黒くて小さな丸いもの

3歳になった息子の手をひいて、多摩川まで散歩に行ったときのことだ。 アスファルトで舗装されたサイクリングロードの上に、黒くて小さな丸いものが落ちていた。 当時、「石」が好きで、つるつるの石、ザラザラの石、色のきれいな石、固い石など、いろんな種類の石を見つけてきては宝物のように集めていた息子は、その黒くて小さな丸いものをじっと見つめてから、つまみ上げようとした。 しかし、その黒くて小さな丸いものは、今まで見てきた石と何かがちがうようだった。まず、触り心地が柔らかそうで、ツヤツヤしている。そして、ずっと見ていると、微妙に動いたような気がした。 よく見てみると、黒い表面に茶色っぽい丸い点がある。そんな不思議な石は見たことがなかったにちがいない。息子はそこから一歩も動こうとしない。しゃがみこんで見ている。私も諦めて、土手に座り込んだ。 石をじっと見つめている息子、をじっと見つめる私。20分は経った頃だろうか。その石は突如、二つに割れて、空に飛んでいってしまった。 その黒くて小さな丸いものは、七星てんとう虫だったのだ。 それ以来、息子が虫好きになって、多摩川であみを翻しながらバッタを採ったり、早朝に友達のお父さんと採ってきたカブト虫をマンションのベランダで飼うようになったのは自然のなりゆきというものだろう。私も幼少時、虫が大好きだったし。 それにしても、3歳の息子の、時間が止まったような「時間」は今でも私の頭から離れない。その時に来ていた赤と黒のトレーナーが、てんとう虫と一緒になって、写真のように鮮やかな思い出として残っている。 🐞

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