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うさぽん昔話8「子供の精神病院ってあるんだよ」

うさぽんぽん!


すでに家族と別れてから4年が過ぎました。

私は待った。捨てられたイヌのように、忠実にひたすら待った。

2年前に兄と姉が施設に面会にきたあの日から、次はいつくるのかな?と期待して待っていた。


絶対に迎えにくる!と言った兄の言葉を信じた。

それだけが私の心の支えであり、唯一の自慢出来るエピソードであり、魔法の言葉でもあった。


弟や妹とも逢えると思っていたし、なんなら家に帰り元の生活に戻れる日が来ると考えて色々な計画を立てながら、その日を待っていたんだよ。

おめでたい忠犬うさぽん状態だ。


さて、普通の生活ってなんでしょうね。

そんなことを考える余裕もなく二年が過ぎ去った。


小学校3年生の私は、新たな生活を始めていた。

「当分の間、学校はおやすみだよ?」

下を向く。
私はコイツとは絶対に話さない。

「うさぽんは学校は好きかな?」

「勉強はここの先生が教えてくれるよ」

徹底的に何をいわれても無視をした。
どうせコイツも私の事を嘘つきと言うんだ。

タケちゃんとみぃちゃんのことを
思い出していた。

夜中に、大号泣しながら起きる日が続いた。毎回同じ夢。

夢の中では、タケちゃんが穴の中に吸い込まれそうになっていて、みぃちゃんと2人でタケちゃんの手を掴み引き上げようとするが、必ずブラックホールのような穴に吸い込まれてしまう。

それとセットで、虫がビッシリ張り付く階段を強制的に降ろされる夢も見ていた。虫を踏み潰す感覚が起きた後も残っていてとても嫌な気持ちになる。

このセットを毎晩見るのだ。

タケちゃんは星になった後どこにいるんだろうか?

私はとても大きな罪悪感を抱えながら、2人の姉弟を思い出していた。
時に泣き、時に謝り続けた。

タケちゃんが空に住んでいると言う事は理解していた。実際に天国というものがあってそこで楽しく遊んでいるらしいと聞いた。

天国という所は、神に守られた世界だからみんな幸せなんだよ。そんなことを牧師が言った。

私はこの牧師が大嫌いだった。
とにかく身体を触り、アメリカの挨拶だと言いながら抱きついて来る。

女子に「生理が来たら報告しなさい」と言ったり、5年生になったら「大人パンツをはきなさい」「毛は生えたか?」そんなことばかり聞いてくるので、子供達には「エロ牧師」と呼ばれ嫌われていた。



施設病院(当時そう呼んでいた)の同じ部屋に「キララちゃん(仮名)」という女の子がいた。

キララちゃんの名前には、星に纏わる漢字が入っていたので、星の国のお姫様なのかもしれない。勝手にそう思っていた。


「ねぇ、うさぽん!友達になってよ」


突然、キララちゃんがそう言った。

「私、昨日ここ来たばかりなの!」


「うさぽん、しゃべれないの?」


子供は素直で率直だ。


「しゃべれるよ」

「でも、アイツらとはしゃべらないよ」


「誰とも喋らない!」そう決心したはずだったが、子供の決断解除もとても早いものなのだ 笑

私はキララちゃんとしゃべりだした。


その後、お互いに沢山の話をした。


タケちゃんのことも話した。
キララちゃんの秘密も教えて貰った。


私達はチームを組み、戦う戦士になると誓った。テレビの影響もあるが、私達には「敵」の存在が必要だった。

なにもかも、敵(大人)のせいにして抑圧していた感情を敵にぶつけていたのだ。

1ヶ月が経った頃、朝に起きることができなくなる。

眠くて眠くて、だるい。

キララちゃんもそう言っていた。


施設病院の階段でキララちゃんとよく遊んだ。

少し前なら、3段抜かしで階段を飛び降りたり手すりの所を滑ったり危なっかしい遊びを楽しんでいたのに、階段から飛び降りるのが怖くなった。

足に力が入らないのだ。

私達は、すぐに疲れてベッドに戻る。


もう1人の女の子はりさちゃん。

大人しい女の子だったが、起きている日が少なく、起きていても人形のようにただ座っているだけだった。

話しかけても、あまり反応がなく
動かない。人形みたいだな…


りさちゃんは顔も青白いし「病気」なんだな!とおもうことにした。

何となく話しかけてはいけない空気を察知した私達は、りさちゃんとの交流を避けた。


ある日、りさちゃんのお母さんが来ているらしい!と誰かが言った。


車椅子に乗せられりさちゃんは、面談室に連れていかれた。


「なーーんだ!りさちゃんはお母さんが会いにきてくれるんだ!」

私達は心底ガッカリしていた。
親が会いにくる子供への嫉妬が止まらない。


嫉妬は、ドロドロしたものが心の中で固まっていくような感覚になる。


数分後、りさちゃんが出て来た。
相変わらず無表情。

その後ろで、お母さんが泣き叫んでいた。


私とキララちゃんは中庭に向かった。

「ねぇ、なんでりさちゃんのお母さん泣いてたの?」

2人でそう言い合う。

「別れるのが悲しいのかもね!」

色々予想してみたが、結局この結論になった。


「疲れたねぇ…」

「疲れたぁ!」

通勤電車の中のサラリーマンのような会話をする小学三年生の会話。


なぜ、こんなにすぐに疲れるのか
本当に分からなかった。

数ヶ月前は、一日中動き回っていたのに。とにかくニホントカゲを捕まえたくて施設の中にある森で探し回っていた。

ニホントカゲの幼体

ニホントカゲの幼体のしっぽは鮮やかなコバルトブルーで、私は魅了されていた。絶対に捕まえたい。そして飼いたい。なんなら友達になりたい。

そう思って探し続けたが、見たのは2度だけ。動きが早すぎていつも逃げられてしまう。


あんなに夢中で走り回っていたのに、そんな気力もない。
1階の中庭まで行くとヘロヘロになる。


私も病気になったのかも?
少し不安になった…


そして私は、相変わらずキララちゃん以外とは喋らなかった。


ある日、夜ごはんを食べている時に
たまたま他の子が私に軽くぶつかった。

もちろんわざとではない。
ごめん!そう聞こえた。

ぶつかった反動で私の箸が落ちた。


その瞬間、頭に血が登り立ち上がってその子を突き飛ばした。

椅子を蹴飛ばし、食べていた食事をその子に投げつけた。


私は、完全にパニックになっていた。
自分で何にそんなに怒っているのかも分からず、ただひたすら怒った。


職員に抱えられて、診察室に入れられた。

ここの診察室はとにかく広い。
医師の机と患者の椅子との間がものすごく離れている。

後で知ったが、主に医師の安全、お互いの安全を守るためのスペースだ。

診察台に拘束され、注射を打たれた。


次の日の夜までずっと寝ていた。


心理士に呼ばれ、昨日の怒りの話を聞かれる。

「どうして、そんなに腹を立てたの?」

カードに様々な感情の言葉が書いてあり、質問されたら当てはまるカードを何枚でも並べていいルールだ。

私は、とにかく怒りの感情のカードを選んだ。

どうしてそんなに頭に来ちゃったの?

そう聞かれても分からない。

本当に分からない。

箸が落ちた音に腹を立てたような感じだった。

分からない。
いくら考えても分からない。

分からないものは、分からない。

その、意味不明な怒りは頻繁に起こるようになる。

私だけじゃない。

キララちゃんも、他の子もそうだった。


とにかく、疲れて寝ているか起きて動いてしばらくするとイライラしてくる。

とにかくイライラし出すと、爪を噛んだり腕を引っ掻いたり、頭を叩いたり、痛みを感じるような行為がしたくなる。
所謂、自傷行為だ。

ある子は、自分の髪の毛を抜いた。

ある子は大声で叫び出す。

死にたいという子。

そして、人形のように動かない子供達。


ここに住んでいた殆どの子供は、
向精神薬を服用していた。


私はだんだんと、薬が無いと心がザワつくようになっていった…


元気だった子供達は、どんどん人形のようになっていく。


ピノキオの物語と重ねていて、私達は「悪い子」だから、みんな人形にされてしまうのかもしれない…

一旦人形にされたら、また人間に戻れるのかな?

不安が膨らんでいく。

昔、夏休みに見た怪談話に出てくるような霊に憑かれてしまうのかもしれない。

その時は本気でそう思った。


私と、キララちゃんは人形にされたらどうする?どちらか先に人形になったら、絶対に助けあおう!と約束した。

それからすぐに、私達は人形になった。

キララちゃんと話すことも無くなり、中庭で走ることも出来なくなり、感情を失い、ただそこにいるだけの人形。

うさぽんを知りませんか?

私は自分の存在すらも忘れてしまったような、自分が誰なのかも考えたくないような、私という実感を得られぬまま、人形生活は1年半続きました…


あの時、りさちゃんのお母さんは泣きながらこう言いました。

「どうして?」

「どうして、うちのりさがあんな姿になってるんですか!!!!!!!」

「りさ!りさ!」

りさちゃんのお母さんは泣き叫んでいました…



この病院では、子供への向精神薬や抗うつ薬等々、様々な精神薬を投与していました。薬の過剰投与や誤診は日本の精神医療の深刻な問題であり、この話の続きは別途まとめようと思います。


次回、うさぽん昔話9「新たな施設へお引越し」へ続く。

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