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雨が止んだら -前にもあった-


……ん?あ、まただ。

 最近多いな。
 本当か試してみよう。

 ある日のお昼休憩、ご飯を食べている時にそれは起きた。いつもこの感覚の時はその通りにしないが、今日は試してみた。

 私がパンを齧る。雨衣がそのパン美味しい?と聞く。私がよく分からないけれど好きだと答える。雨衣はいつもの相槌をしながら今日あった数学の小テストの話を切り出す。

 うん、やっぱりそうだ。同じ行動、同じ会話。

 私は最近デジャヴが起きるようになった。いつからかは覚えていないが、それは頻繁に起きる。
 私の調べた所によると、デジャヴは過去の記憶と現在が類似した瞬間に起きるらしい。それにしたって多すぎだ。いくらいつもと変わらない日常を送っているとはいえ、二週間に一回ほどのペースなのはやめて欲しい。起こる度にゾワゾワっとした経験をするのは嫌だ。
 それを雨衣に相談してみた。

 ……私がバカだった。

「最近さぁ、よくデジャヴが起きるんだよね。」
「なんだって?!それは大変だよ巡ちゃん!」

デジャヴと聞いた瞬間に雨衣が叫んだ。何故そんなに声を張るんだ。
「耳が痛い。」
「あ、ごめんごめん。でもね巡ちゃん、デジャヴって……陰謀論があるらしいよ……」

雨衣は、それはもう真剣な顔だった。
 なんじゃそりゃとは思ったが、一応理由を聞いてみた。すると、雨衣は怪談話をする様に話してきた。
 なんでも、それはタイムマシンの所為だと言う。米国アメリカ政府が過去を行ったり来たりしているから、私たちの脳はデジャヴを引き起こしている、らしい。というか厳密にはデジャヴでは無く、私たちの瞬間的な記憶が蘇っているのだと言う。

「出た出た、雨衣ってそういうの大好きだよね。ムーとかよく立ち読みしてるもんね。」
「立ち読みだけじゃないよ、その後ちゃんと買っているのさっ。ちなみにこの情報もムーに載ってたんだぁ。」
 雨衣はよく、嘘か本当か分からないことを言う。
 昔はとても虚言癖のある子だった。その原因は彼女のお母さんだったらしいが。

「空って青いでしょ?それって宇宙人のせいなんだって!宇宙人が太陽の黄色とか赤を盗んじゃうから、空は青いんだって!」
「虹ってね、神様じゃなくて天使が降りてきてるんだって!そんでね、天使がね、虹の根っこのとこに宝物を隠していくんだって!実際に掘り起こして大金持ちになった人も居るらしいよ!」

 こんな事ばかりを言っていた。まぁ、本人はそれを深く信じていたので雨衣の中では虚言ではなく本当の話だったのだろう。
 その癖がまだ残っているのだろうか。彼女はたまにこうして嘘か本当か分からないことを言う、都市伝説が大好きな女子中学生へと育ったのだ。

 「またまた、そんな事あるわけないじゃん。だいたいそれって誰が証明してくれてるのよ。」
「それは未だに不明なんだってさ……。でも、その証拠を掴んだ人は次々と謎の死を遂げているそうな……」

 嘘っぱちだと思いながらも少しだけそれを信じてみた。未来の人が過去をやり直しているとするなら、それはそれでロマンがある。それ程までに助けたい人が居るのかなとか、それ程必死で変えたい何かがあるのだろう。
 世界を変えるって、すごいな。もしかしたら、今この瞬間もそれは起きているのかも知れない。それを感じ取れる電波のようなものがあればいいのに。「今この瞬間、誰かが過去へ戻ったんだな」と分かってみたいもの。

「雨衣はさ、時間を行き来できるならどこに行きたい?」
「んー……そう言われるとそういうの考えた事もなかったなぁ。でも、未来かな!」

 その後鼻息を荒くして熱く語ってくれた。宇宙人との交流はできているのか、人類はどれほど進化したのか、超常現象は未来人が行なっているというのは本当か。それを確かめたいらしい。
「雨衣らしいね。」
「巡ちゃんは?どこ行きたい?」
「私は……」

 私は、過去へ行きたい。そうして今までできなかった事、果たせなかったことをしたい。それができるまで何度でも繰り返し過去へ戻りたい。雨衣みたいだが、小テストでの赤点を免れるとか、小学生の頃理科の授業で枯らしてしまった朝顔をちゃんと開花させるとか。そんな事だけれど、その一つ一つの失敗を無くしたい。
 変なところで完璧主義だから。

「私も未来に行きたい。」

本音とは違うことを言った。けれどそれはある意味嘘ではなかった。
 これからどんな人生を歩むかは分からないけれど、雨衣と一緒に未来には行きたい。一瞬にして飛ぶのでは無く、徐々にで良い。そうして色んな世界を一緒に見てみたい。もしそれができるなら、雨衣の言う奇妙奇天烈なものも一緒に確かめてみたい。

「やっぱりそうだよね!未来の方が絶対良いよー!」
雨衣はニカっと笑って見せた。
 その歯には、見事なまでに海苔が付いていた。私は堪えきれずに笑った。
「雨衣、歯に海苔付いてるよ。しかも結構大きく。」
 久しぶりにこんなに笑った。
 きっと先程食べていたおにぎりの海苔だ。何故全然気づかなかったのだろう。こんなに目立っていて面白いのに。
 雨衣は少し恥ずかしそうにしながらも私を笑わせた事に優越感を覚えたのだろう。海苔を取った後、またニカっと笑って見せた。

 そうして私はひとしきり笑ったあと、ティッシュでパンクズを集め、捨ててくると言いゴミ箱に向かった。

 すると、戻ってきた私に対して雨衣が言った。

「あれ?巡ちゃん、さっきも同じ事してたよ?」
「え?」

 私は驚いた。なぜなら、私はさっき初めてパンクズを捨てに行ったから。



-前にもあった-
〜終わり〜

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