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【NASDAQ】有人ドローン・イーハンの上値余地(上)

2021年の年明け、有人飛行ドローンのイーハン・ホールディングス(NASDAQ:EH)の株価が急上昇しました。執筆時点で77ドル台と、20年末に比べわずか20日余りで3.65倍にもなっています。これ以上の上値はあるのか、財務などの観点から見てみたいと思います。

パイロット不要

まず、イーハンのドローンとはどんなものなのか、動画を観るのが早いと思います。

https://youtu.be/d66MoI4GdFs

乗り物が好きな人は、この動画にグッとくると思います。僕自身も、この動画を観てイーハン株を1月13日に購入し、すでに2倍以上になりました。

イーハンのドローンの特徴を挙げると、

① パイロットが不要(自動制御)
② 価格が3500万円程度(推定)と高級自動車くらいでヘリや航空機と比べ手ごろ
③ 充電式
④ 今のところ飛行時間は20分ほどと短い

あたりです。①と②と③の特徴からすれば、空の移動を身近にする革新的な企業と言えるでしょう。ただ④からすれば、長距離移動は難しくヘリや飛行機の代替は不可能です。当然ながらイーハン経営陣はそれを認識していて、有人ドローンの用途として以下のような想定をしています。

・自動車の渋滞エリア
・高低差のあるエリア
・災害時の救出や高層ビル火災対応
・海や大型河川の交通
・遊覧飛行

イーハン3

イーハンは、着々と上記分野での実用化に布石を打っていて、一部はすでに実用化しています。有人ドローンで商用化に成功しているのは、今のところイーハンだけだと思われます。

高層ビル火災6974件

消防用のドローンは20年に2機、販売実績があります。イーハンのIR資料によると、高層ビル火災は中国国内だけで6974件(2019年)も起きているらしく、しかも年10.6%の割合で増えているのだそうです。中国には7000の都市消防署、9755の準都市消防署があり、これが潜在市場になるとのことです。

韓国ソウル市中心部の河川、漢江の両岸(約1キロ)を結ぶタクシーの飛行実験が、イーハン機を使って20年11月に始まっています。21年1月21日には、イーハンが欧州での有人ドローンの実証実験に参加することを発表しました。


イーハンの可能性を探るうえで重要なのは、規制との関係性だと思います。人を乗せて空を飛ぶという性質上、どうしても規制との戦いは避けられません。


この点、中国企業であることは有利に働くと思っています。人身事故に非常に敏感な欧米や日本に比べ、中国は相対的に規制緩和の動きが早いと言えます。日本経済新聞によると、中国航空局は20年10月に「空の無人運転試験区」を上海市や浙江省杭州市など全国13カ所に設置すると発表しました。今は無人ですが、有人飛行への布石と言うことでしょう。

イーハン4

中国企業の優位性

もちろん、イーハンのCEOは航空制御システムの専門家であり、各所でドローンの安全性を強調しています。しかし、この手の新しい乗り物の普及には、安全性の実態以上に世の中の空気のようなものが大切になってくると思います。1度でも人身事故を起こすと大きく報道され、また、それを経営者が恐れる雰囲気のある日本などに比べ、中国企業が圧倒的に有利な立場にいることは間違いないと思います。


規制緩和を追い風に有人飛行の実績を積み上げ、結果的に業界のリーダーとなる可能性は十分にあると思います。イーハンはすでに1万回の飛行実績があり、無事故です。

制御システムの優位性

この企業の持つ付加価値は、上空を飛ぶドローンの制御システムなのだと思います。以下の動画を観るとわかります。なんかすごいとしか言いようがありません。

イーハンの胡華智CEOは、ネットメディア「DRONE」のインタビューで以下のように語っています。

私は制御管理システムのエンジニアで、EHang184を新たな空域活用のプラットフォームにすることを目指しています。管理システムについては将来的には国際標準化も視野に入れ、世界的なインフラとして展開させたいと考えています。    https://www.drone.jp/special/2017072516233014940.html


ここからはイーハンの財務や、イーハンのリーチ可能な潜在市場(TAM)について考えてみたいと思います。

22年ベースのPSR20倍台

イーハンは2020年7月~9月に計23機の有人ドローンを販売しました。前年同期から5機増加です。売上高は11億円と、前年同期から倍増です(営業損益は赤字)。「直近四半期の売上高×4」をもとにしたPSRは62倍です(株価73ドル時点)。

イーハン2


しかし、イーハンは「生産がニーズに追いつかない」として2021年前半に初年度600機の量産工場を稼働する計画です。販売台数と売上高、過去の報道などから推定して、イーハンのドローンは1台3500万円くらいだと思われます。単純に考えると、工場が通年稼働する2022年には販売台数が600台となり、売上高は210億円です。これに先ほどの動画のような「Aerial Media」と呼ばれるドローンによる航空ショーの売上高5億円(2019年実績)が加わります。

このベースだと、PSRは20倍台になる計算です。中国EV、ニーオのPSRが現在30倍台、水素電池のプラグ・パワーのPSRが60倍台であることを考えると、そこまで割高なPSRだとは言えないのかもしれません。

粗利率59%


また、イーハンの粗利率は59%と製造業にしては非常に高く、600台売ると、現在の販管費(年28億円)をこなし、100億円程度の営業黒字に転換します。もちろん、工場の減価償却費がかさむため、黒字幅はもっと少なくなりますが、恐らく工場稼働による年間コストの増加はせいぜい数億円~十数億円のレベルだと思われます。黒字転換ははるか先だという感じでもありません。

「有人ドローン・イーハンの上値余地・上」はここまでにして、下でTAMなどについても考えてみたいと思います。

※写真はすべてイーハンのIR資料より

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