空と砂の交わらない境目で

このたびの台風によって多大な被害が出ているようで、胸が痛いです。

台風はある程度予想のできることとは言え、それでも想定外のことが起きてしまうのが大規模災害なのだろうと思います。しかも、雨が止んでも、風が止んでも、それで終わりじゃない。どうかこれからの生活が少しでも不便のないものであるように、被害が最小限であるように、願っています。


どうしても、昨年のことを思い出して、胸がぎゅっとなる。

崩落した道路、潰れて転がる車、滝のように流れる水、川に飲まれた鉄橋、乾いて舞う土埃。これが私の知っている、あの街やこの街なのか、と愕然とした。
行方不明になったままいまだに見つからない方、家を失った方、散々報道されていたように、取り返しのつかない苦しみを受けた方もたくさんいた。
一方で、ライフラインにまったく影響はなかったけれど、物流や交通網に多大な影響があり、通勤や生活において困難を味わった人が、私含め非常にたくさんいたのです。

しかし、同じ地域でも、被害がほとんど無かった場所とそうでなかった場所には温度差があった。雨が止んだからそれで終わりでしょ、とでも言いたげな方もたくさんいた。
遠方の人や、親しくもない人は仕方ない。状況を想像することが難しいだろうから。
けど、身近なはずの人々との温度差の方が、私にはよっぽどきつかった。


あの時、私を助けてくれる人はいなかった。誰も。誰ひとりも。
自分なりに、周囲の人が好きで、一生懸命だったつもりだったけど、それは自分だけだったんだ、と思い知った。
思い出のすべてが、土砂の中に埋もれていった。

私は、親しいと思ってた誰にとっても、生きていなくてもいい命だった。

それに気付いた時に、心が折れた。


私は辛いニュースがあると苦しくて見ていられないような弱い人間で、ちゃんと受け止められなくていつも申し訳ないと本当に思っている。その私にとって、あの雨の一夜と、それがもたらした爪痕は、受け止めきれないほどの痛みだった。

それを、おそらくは、わかっていながら。
わかっていながら突き放したあなたや、あなたが、私に止めを刺したのだ。
最終的に心を折ったのは、あなただ。

普段なら、それでも耐えられたかもしれない。耐えたかった、私だって。
誰かのせいにしているようなこんな書き方は、したくない。
でもあの時は、非常事態だった。
それを、誰もわかっていなかった。そう、それが温度差。温度差の、ひとつ。

あなたたちの誰も、私は嫌いじゃない。
助けてくれたことも、楽しかったことも、ちゃんと覚えてる。忘れてなんかいないし、感謝もしている。いつか返したいと思っている。
だから、辛い。忘れていないから、辛い。

辛かった。


折れた心が元に戻るのに、一年かかった。

さぞ、私が何もできないクズに見えたと思う。その通りだと思う。
でも、そこまで追い詰めたのは、あなただ。
いちばん苦しかったのは、あなたじゃない。私だ。
暖かい窓辺から石を投げつけるだけの人間と、裸足でその石を受け止めて、流れる血を拭く包帯も持たない人間と、どちらが苦しいかなんて、本来書くまでもないこと。

あの一年を、「普通に」過ごせていたら。
もうとっくに、状況は変わっていたかもしれない。たぶん、そうだ。

長年の付き合いでもなく、血を分けた相手でもない、私を助けたって何のメリットもないはずの人たちのおかげで、私は生きていられた。
馬鹿みたいに思えるかもしれないけど、希望を抱かせてくれる根拠のないはずの言葉が、私を支えてくれた。
根拠のない言葉のうちの、「どんなにピンチでも必ず誰かが助けてくれるから、深く考えなくて大丈夫」という言葉を、噛み締めながら生きている。

やっと、折れた心が元に戻ってきたのを、感じている。

大雨で橋が落ちた鉄道は、今月やっと完全に復旧するという。

壊れるのは一瞬だけど、直すのは時間がかかる。
壊れる時の何倍も何倍も、時間がかかる。

道路や、橋や、家を直すだけでも大変なのだから。たくさんの人の尽力が必要なのだから。
心まで、壊さないで。
心を壊すのは、雨でも風でもない、人間なんだよ。
雨や風はあまりに強烈で防げなかったとしても、心の崩壊は本当は、防げることなんだよ。


私のような思いをする人が、居なくなって欲しい。
こんな時に、さらに孤独にも苦しまなければならない人が、居なくなって欲しい。


あの人は、もしかしたら被害に遭っているかもしれない。
でも、私は昨年のことも、最近のことも、忘れてはいない。
あの人の言葉を、忘れてはいない。
いちばん苦しかった時に、他人事を貫かれた相手を心配するのは、もうやめた。
だから、連絡もしない。何も言わない。


悲しみや苦しみばかりが記憶される場所や間柄でも、長年過ごせば情も深くなる。
けどそれは、私を決して幸せにはしないのだと、やっとわかった気がする。

そこから飛び出て、自分なりに必死でもがいて見つけた場所やものに、私は私がずっと預けられなかった心の行き先を、見つけられる気がする。
世界は広くて、こんなに優しい人がいて、不思議な人がいて、あたたかいものがあって…。折れた心に少しずつ接着剤をくれたのは、ほんのわずかに残ってくれた人と、今までは存在も知らなかった人たちだった。トゲだらけの心を丸く丸くならしてくれたのは、ずっと知っていた誰かじゃなかった。

知ってるよ、みんないい人だ。何度も言うけど、嫌ってるわけじゃない。
また笑顔で過ごせるなら、どんなにどんなに幸せだろうって、いつだって思ってる。
けど、そう思っているのは、きっと私だけだ。
そう思っている限り、私は私の幸せにはおそらくたどり着けない。
私のことを、みんなは信じてなどいない。上手に吐かれていた嘘を、あの土砂災害が、全部暴いてしまった。

これまでに積み重ねたことを、積み重ねた宝石を、すべて海に流してしまうほどのことだったんだよ、あの土砂災害の時の、あなたや、あなたの言葉は。態度は。


だからあの街には、二度と戻らない。
あの枠組の中には、決して戻らない。
誰に迷惑がかかっても、私は私の人生を取り戻すために生きていく。
そうすることでしか、私は誰かのためには生きられない。そんな風にしか、生きられない。
私のことを理解できないなら、もう、それでいい。
ずっと理解してもらえないことを知っていたから、私は苦しみ続けたのだから。

私もまだ復興の途中で、全然先なんか見えない。迷惑ばかりかけていて、本当に酷い人間だと思ってる。自覚してる。
それでも、すべて失った先に、希望があるのなら。
やっと砂の底から這い上がった。這い上がってきた。
あと少し、だと思う。思い込みかもしれないけど。

流されるように、未来まで生きていこう。
過去の痛みは消えないけど、その痛みを覚えているから、未来を歩く時には、同じ痛みを誰かに渡すことのないように。
苦しみからしか得られないことがあるなら、私にできることは「繰り返さないこと」、それだけだ。

あなたの理想通りに、生きられなくてごめんね。
あなたが理解できるように、生きられなくてごめんね。
これが私なの、ごめんなさい。
一生懸命、真面目に生きようとしたけど、強くなろうとしたけど、だめだった。


自然は時に冷酷だけど、こんな澄み切った青空も降り注いでくれるから。
せめてこの青空が、傷付いた人の心に寄り添うように。
私みたいに、ひとりぼっちにならないように。
誰かのぬくもりが、あなたを包むように。

今必要なのは、こんなふわふわした精神論なんかじゃなくて、誰かの確かな腕で、確かな力だけれど。
私のこのnoteを読んでる人は、ほとんどいないから。
今日掲載予定だった記事の代わりに、今の気持ちを、そっと残しておきます。

どうか、1日も早く、日常が戻るように。青空が、寄り添うように。


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主にフィギュアスケートの話題を熱く語り続けるブログ「うさぎパイナップル」をはてなブログにて更新しております。2016年9月より1000日間毎日更新しておりましたが、現在は週5、6回ペースで更新中。体験記やイベントレポート、マニアな趣味の話などは基本的にこちらに掲載する予定です。お気軽に遊びに来てくださいね。

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