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アレックスの自家製レモネード



2015年6月。ルーマニアの地方都市シビウ。ドイツ人の入植者によって栄えた古都で、別名ヘルマンシュタットという。
国内外から年配夫婦の旅行客が訪れる、大人の静かな観光地といった趣の場所だ。

ルーマニアというと思い浮かべるのは、新体操などで活躍する東欧美女だろうか?(古い・・?)ドラキュラ伝説や、「魔女」のいる国としてイメージする人もいるかもしれない。

訪れたのはちょうど今くらい、エルダーフラワーという白い小さな花が咲き乱れ、ジューンブライドの花嫁たちの美しい季節だった。ロマ*のおばちゃんが街中にある木々から花を摘んだり、知人のお母さんがエルダーフラワーのシロップ漬けを作るところを見ることもできた。こういう文化の深化系が魔女につながっていくのか・・と想像を膨らませたものだ。
また、シビウはカパルチア山脈の恩恵を受け、質の良い水によって育つ美味しい果物と野菜、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの多様で豊富な乳製品、上質の蜂蜜など、素晴らしい食材で溢れていた。(ただし、内陸国なので新鮮な魚介だけはなかなか手に入らない。)
所得はあまり高くなく、こうした食材も市場で買うよりは物々交換や家庭菜園の収穫が大切な生活の糧になっているようだった。


市場のおばちゃんたち

ところで、私は世界三大演劇祭の一つ、その中では最もマイナーだが「シビウ国際演劇祭」のボランティアスタッフとして、二週間ほど、地元の青年アレックスのお宅にお世話になっていた。アレックスはホストファミリーの一人息子で、長身でブロンド、とてもとても心優しい20代前半の男子だ。
演劇祭の本番を迎え、朝早くから夜遅くまで仕事に追われた私は、ある日完全にダウンしてしまった。アレックスは、そんな私を見て、庭からたっぷりのスペアミントとレモンを採ってくると、蜂蜜をこれでもか、というほど贅沢に入れて、ガガっとミキサーを回し、レモネードを作ってくれた。蜂蜜はアレックスが数学の家庭教師をしている生徒のお宅から、教えるお礼にもらっている自家製蜂蜜。水は浄水器いらずの激ウマ水道水だ。(確か井戸水をそのまま引いていた気がする)


広い家庭菜園からハーブを収穫するアレックスと猫

涙が出るほどフレッシュで美味しくて・・アレックスの優しさと、ルーマニアの自然の恵みに、私は泣いた。

味の違う巨大な蜂蜜瓶と、レモネード

ちなみに、このあと私は蜂蜜の瓶を大量に抱えて、ギリシャへ旅立つのだが、その重さに苦しみ演劇祭の重厚な冊子や記念品を各地のユースホステルに「寄付」しながら帰ることになる。
蜂蜜の重さは私の欲の重さである。


乾燥ハーブもいいが、フレッシュハーブの素晴らしさに気づいたルーマニアの日常だった。みなさん、次に蜂蜜を買うときはぜひ、「ルーマニア産」をご検討くださいね。


*移動型民族で、ジプシーとも呼ばれたが、今は差別用語として使われなくなっている。

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