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【最終回】推し地下アイドルの卒業後、彼女のいた「エルフロート」が解散した話

すべてが終わったから、特に名称を伏せずに書いてしまおう。

私の最愛の推しアイドル「マアヤ」の卒業から約1年2か月。エルフロートが6年半の活動を終え、解散した

ほぼ同時に、同事務所所属のアイドルグループはすべて解散・卒業し、事務所が持っていた自社ライブハウスも閉鎖、全員のSNSアカウントも削除されたため、もはや彼女らの痕跡はファンの中にしかないまである。

最後に、解散ライブに参加した感想を含めて、今までの「推し地下アイドルの卒業後」シリーズとして書き連ねてきたnoteに締めくくりを付そうと思う。

前回までのものはこちら。

地続きになっているので読んでいただいたほうがわかりやすいが、簡潔に言えば「もともと女性地下アイドルの女ヲタクで、ほぼガチ恋のような感じで足繫く現場に行って騒いでいたけれど結局推しは卒業してしまい、でも推しとした「私が卒業してもグループのことを見守っていてねという約束を守るためにワンマンや生誕祭など節目の大きいライブはなるべく見に行っていたが、結局そのグループは解散しちゃった」という話。

***

来たる10月30日。夜はもうだいぶ寒い。東京・神田明神ホールで、私の愛した地下アイドルシーンのすべてが終わろうとしていた。ライブスタートが19時半なので何か先に食べておこうかとも思ったのだが、緊張のあまり何も入らなかった。私が緊張してどうするんだ。出るわけでもないし現役のヲタクでもなんでもない、ただの未成仏霊・元ヲタクなのに。と自責しつつも、これで推しメンとの約束も、推しメンがいた場所も、推しメンが歌った曲もすべてが終わってしまうのだから緊張くらいしても仕方ない、だろう。

会場にはソーシャルディスタンスが守られたかたちで整然とパイプ椅子が並べられていた。適当に前すぎず後ろすぎないあたり―…そして、もし推しメンがいたら目の前になることが多い、上手側の中盤あたりに一応座る。

声出し禁止、移動禁止のアイドルライブ。ほんの半年前まで、耳が痛くなるほど、真冬でも汗が止まらなくなるほど、騒がしくて熱かったはずの空間。そこに悲しくも鎮座してしまった静寂と喪失感を埋めるように、声が出せなくてもきみを大事に思っているということをステージ上に伝えるために、コロナ禍のいま、地下アイドルを追っている人たちは大きく振りコピをして、煌々と輝く推し色のペンライトを振り回しているんだろう。

私も同じように…というか、これが終わったらもう本当に「アイドルのライブ」に行かないかも…という気持ちで、声と立ち位置以外は推しメンがいた当時と変わらないような振りコピで、解散公演を楽しんだ。

なるべく泣かないぞ!!!と気合を入れて臨んでいたが、一番大好きな曲が始まったとき、私がこの曲とこの曲を歌う推しメンを超絶愛していると知ってくれている現リーダーがレスをたくさんくれて、

もし君に出会わなきゃ こんな痛み 知らなかったの?
切ないよ 君想えば いっそ忘れる呪文をかけてほしい
君に会いたいよ ひと目会いたいよ 胸が張り裂けるほどに君が好き

という歌詞のあたりでビックリするほど号泣してしまった。当時から一番大好きな曲だったのに、卒業してからその一語一語が重苦しい実感を持って背負わされて、会社に向かう電車の中で、家で見たライブDVDで、何度も泣いた。そしてもう「泣き慣れる」レベルで聴いて泣いてきたくせに、実際に現場で向けられるこの曲のエネルギーはそのどれとも違い、頭を殴られたような気分になった。今も、会いたくて仕方がない。会えなくても、元気でやっているのか、悩んでないか、寂しくないか、知りたい。一年経とうが別れの傷は癒えないし、びっくりするほど同じ高度で彼女のことを好きなままだった。

……「緊張している」と先述したが、それは何も「解散」という事象だけに対してのものではなかった。以前のnoteで「ワンマンライブにいったら推しがほんの数分、ステージに立って、踊って、歌っていた」時の話を書いたが。

私は正直なところ、それを期待してしまっていた。完全なる、下心だ。

終わりを見届けなければいけないという気持ちと同じくらい、「ワンチャン推しメンにまた会えるかも」という気持ちがあって、私はチケットを取った。

いま現役のメンバーは2人しかおらず、2人だけで1時間以上ステージをやりきるのは当然大変なことで、だからこそ推しメンを含む「元メンバー」が来るかも……と。

そんな不純な気持ちで行くのはいま一生懸命グループを推している人やメンバーに申し訳ないよなあ…と逡巡こそしたが、すでに推しが卒業した人に対しても「見に来てほしい」と言ってくれている現メンバーたちは、勝手な遠慮をするくらいなら来てほしいだろう、と都合よく考え直した。やさしい人だから、現リーダーは。まあこれも勝手な都合の良い解釈だな。

しかし。鳴り止まない拍手の中、メンバーにすら予定外のトリプルアンコールまで発生したステージ。推しメンは、そこには来なかった。

1時間半にわたるライブで、長めのMCもほとんどなく、現メンバーは2人きりですべてのステージを、エルフロートを終わらせたのだった。

そして、同事務所他グループのメンバーはライブを1階席の後ろで見ていたようだったが、そこにすら彼女の姿は見えなかった。

ステージに立つ姿どころか、ただ椅子に座る推しメンの姿を見ることさえ、結局かなわなかった。

正直なところ、元メンバーの登壇があれば、解散自体より元メンバーに注目してしまう人がいるのはわかり切っている(というか私自身もそうなると思う)ことなので、あれで良かったのだと、終わって思う。

6年半の歴史がある、地下アイドルの中では古参に近いグループの最後を、古参ではない現メンバーだけが背負う、その重圧と責任感がステージにあったから。

自分の浅い下心を反省させられるような、立派な解散公演だった。だけれど、自分の「推しに会いたいから来た」という気持ちも、100%否定しはしない。実際にそれで会えた経験も思い出として大きく心の中にあるし、「推しに会いたい」はすべてのヲタクの原動力であるのだから。

だってどうしたって会いたいんだ、こうやって所属グループも事務所もなくなって、もう本当に会える機会なんておそらく存在しないのに、私といえば彼女に会う夢ばかり見てしまう。

夢の中の私と推しメンは笑いあって新しい話題を広げられるけど、事実は推しを失った虚無の存在がこうやって女々しくブログを更新しているだけだ。

まあやちゃん、最後に会ってから髪を伸ばしてみたよ、卒業公演の日からもう10cmは伸びてる。髪色もピンク系のブラウンで、当時よりだいぶ明るいんだよ。似合ってるかな?どう?

次に会ったときに「痩せたね!?」って驚かれたくて、ちょっとダイエット頑張ってみたんだよ。10kg以上減らしたって言ったらどんな顔するかな。一緒に喜んで、まだまだ頑張りたいという私に頑張って!って言ってくれるかな。あんなにライブ後はラーメンばっかり食べてたのに、もう何か月もラーメンとお酒、楽しんでないんだよ。ビックリじゃない?

「私が卒業してもグループのことを見守ってほしい」って約束、私はちゃんと守れていたのかな。大きな機会は見に行けたし、現メンバーのことを気にかけていたつもりだったけど、でも実際はその後ろにぼんやり浮かんでいるきみの姿を追っていただけなのかもしれない。私の言動が、最後のメンバーに対して重荷になっていたんじゃなかろうかとか、そんなことばかり考えてしまうよ。

***

エルフロートは、私が初めて推したアイドルグループで、おそらく最後に推したアイドルグループにもなった。

そして推しメンも、最初で最後の推しメンだ。そこに何の偽りもない。

よくよく考えると、私は別にドルヲタじゃなくて、たまたま好きになった人がアイドルだっただけ、の生き物だなあと思う。

あれだけあの子を推してたヲタクが、あの子が卒業してすぐ別の子に推し変…!?なんてことはしょっちゅう、もう数えきれないほど見てきたが(※それを否定するわけではなくて、むしろ羨ましいし楽しそうでいいね…素敵だね…と思います)そうはなれなかった。

知り合いに「新しく推しを作るならやっぱり現場行かないとダメなんですよね」と言われ、たしかにその通り、もうこれ以上ない正論だと思ったが、少なくとも声出しNG・抽選制・移動禁止のコロナ禍で、ふらっとどこかの現場に行くことはもう難しいだろう。私が地下アイドルの現場の中で価値を見出していたのは、結局「推しメンがいること」「ストレス発散にもなる、自由に暴れてはしゃげて叫べる場所」だったのだ。

そして推しメンが卒業してから1年以上、推しメンのことを考えない日はなく、きっとずっとこのまま好きなのだろうと思う。正直こういう日々は、苦しみばかりがたくさんある。

そもそも卒業してなおこんなに好きでいられたら推しメンからしてもキモくない?ってことばかり思い悩むし、思い悩んでも本人に聞けやしない。別れた元恋人が1年後もまだお前が好きで…なんて言ってきたらたぶん誰だってゾッとする。推しメンにそう思われても、仕方ない。

会えていた当時「力になれなくて(たくさん会いに行けなくて)ごめん」と謝ったとき、背中を小突かれて「病むな~~!!少しでも会えてうれしいし本当に助かってるって言ってるだろ~~!!好きだよ」と怒りながら頬を膨らませ、チェキのコメントに「ずっとスキだよ」とだけ書いてくれた彼女に、いまどう言われるか……もう想像すらできなくなってきた。ぴえんすぎる。

だけど、推しメンに出会えなかった人生なんかに比べたら、推しメンに出会って最高の幸せをもらった人生は超超超最高で、私にとってはこの苦しみもちょっとした切り傷みたいなものなんだ。もう会えないからこそ、こんなnoteの内容を正直に言えるっていう側面もあるし。

とかく、推しメンが好きだ。ずっと。もう忘れようとか新しい推し作ろうとか足掻くのも無駄だなって悟りました。だってグループすら、事務所すら終わったのにこのありさまですよ。もう好きでいちゃえって諦めたほうが早い。ごめんね、推しメン。

***

私は、エルフロートに出会えて良かった。

エルフロートが、大好きでした。そんな気持ちばかりが溢れてくる、とてもいいライブでした。

今までエルフロートのバトンをつないでくれてきたメンバー、ファンのみなさん、お疲れさまでした。

推しメン、エルフロートになってくれて、1500日以上エルフロートでいてくれて、最強のエルフロートを支えてくれて、ありがとう。

また逢う日まで。

裏声 拝

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