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忘病記 第十章 正中切開

き、胸腺腫の手術はどうやってするんですか?」
「正中切開と言って、肋骨を縦に切って胸を開いて切除になりますね。」
七三分け黒テカリ先生は、まるでジャケットを脱ぐみたいな仕草で俺に説明した。
「肋骨を切るって、、」
簡単に言いやがって。
「大丈夫、大丈夫。最近、重症筋無力症も胸腺腫の手術も増えてるし、フツーですよ。」 
フツーだと?
動揺している患者を落ち着かせるための台詞にしては、あまりにぶっきらぼう過ぎる。

正中切開。
その手術痕はよく知っている。

実は、最初に行った眼科で重症筋無力症を疑われてから、ネットで調べて、重症筋無力症の原因の一つに胸腺腫があると知り、愕然としたのだ。
なぜなら、俺の父も2年ほど前に胸腺腫で手術をしていたからだ。

「こんな数万人に1人という病気になんで当たってしまったんや。」
父はボソッと呟いた一言を思い出した。
これで、もし俺も胸腺腫があるとすれば、その確率は何十万分の1かも知れない。
親子で遺伝する様な病気ではないのに。

キャリーオーバーで見事引き当てた様な確率やな。

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