吉野次郎「2020狂騒の東京オリンピック」の読書感想文3

 96年アトランタ五輪のメインスタジアムは、五輪後に野球場に改築して、アトランタ・ブレーブスに貸したことは知っていましたが、新国立は「サッカーの代表戦やライブに使えばいい」とノープランだったことに驚き、呆れました。

 新国立は野球場に改築して、巨人に貸すというプランを「新国立はみんなのものだから、特定のチームには貸せない」という理想論で潰したとあったので、心底呆れました。日本はアメリカより25年遅れているのです。理想論の代償として、1,550億円という莫大な建設費を投じて、有効利用のあてのないまま相当な維持費を払い続けると思うと頭痛がします。

 残念ながら、日本にはアクセスが悪く、娯楽施設のないところに建てて経済効果があるのだろうかと思うスタジアムが多々あるのです。本書で挙げられている宮城スタジアムはアクセスが悪く、試合の度に苦情が来るのでベガルタはユアテックスタジアムという別のスタジアムを使っています。その結果、宮城スタジアムは収益が期待できない学生の大会に使っているそうです。もはや笑えないブラックジョークだね。九州にも「ここでスタジアムを建てて、経済効果があるのだろうか」と思わせるほど郊外に建っているのを見て、かわいそうに、県民は莫大な建設費と相当な維持費を払わないといけないのか。と同情しました。

 僕は現鹿児島市長の下鶴氏が県議員時代に実施した県政報告会に行ったことがあります。そこで下鶴氏は「娯楽施設を併設した専用スタジアムを作りたい」と熱く語っていました。「県外から来るアゥエー客の半数がSNSをやっているとしたら、鹿児島の食事や観光についてSNSにアップするじゃないですか。つまりタダで鹿児島の宣伝部隊を雇うことになるんです。SNSをやっていなくても、家族や友達に『鹿児島はいいところだったよ』と伝えるだけでも宣伝効果があるじゃないですか」と語っていましたし、「県外から来るアゥエー客を呼んで、経済効果を出すのはアゥエー・ツーリズムと言います。これをやりたいんです」とも語っていました。

 さらに「娯楽施設を併設することで、サッカーの試合開催日以外でもお客さんを呼べるようにしたい」とも語っていましたね。このようなスタジアムは日本ではまだないそうなので、下鶴市長が成し遂げたら、鹿児島から日本を変える令和維新ができると期待しています。

 海外では下鶴市長のようなことをすでにやっています。NFL、アリゾナ・カージナルスの本拠地ステートファーム・スタジアム(本書ではフェニックス大スタジアム)は経済効果を狙って建てたスタジアムで、2008年のスーパーボウルでは5億ドル(約600億円)の経済効果があり、大学アメフトの決勝戦や、レッスルマニアなどのビッグイベントを誘致した結果、10年間で380億ドル(4兆5600億円)という莫大な経済効果を挙げたそうです。

 そのお金で住民向けのスポーツ施設を造るので、まったく問題はありません。リターンを考えて箱モノを作るのは海外では先行事例があるのに、新国立以外にも残念な箱モノが死屍累々になっている日本は遅れていると、暗澹たる思いしかありませんし、それを変えてくれるのが下鶴市長と期待しています。令和維新を起こしたくないか?

 余談ですが、下鶴市長の県政報告会に参加したとき、下鶴市長が「試合日以外はスタジアムを遊ばせようとは思っていません。夏の花火大会で、スタジアムにお客さんを入れて花火を見せたらいいじゃないですか。東京では神宮球場にお客さんを入れて花火を見せていますし、あとなんとか宮…」と語ったとき、前列で見ていた僕が「秩父宮」とボソッと言ったら、「そうそう秩父宮!」と反応したときは驚きました。耳がいいという以外に、機転が利くというか、反応の良さに驚きましたね。そこも下鶴氏を買えるところだと思うんです。

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