税務署が見ている5つのポイント フリーランス編

こんにちは。
私は15年間税務署・国税局・国税庁で所得税に関する仕事をした後、スタートアップに転職しました。転職するとそれまで交流することのなかったような方々とお会いする機会も増えました。その中にはフリーランス・副業として個人事業を営んでいる方もおり、多くの方から「税務署が調査に来る基準を教えて!」と聞かれるので、今日は税務署が見ているポイントをご紹介します。

はじめに

元も子もないですが、税務調査が来る明確な基準はありません。
その理由はいろいろありますが、一番大きいのは、"税務調査官は民間企業の営業職と同じ"だからです。
営業職の皆さんは、会社や部署が決めた"基準や対象"に対してのみ営業をしますか?ご自身で考えて会社や部署のミッション達成のために営業先を決めて、重要度が高いアクションをとられているのではないでしょうか?

税務調査官も同じで、多くの保有情報や自分の勘などから対象を決めています。
ですので、今回は"私が"税務調査に行く前に見るポイントをご紹介します。

5つのポイント

1/収支内訳書に記載された収入金額

基本中の基本です。
税務署には、法定調書・タレ込み・独自の情報収集などで皆さんが思っているより遥かに多くの情報が集まります。それらの情報と自身の感覚を頼りに次のような観点で違和感がないか確認します。

  • 記載された収入金額が収集した情報の合計金額より少なくないか?

  • 地域(経済圏)、業種、年齢などを勘案したときに適切か?

皆さんが気になるのは、「この収入って税務署にバレてるのかな?」だと思います。

あなたにとっての収入金額は、誰かにとっての必要経費です。つまり、相手が必要経費に計上しているのに、自身の収入金額に計上しない、ということは成立しないのです。
皆さんは、取引先に「収入金額に計上したくないから、必要経費に計上しないでくれない?」ってお願いされたらどうしますか?

2/収支内訳書に記載された金額の見た目

収支内訳書は、1年間の取引金額の合計です。
家賃など一部のものを除くと、多くの取引では「10,000円」のようにキリがいい金額となることは極めて少ないです。

収支内訳書の消耗品の金額が「400,000円」となっていたら、旅費交通費の金額が「150,000円」となっていたらどうでしょう?
私は、「この収支内訳書に記載されている金額は適当な可能性が高いな」と感じます。

余談ですが、最近はfreeeなどを使われる方が多いので、年明けの領収書集め・集計作業がなくなりとても素晴らしいと感じています。

3/収支内訳書に記載された金額の構成比や利益率

パッと見は問題ないのですが、粗利率、利益率、売上に対する構成比など比率で見て違和感がないか確認します。これには2つの見方があります。

3-1/年度比較
嘘のような話ですが、毎年粗利率が同じケースや、各経費の構成比が同じケースがあります。
みなさん、1年間、毎日同じ物を食べ、毎日同じ方法で移動し…毎日同じ日々を過ごしていますか?

事業活動において各項目の比率が毎年同じ値・同じ構成になることは基本的にはありえません。

3-2/類似事業者比較
分析手段は多々ありますが、「税務調査官の常識」として、業種ごとの目安を持っています。
極端な例ですが、フリーランスのWebエンジニアの利益率が10%となっていたったらどうでしょうか?ラーメン屋さんの粗利率が90%だったらどうでしょう?

毎年2,000万人以上が確定申告をしており、確定申告制度は数十年前から行われているので、サンプル数はとてつもなく多く、そこから導かれる"目安"は一定の信頼度があります。

私は、"目安"より高すぎても低すぎても、何か原因があると感じます。

4/探聞情報

聞きなれない言葉ですが、簡単に言うと、税務調査官自身が見聞きして集めた情報です。
私は、日常生活の中でとにかく観察をして情報を集めていました。一例ですが、探聞情報はこのような情報を指します。

  • あのお店はボトルキープの本数増えてるな

  • この駐車場の車が高級車に変わってるな

  • このお店はお昼時は●人くらいお客さんが入っていて、回転率は●くらいだな

  • この人の話は多くの事業者の方がするな

個人事業主の方は、所得金額(利益)から、生活費、保険、娯楽など生活に必要なお金を支出します。

情報収集源はそれだけではありません。SNSで自分の情報を発信していませんか?
もし、所得金額が200万円の方が、インスタグラムに「フェラーリを買いました!」って載せていたらどう思いますか?

5/担当者のマイルール

私は、何年間も利益率が5%以下の場合は違和感を感じます(個人事業主の場合に限ります)。分かりにくいと思うので具体例を書いてみます。

例えば、利益率3%というのは、年間の収入金額が1億円、利益が300万円です。
イメージしやすく簡単に計算すると、1日の売上が33万円、利益が1万円ということです。

税務調査官は、こういった自分なりのルールを持っています。
勘というのは、もし自分の事業がこの決算だったときに、この仕事を続けるか?という観点など、定量で表現できないものですね。

※仕事をする理由は利益だけではないので、利益率が5%以下の事業に対する評価をする意図はありません。

税務調査に行くかどうかの意思決定

これまで5のポイントを書きましたが、どれか1つで満たしたら、すべてを満たしたら、といった基準はありません。

1~5の他、世間的に注目が高いもの、不正をしている可能性が高いと思われる情報などを総合勘案の上、担当者と上司が対象を決めます。

最後に

この記事は、脱税推奨の意図はありませんし、これさえ守れば大丈夫というものでもありません。
税務調査の手法は定型的なものではなく、適正・公平な税務行政の推進のために社会変化に応じてその手法を進化させています。
これからもこの国のために使命を果たしていただけると信じています。

おまけ

今はe-Taxが主流なのであまり使えませんが、以前は筆跡も1つのポイントでした。確定申告書の作成作業は大きく以下の流れです。

  1. 請求書や領収書を科目ごとに分類する

  2. 分類した書類を集計してメモをする

  3. メモした内容を整理して確定申告書に記載する

つまり、税務署に提出された確定申告書は、ながーい作業の総仕上げです。

もし皆さんが、確定申告書に適当なそれっぽい数字を書くときはどういう動作をしますか?メモを見ながら転記するときはどういう動作をしますか?
その行動の違いは筆跡に現れるのです。


もうすぐ確定申告の時期ですね。
国税庁の頃、スマホで確定申告ができるのが当たり前の時代だ、ということで、今のスマホサイトの立ち上げのための説得に奔走しました。最初はあまり賛同されず愕然とした記憶があります。その後、異動もあり、結果としては同僚が形にしてくれました。
今は民間サービスもたくさんありますので、皆様の確定申告が簡単に終わることを願っています。

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