二つといっていいほど似通った姉がいる。
  だが、ここで言っておこう。
  この日記は“私一人”だけから始まる。
  そもそもこの時、私に姉はいなかったと言っておこう。
  詳しくはこの日記を読んでもらうとしよう。

  私からの注意は以上である。
  皆の人生はせめて幸せでありますように。

ライチャート・サメンスタ 著         
』   

それでは日記を読んでいこう。
語り手であった私もしばらく口を閉じるとして。

第一話“誕生”

この世界は『有』である。

既に有る世界。

だが、人は言うだろう。

全てに『真逆(アイロニー)』が存在する。

そう、この世界にも。

この世界の真逆とは?

この“有限”なる世界の真逆。

それは・・・━━━

元気な赤ん坊の声が街の一角に響く。
早朝。
小さな貿易港“ゲウェーヴ”に新たな命が生まれた。

その日の街は賑やかだった。
一人の少女の誕生に市民が湧いた。
もともと人の少ない街だ。
建物が散見できるばかりで、その多くは家具にホコリをかぶせていた。
そんな街にその夫婦がやってきたのは数年前。
新たな命の誕生は人々に希望の光を与えた。

と同時に、絶望の刻限をも。

その少女は元気に育った。
親の愛ある世話のおかげか、彼女は街の皆に笑顔を振りまいた。
街の活気は徐々に満ち、人が増えた。
その少女。
名を“サメンスタ”という。

少女はその街で様々なことを学んだ。
父“ライチャート・アウスレイヴァー”は彼女の望みにできる限り答えた。
母のいなくなった彼女のために。
物の買い方、食材の扱い・調理法、掃除。
礼儀作法は父の望みでもあったが。
それに加えて野生児だった彼女。
普段から海で泳ぐうち、潜水はお手の物であった。
庭にある小屋の屋根に上り降りれなくなったことは近所でも大きな事件だ。

そんな彼女の不安な顔を研究者の父が初めて見たのはいつだったか。
異様に震える彼女に父は優しく声をかける。
「怖いの。怖いのぉ・・・。」
彼女はそれしか言わなかった。
目に涙を浮かべ、ふるふると頭をゆする彼女は、その日一晩眠ることはなかった。

彼女が4つになった年。
夜中でも蒸し暑い晩に、彼女は父に初めて聞いたことがあった。
「ねぇパパ。私のママってどんな人だった?」
その時のアウスレイヴァーは少し寂しそうで、辛そうな表情を見せた。
だがそれも一瞬。
「サメンスタ。ママはとっても優しい人だったんだ。周りのみんながそう思うような、そんな、立派な人だった。」
彼は娘が寝付くまでゆっくりと話した。
母親の優しさ、容姿、思い出。
でも本当のことは、彼女の布団を濡らす物のように正直には出てくれなかった。

ある日の昼間。
彼女はセミの声を遠くに聞きながら、海を満喫していた。
彼女が再び海に潜る。
深く深く。
近くを魚が通りすぎる。
透き通った海の中、その魚を遠く見送る。
その時。
ふと横に何か光るものが見えた気がした。
(なんだろう?)
彼女は一度水面に顔を出し、再び探しに潜る。
よく観察すると、そこにある地面が薄く淡く青い光を放っていた。
手を触れてみる。
なんだか冷たくて、心地いい。
それは地面に埋まっているようで、砂をどけても一向に掘り出せる兆しはない。
となりを通る魚が無駄だとばかりに通り過ぎていく。
そのうち彼女も諦めて水面から顔を出す。
日が真上を通り越していた。
「あっ、お昼ご飯!」
彼女は急いで陸に上がり、家へと駆けた。
彼女が離れると、海底の淡い光が小さくなった。

それ以来、彼女はそれに目を向けることはなかった。
それよりも気になることができてしまったから。

次の年の冬
サメンスタの言葉に、父は驚くことになる。
「私、学校行きたい!!」

第二話“引越し”

父は、娘サメンスタの言うことに最初は驚いた。
自分から学校に行きたいと行ってくるなんて思っていなかった。
そもそもこの街に学校はない。
あるとすれば隣町くらいか。
誰に聞いたかと問えば、旅人から聞いたと笑顔の彼女。
だが通うには少し遠い。
弱冠5歳の少女が一人暮らしなど考えられない。
その要望には、父も頭を抱えるしかなかった。

冬の間、彼女は毎晩のようにアウスレイヴァーに頼み込んだ。
ここまで一つに執着する彼女に、先に折れたのは父の方だった。
引越し。
もともとアウスレイヴァーはこの街に来るまでも幾つかの街を渡り歩いた身。
彼がここに居座ったのは安産のためであったのだから。
しかし予想に反して過ごしやすいこの街に、いつしか馴染んでしまっていた。
もともとはよそ者。
そう言い聞かすように眠ったのは、父の娘への愛だけだった。

次の週末。
少し日の暖かい日に荷物の準備を始めた。
もともと二人暮らしで物も増やさなかったからか、あっという間に片が付く。
近隣への挨拶回りはその後数日に分けて行い、隣町の方で空家を探す。
結局その街を離れたのは父が娘に約束してから1ヶ月後のことだった。
新しい街へ向かう彼女はなんとも楽しそうだった。

徒歩での旅なので、丸一日かけて隣町へ辿り着く。
その日は近場の宿に入り、一夜を明かすことになった。
「わーいわーい!」
興奮冷め止まぬサメンスタは普段眠る時間になっても眠そうな気配はない。
父の言葉も半分無視してカーテンを開ける。
そこには窓から光をこぼす家々。
敷き詰められた星のようなそれらにわぁっと感嘆の声を漏らすサメンスタ。
その表情は父の不安さえも拭うようだった。
その目がふっと少し離れた丘を仰ぐ。
暗い闇夜に隠れるように、ひっそりと佇む校舎。
サメンスタの言っていた学校。
「明日、家に着いた後に見に行こうか。」
アウスレイヴァーの提案に元気よく頷く彼女。
その頭を撫で、もう寝なさいと優しく声をかける。
彼の言葉はやっと落ち着いたサメンスタに届いたようで、大きなあくびとともに布団に潜る少女。
「おやすみ、パパ。」
そんな一言を最後に、後はスースーと寝息が聞こえるばかり。
アウスレイヴァーも開きっぱなしのカーテンを閉めて床についた。

次の日の朝は早かった。
父は娘の声で強引に朝を迎える。
宿の朝食をいただき、二人は再び家を目指す。
その家は街の中心街からは遠いものの、学校に徒歩で通うには無理のない距離だった。
決して豪華とは言えないものの、不自由なく暮らすには十分な広さがある一階建ての家。
「前のお家よりおっきー!」
入って早々にサメンスタが驚く。
この感受性の高さにはいつも感心させられてばかりだ。
「ほら、早く荷物置いてきなさい。部屋は自分の好きな部屋でいいから。」
その言葉を聴き終わるか終わらないかのうちに走り出した彼女。
廊下の奥でここにする!と声が聞こえる。
アウスレイヴァーは一番置くの部屋を陣取る。
机と本棚の置いてある部屋だ。
少し狭いがあまり気にはしない。
廊下に出て、父は娘の部屋を確認する。
そこには彼女には大きすぎるベッドと小さな勉強机。
その部屋の角に荷物をまとめて置いた彼女は再び父の方へ向かってくる。
「ねぇパパ、行こ!」
手を取り先を急ぐ彼女に急かされるように家を後にした。

何回か道を間違えそうになりながら、やっと学校前までたどり着いた頃には、もう夕日が校舎を照らしていた。
途中すれ違う子供たちは、皆それぞれ違うカバンを持ち、一緒に楽しそうに下校していった。
「大きいね。」
サメンスタがつぶやく。
父はそうだねと返す。
しばらく二人学校とその先に見える街を眺めていた。
これからここで楽しい生活が始まると思うと、楽しくて仕方ないのか、少し落ち着かない様子の少女。
そんな彼女の行く末が少しでも良いものになればと父は夕日に願う。
遠くを見据えたままの娘の頭に手を置いて、
「帰ろう。」
父はそう呟いた。

夜は冷え込む冬の街。
帰りがけに寄った炭屋の炭が、パチパチと音を立てて燃えている。
電気代の払われてない家は、容赦なく電気を切られるのだろう。
薪ストーブにあたりながらリビングに二人。
「明日、買い物行かないとな。それと、ここの地主にも挨拶しに行かないと。」
夢うつつの娘に語りかけるが、目立った反応はない。
このままでは体を冷やす。
その小さな体を持ち上げ、彼女の自室まで運んでいく。
布団に毛布はなかったため、防寒用の上着をかけてやる。
「買い物も行かないと。」
そんな独り言は暗がりに吸い込まれていく。
その晩、父はリビングで眠った。

次の日から二人は仕事に追われた。
掃除、買い物、挨拶回り。
だがその忙しさと同時に、少しずつ日は流れていく。
彼女にとって楽しいはずの学校が、始まろうとしていた。

第三話 “入学式”

少女、サメンスタは自室から空を見上げていた。
青空にポツポツと浮かぶ白い雲が街を見下ろしていた。
窓からは暖かくなり始めた風が吹き込んできている。
柔らかいその風を纏いつつ、少女は大きく伸びをする。
今日から新しい日々が始まるのだ。

新しい服に腕を通し、スカートを履く。
先日届いた赤いランドセルは、使われるの待っているかのように綺麗だ。
それにサメンスタは筆記用具を入れる。
これからいろいろ入るであろうそれは、今はまだ大きな空間が残っている。
蓋を閉め、走り出しそうな勢いでリビングへ向かう。
そこでは、父、アウスレイヴァーが朝食を用意して待っていてくれた。
「準備は出来たのかい?」
そんな風に問いかける父に元気に頷くサメンスタ。
その表情は楽しさを隠しきれないでいた。

「忘れ物はないかい?」
父の確認に、大丈夫と答える少女は、父を急かすかのように早く歩く。
その元気な後ろ姿にアウスレイヴァーの頬がほころぶ。
二人は自宅から学校まで歩いていく。
途中、娘に何度か注意したことも、少女がちゃんと覚えているか怪しいものだ。
そんな風に、二人は学校にたどり着いた。
小学校。
その校門前には“入学式”と書かれた立札。
そこを二人は手を繋いで通り抜けた。

「えーこの度は・・・」
入学第一番の式は、早々に彼女に眠気を与えるものだった。
よくわからない難しい単語が頭上を飛び交っているよう。
正確には壇上にいる人が話しているだけだが。
辺りを見渡すと、学校の大きさの割に生徒数は少ないようで、
入学式の行われている体育館には、まだ人の入れる余裕があった。
自分たちの遥か後方に自分の父親も座っているんだろうな。
退屈じゃないんだろうか?
そんな風に考えながら、サメンスタは未だ話している壇上の人の方を向いた。

その頃、父アウスレイヴァーは、体育館の外にいた。
入学生に関連した項目はだいぶ後半にまとまっていたため、
まだ参加しなくてもいいだろうと判断したのだ。
本当は娘の入学式、最初からその場にいたかったのだが、
「・・・状況はどうなんだ?」
「能力装甲(アーマニング)部隊は?・・・分かった。」
「・・・そうか、もうそんなところにまで・・・。」
「能力覚醒計画(アウェイクニング プロジェクト)・・・!?まだあれが・・・。」
「あぁ、そっちも危なかったらすぐに。」
「・・・分かった。こちらも気をつけるよ。」
それじゃと電話を切るアウスレイヴァー。
この校舎裏の物陰。
誰も近くにいないことを確認して電話をかけていた彼。
その目はさっきまでの父親としての者とは違い、鋭さとそれを鈍らせる疲れが含まれていた。
電話を終え、校舎に背を預ける。
少し目を閉じて深呼吸。
そうして落ち着いたところで、校内に戻ろうとしたその時。
「待て、アウスレイヴァー。」
後ろから呼び止められる。
振り向く前に背中に硬い何かが当たる。
(銃か?)
後ろをちらりと見ても、フードをかぶったその顔は見えなかった。
だが、背中の感触に違和感を覚える。
何か薄い硬いもので、軽く押されるような。
「お前は・・・?」
「受け取れ、アウスレイヴァー。娘さんの結果だ。」
その言葉で彼は後ろの人物が誰かを察する。
「まさか、レイヴか?」
ゆっくりと振り向いて見てみると、彼にとって見慣れた顔がフードの中にあった。
「久しぶりだな、アウスレイヴァー。」
「お前、今までどこにいたんだ?」
「昔と一緒さ。それより、早く受け取ってくれ。俺は早々にこの場を離れたい。」
押し付けられたそれは、一冊のカルテ。
表紙には娘の名前。
「俺の役目はそれだけだ。そいつを活かして、娘さんを長生きさせてやんな。」
レイヴと呼ばれた男は、身を翻して歩き出す。
「あんたも、自分を長生きさせてやんな。」
アウスレイヴァーの言葉に片手を上げて返事をし、彼は森の方に入っていった。
そんな自分の元同業者を見送ったあと、彼はふと時計を見やる。
「うわっ、時間・・・!」
彼は慌ててそのカルテをしまうと体育館へ向かった。

体育館では、ちょうどサメンスタたちのクラスが名前を呼ばれ始めていた。
彼女の名前もそうだが、その容姿は周りの親達も驚く程綺麗なものだった。
濃い金色の髪は、長くても荒れているところはなく艶やかで、
その白い肌は幼さゆえの柔らかさとシミ一つない陶器のよう。
服の質素さすら拭い去ってしまうほどの存在だった。
名前を呼ばれ、元気に立ち上がる彼女に合わせて、その長い髪が揺れる。
そんな彼女には聞こえてはいないだろうが、
シャッター音が立つときにずれた椅子の音とかぶる。
父親が何とかその場に間に合い、娘の姿を記録として残していた。

入学式は順調に行われ、サメンスタは集合写真の台に立っていた。
女子としては少し身長の高い彼女は台の上の方で笑っていた。
「はーい。皆さんこっちを向いてねー。いくよー。」
カメラマンだろう人が、ボタンを押す。
集合写真が撮影される。
アウスレイヴァーも同じように写真を撮っていた。
娘の晴れ舞台は、父として胸に来るものがあった。

それからしばらく、ホームルームや学活などがある。
だが、それも昼12時過ぎには終わり、生徒が学校から出てくる。
校門近くで立っていたアウスレイヴァーは、娘の姿を校舎前に見かける。
そこでは、もう仲良くなったのか、数人の少女と楽しそうに笑い合っていた。
ちょっといきなり寂しいような、でも、それをぬぐい去るほどの嬉しさを彼は感じていた。
その少女たちと手を振り別れた娘に、名前を読んで場所を知らせる。
父の存在に気付いたサメンスタは、走り寄り、かがんだ父の胸元へ飛び込む。
「クラスはどうだった?」
「えぇっとね!みんな楽しくってね!」
少し興奮気味の娘の頭を撫でて、彼は立ち上がる。
手を差し出し、
「それじゃぁ、今日は帰ろうか。明日から学校で忙しくなるぞ。」
頷きながら手を握り返す少女。

帰りがけ。
最後に校門前で立札と娘の記念写真。
次の日から始まる学校生活の嬉しさを隠しきれない様子のサメンスタと、
そんな彼女を優しく見つめるアウスレイヴァー。
二人は楽しそうに話しながら自宅へと向かった。

これより数日の間に、とても綺麗で可愛い小学生が入学したということが街中で噂になった。
もちろん、当の本人は知る由もないのだが。

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