新・サンショウウオ戦争

第一章 発端 たまちゃんアンちゃん

22 両生類保護条例


 明の星中学・高等学校の生物部顧問、萩井聖人教諭は三十代に入ったばかりの独身でこの土地に係累もなかったことから、学校側から寮監を任されていた。よって寮内の空き部屋および裏庭をかなり自由勝手に改良し、両生類の生態研究を行なっていた。カエルとイモリが主な研究対象で、ときどき部員はズシ川に捕獲に出かけた。だが、それも条例の施行によって違法行為となり、生物部は観察活動を停止せざるをえなくなった。

タジマサ町両生類保護条例
第1章総則
(目的)
第1条 この条例は、両生類の管理に関する所要の措置を講ずることにより、絶滅が危惧されている全両生類の生存の保持、ひるがえって両生類による人の生命、身体および財産に対する侵害の防止ならびに公衆衛生の向上を図り、もって安全な社会づくりに寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ該当各号に定めるところによる。
(1) 両生類 タジマサ町域に生息するカエル、イモリ、サンショウウオ類をいう。
(2) ペット 所有者のある上記両生類をいう。
(3) 実験生体 教育、試験研究または生物学的製剤の用その他科学上の利用(以下「実験」という。)に供する目的で飼育し、または保管する動物で規則に定めるものをいう。
(4) 施設 両生類を飼育し、または保管するための工作物をいう。
(町の責務)
第3条 町は両生類の管理に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、ならびにこれを実施するものとする。
(町民の責務)
第4条 町民は、自ら進んで両生類愛護思想の涵養と適正な愛護につとめるとともに、町の両生類管理に関する施策の協力しなければならない。
(私的所有の禁止および所有者の遵守事項)
第5条 ペット化もしくは観察研究等を目的とする両生類の捕獲、および所有はこれを禁止し、罰則を課す。また、当条例施行前より所有されていた両生類に関しては次に掲げる事項を遵守しなければならない。
(1) 届け出の義務
 当条例施行前より所有されていた両生類に関しては、速やかに町に届け出を
 行うこと。
(2) 町施設への移管
届け出後は町からの連絡を待って、もしくは町の指示に従って、両生類を町施設へ移管すること。
(両生類の収容)
第6条 町長は、所有者等が第5条第1項および第2項の規定に違反していると認めるときは、その職員にこれを強制的に収容させることができる。
2 前項の職員は収容しようとして追跡中の両生類がその所有者等また
はその他の者の土地、建物または船車内に入った場合において、これを収容するためやむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において、その場所に立ち入ることができる。
(不良動物の掃討)
 第7条  町長は両生類が人の生命等に害を加え、または加えるおそれがあり、かつ、通常の方法ではこれを収容することが著しく困難であると認めるときは、区域および期間を定め、これを掃討することができる。(後略)

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