『殺しの左腕にマリッジリング』-5- Roman Holiday
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(前回のあらすじ)
イオリ:壊れた脚を応急処置してもらった。家に帰ってからサイバネ屋に行こう。その後はその後で考える。服はボロボロ。
アンジェ:イオリの脚を応急処置した。サイバネ屋の後はイオリと一緒に家に帰って結婚ですよ。服は白と青の高級ワンピース。
謎のガトリング教団:復讐だー!ヒャッハー!
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「あ゛ー、やっと着いた」
部屋に入るなり、イオリは左腕を隠すため纏っていたボロ布を放り出す。
ネオハマ繁華街からやや外れた旧市街の細い雑居ビル、その一室がイオリの部屋だ。
「まあ、予想はしてましたが、ええ……」
続いて部屋に入ったアンジェは、散らかり放題の部屋を見渡しため息をつく。
「へえへえ、すいませんね。お嬢様を汚い部屋にお連れして。ほら」
イオリがアンジェに投げ渡したのは着古したキャメル色のフライトジャケットだ。
「何です?」
「お前目立つんだよ。それ着てりゃ多少はマシだろ。誘拐犯扱いはもう十分だ」
然り。この家に辿り着くまでに、すれ違う人には奇異の目で見られ、先ほどはビルの前にいた大家に遂に誘拐に手を出したかと疑われた。ボロボロの格好をした柄の悪い男と明らかに育ちの良いお嬢様が並んでいれば無理もないことではあるのだが。
アンジェは受け取ったフライトジャケットに顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
「これ……」
「一番小せえんだよそれが。我慢しろ」
ジーンズと赤い革ジャンに着替えたイオリが言われてもいない抗議に反論する。目立つ義手を隠すため、左手だけは黒手袋だ。
「ふふ、じゃあ仕方ないですね。着てあげます」
「……おう」
「?何か?」
「いや、何でもねえ」
先に立って部屋を出つつイオリは考える。言ってやるべきだろうか。お前クールぶってるけど自分で思ってるより感情ダダ漏れだぞ、と。
そんなことを考えながら振り向くと、白青のワンピースの上からフライトジャケットを羽織ったアンジェがついてきた。スマートなワンピースとぶかぶかのフライトジャケットはアンバランスだが、不思議とそれがマッチしている。
「何ですか。あなたが着ろと言ったんでしょう?」
「いや、あーーー、意外と似合うと思ってな」
「本当ですか?」
「本当だ」
「……」
「……」
見つめ合うことしばし。何かを納得したアンジェはご機嫌にイオリの手を取って歩き出した。
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数時間後、イオリの部屋は、何もかも吹き飛ばされることになる。
>>>続く>>>
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